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ガブリアルノ 3
ガブリアルノは自分の私財からスーラン専用に小さなローブと魔術服を与え、多忙の中時間を見つけては顔を出しに行っていた。
スーランは日中の殆どを部屋で過ごしながら魔術と薬草、薬学の本を片っ端から制覇していった。数字も必要だと判断しある程度学んだらしく、指を使うことはなくなっていた。
数カ月経つ頃には寮長の報告から人族でまだ十歳、小さなローブに身を包まれたスーランに構いたい寮の者やそこに住んでいる寮生から可愛がられていた。
スーランの行動範囲は寮内とそこの庭の小さな一画だけ。いつの間にか花壇の一部を薬草に置き換えて栽培しており、庭で一人魔術を試しているのを寮長や寮生が気になってあれこれ教え、それらを全て吸収させながらずっと飽きずに学んでいた。
街に出たいとか何か欲しいとスーランはただの一度も言わず、ガブリアルノが欲しいものはあるかと尋ねた時に唯一望んできたことは『薬草の苗が欲しい』だった。
ガブリアルノのお気に入りと言われてもそれを鼻にかける以前に気にも留めておらず、興味は魔術と薬の精製のみ。
生活能力はほぼ無いらしく寮長始め寮員、更には寮生までもが手を出し始めるといった異様な状況に、ガブリアルノはやはり自分の直感の気紛れは間違っていなかったと確信した。
それが実を結んだのはスーランが魔術隊の試験を受ける数ヶ月前に寮長からの定期報告で読んだ、番避けの薬を完成させてしまったという仰天の内容であった。
番避けの薬は現存すらまだ形になっていないもので、獣人の人口が多いバロアス国では必要ないものと判断されており放置状態になっていた薬だ。
本や周りの人から学んでいたスーランは、そのことに疑問を持ち元の薬の内容を聞きながら独学であれこれ試していたらしく、先日まともなのが出来たと寮長に見せたという。
これには流石のガブリアルノも驚き、スーランに会いに行ったところ言われた言葉に驚愕した。
「人族にとって番って感覚がわからないから、私からしたら迷惑。急に知らない人から番だって言われて攫われたり好き勝手されたり。今まで築いてきた周りを攻撃したり。良いこと何も無い。番との出逢いを望む人は良いけど私は絶対に嫌だったから頑張って作った」
獣人のガブリアルノからすると目から鱗の意見であった。
番同士は幸せになれると当たり前のように思っていた感覚が根底から覆されたのだ。そして己の偏った考えを改めさせてくれる機会にもなった。
一応治療魔術師に調べさせてみると効果はほぼ完璧に近いものだと驚嘆していた。
スーランは大きな欠伸をしながら「まだまだ改善の余地ある。効果が強過ぎて飲むの止めても持続するから。そこの調整がまだまだ」ともう研究者そのものの発言をしていたのだ。
そしてスーランは魔術隊の試験で過去最高得点を叩き出した。その反面相変わらずそれ以外に興味が無く、怠惰なまま生活能力が上がることも無く。
専売特許として登録された番避けの薬に関しての褒章も「面倒」の一言で辞退するなど破天荒な行動はずっと変わらなかった。
その後も避妊薬の改善や治療薬の効果向上など次々に能力を開花させ、膨大な魔力量を持つスーランは治療魔術師としても有能で、繊細な魔力を巧みに操り丁寧な治療を施していた。
そしていつの間にか性交を覚えており、ガブリアルノが焦って相手は誰だと問い詰めても「その辺の年上の誰か。魔力もらえるし気持ちも良いから一石二鳥」と、想像を斜め方向に超えた答えが返ってきて唖然とした。
更には「避妊薬飲んでるから問題無し」と宣ったのだった。
ガブリアルノには番絆が居た。
小さい頃から側に居た一角獣傘下の乳母の娘で、王宮に侍女として登城したその日。ガブリアルノは今までにない高揚と咆哮したくなるほどの番との出逢いに歓喜に包まれた。
当然彼女も一角獣の傘下。王族は他の種族の血を混ぜることはご法度となっている為、迎えるとしても同族か人族から選ぶことになる。
ガブリアルノの番が同じ種族であることに周りは大いに喜び盛大に祝福された。
番絆の相手、リュリーノとはガブリアルノが二十歳の時に婚姻し、翌年には直ぐに双子の王子が生まれ、二十三歳の時には第三王子も生まれバロアス国の今後は安泰と言われた。
王妃であるリュリーノはただの一度も公の前に姿を現したことはない。
それは一角獣の習性によるものだ。
一角獣は唯一と定めた相手に対しては、誰の目にも触れさせず、世間から遮断させ、番だけの為に作った箱庭で囲い込む習性がある。
リュリーノは一角獣の傘下であり、姿かたちも麗しく長く淡い金髪の毛先は水色だ。所作も話し方も行動全てにおいても完璧な為、ガブリアルノは何が何でも外から出したくなかった。
そんな一角獣特有の習性を理解していたリュリーノは嫌な顔一つせずに「私も同じ気持ちだから。それに王妃としての責務がないなんて、ある意味最高ね」なんて微笑みながら言ってくれることでガブリアルノの精神は安定を保たれ、国王を継承してからも賢王としてバロアス国を繁栄させた。
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