余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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ガブリアルノ 7




スーランを抱えながら歩く表情の無いガブリアルノに通りすがる者達は何も声を掛けられる雰囲気ではない。

ガブリアルノは近衛騎士の一人に顔を拭く布と盥、キリウが来たら通せとだけ伝え一番奥にある貴賓室の一つに入った。

スーランを寝台にそっと寝かせたガブリアルノは、騎士が持ってきた盥の水に布を浸けて絞り血の残っていた口元を拭う。

何度拭ってもいつものようにぱかりと口を開けることはなかった。

口の閉じてない涎を垂らすスーランが良い。


髪を撫で額に、頬に触れると温かい。
首元に指を当てるとゆっくりと脈を打っている。
仮死状態なので体温は辛うじて保たれたままなのだろう。ガブリアルノは掛布をかける。その間もスーランは全く動かない。口も開かない。

ガブリアルノの表情は完全に消えていた。


どれくらいそのままで居たのだろう。扉がノックされてキリウが入室してきた。

顎を動かし用意しておいたガブリアルノの隣の席に座らせる。

キリウはじっとスーランを見ている。いつも穏やかな貴族特有の仮面を被る表情は全く無く、虚ろのままの瞳からまた雫が溢れ出ている。


「…父上は魔力薬投与によって血色が戻り始めました。ホーイェンさんが、…来て、大まかに概要を説明して、…とてもショックを…受けていた、けど後は任せろと、目を覚ましたら教えると言って、くれたのでこちらに」
「そうか」


ガブリアルノはキリウを見つめる。


「話せなくてすまなかったな」


その言葉にキリウはスーランを見たまま首を横に振った。


「いえ。…どうせスーランさんが褒章を盾に約束したのではないかと―――ふふ、どこまでも自分勝手でスーランさんらし―――っ…」


またキリウの瞳から滂沱の涙が流れる。

公爵家嫡男で見目麗しいキリウはいつも無害で優しそうな顔をしながらも、常に周りを警戒してるような記憶で大人びた青年だった。

それが今はどうだ。
年の離れた弟のようにスーランに無邪気に笑い、慕い、世話を焼き、誰よりもバウデンとの期間限定婚姻を喜んでいた。


「―――父上になんて伝えれば良いのか」
「…そうだな」
「僕から見ても、…きっと国王様から見ても」
「愛しい相手、だな」
「…ですよね―――――なのに…」


それでも言わなければならない。
これはスーランの病を言わないと約束をしたガブリアルノの役目だ。


「スーランと褒章の条件として約束した私の役目だ。私はこれから状況把握の確認に離れなければならない。バウデンが起きたら直ぐに知らせてくれ」
「…承知しました」


ガブリアルノはキリウの肩を叩いてから貴賓室から出た。

その後、ガブリアルノは『国王』として速やかにするべきことをこなしていく。

辺りも暗くなり、ギュスターから入口付近での騒ぎは特殊部隊の迅速な行動により、周りには漏れず街も王宮内も滞りなく周年式典を楽しんだと報告に一つ頷く。

そしてギュスター始め、ベイガーとカルロにバウデンの安否とスーランの状況を説明した。

二人は愕然としてショックを受けており、ギュスターは理解はしていたが珍しくぎゅっと眉を潜めて暫く目を閉じていた。

そして夜も更けた頃、バウデンの目が覚めたとキリウ経由で近衛兵が伝えに来て、ガブリアルノは一つ溜息を吐いてから医務室に向かう。

仮死状態のスーランの状態を見る限り万が一の復活も無いだろう。それは器そのものが既に消失している可能性が大きいからだ。

そこでガブリアルノはふと足を止めた。


(…もし、番であれば)


リュリーノが死亡した時、ガブリアルノはとある国宝を試した。一縷の望みを賭けて。

それは結局何も効果を齎さなかったが、もしリュリーノがまだ亡くなる前であれば可能性はあった。

今のスーランは仮死状態だ。
可能性は無くはない。

でもそんなことが有り得るほど世の中は上手く出来ていない。

ガブリアルノは医務室に重い足を動かして向かった。





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