余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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バウデン 1





バウデンが初めてスーランに出逢ったのは魔術隊の就任式。その時の印象は『本当に番避けの薬を作った人物なのか』だった。




バロアス王国では国を基盤として支える機関が存在し、その中でも表立って動く部隊は騎士隊、特殊部隊、魔術隊の三つである。

十六歳になると受けられる筆記と実技試験に合格すると、晴れて一員として国に貢献していく為に日々訓練や護衛や任務、遠征に研究などに従事していく。

バウデン・ホークルは三大公爵の一つ、鷹族でありホークル公爵家の当主である。

元魔術隊統括総帥だった父はバウデンが成長するとさっさと引退して番絆の母と領地に引っ込んでしまった。

二十六歳という若さで魔術隊総帥になったバウデンは元々家系の血筋か統率力能力もあり、魔力量も多く魔力も攻撃魔術に特化していた為、難なく父親の後を引き継いだ。

獣人は魔力を体内に秘め超人的な能力を発揮する者が多い中、体外に魔力を放出できる獣人はそう多くない。個人の能力もあるが、バウデン始め攻撃魔術に特化した鷹族のホークル公爵家、防御魔術に特化した狼族のウルフィリア侯爵家、そして治療魔術に特化した梟族の伯爵家に多く見られている。そしてそれらを全て統括するのがバウデンだ。


その若さで統括総帥となったバウデンにも六歳になる息子が居るが母親は四年前に流行り病で亡くなってしまっていた。

元々バウデンは魔術が一等好きでいつも魔術の本と研究、訓練に明け暮れていた。鷹族の血筋も関係しているのだろうが、興味がそこ一本に全振りしていたといっても過言ではない。そんな偏り全開のバウデンと婚姻したのは、鷹族の傘下でありバウデンと同じくらいの魔術おたくであったテレサだった。

バウデンのレモン色の瞳は冷ややかであるが、少年の頃は格好良いより美しいと評されるくらいに顔立ちが整っていたが歳を重ねるにつれ、精悍さが増し常に冷静に判断を下し、周囲を把握し淡々とこなすという優美なのに雄らしい美丈夫に成長した。

それなのに異性にとんと興味がなく、何とかきっかけを作ろうと周りが手を拱いているうちに、幼い頃から共に居て繁縁を繋いでいたテレサと十九歳の若さで婚姻してしまったのだ。

というのも、それ以前から魔術に専念したいのに周りがバウデンを持て囃すような環境にうんざりしていたことと、同時にテレサも華やかでは無いが端正な整った顔で人気があったそうで、いつも魔術の話で盛り上がるはずが愚痴大会となり、結果的に利害が一致して婚姻してしまおうという流れになってしまったわけである。

とはいえ異性としてよりも人柄で決めたので婚姻はしても、最低限の営みはあったが寝室はそれぞれの部屋で寝て、閨事は都度どちらかの部屋で行った。夫婦の寝室も一度も使ったことはなく、テレサは「繁縁同士で何か居辛い」ということで一度も使ったことはない。そしてキリウが生まれてからはお互い務めは果たしたとばかりに一切性交はしなくなった。


それでも繁縁同士仲は良く、夫婦のような仲睦まじさは無くてもキリウを可愛がり家族として幸せに暮らしていた。

だがキリウが二歳になる頃、巷で流行った病で元々あまり体が強くなかったテレサが重篤化してしまった。ギリギリまで研究に専念していた彼女は気付いた時には最早手遅れになっていた。

流石のバウデンも仕事を休みテレサの看病をしていたのだが。


「ここにずっと居られても逆に私が居苦しいから止めてくれる?私の併発した病を治せるような研究してくれた方が全然まし」


彼女は最期まで魔術おたくであった。
バウデンは目を潤ませながらも「もう有休は取ってしまったからな。明後日からそうする」とだけ返した。

その日の夜容態が急変し、テレサの意識が朦朧とし始めた時に言われたこと。


「…魔術おたくの貴方だけど、…もし今後ちゃんと……そういう人に…出逢えたら、是が非でも……突き進んでよ。私の為とか…死ぬほど迷惑――――もうそうなるけど」


ふふっと力のない声でテレサが呟いた。

バウデンは静かに涙を流しながら「分かった」とだけ返し頭を撫でながら「ゆっくり休め」と伝えた半刻後テレサは息を引き取った。

人として好んだ相手を失った悲しみは大きかったが、バウデンは狂乱することもなく、だが表情はその日からあまり動かなくなった。

それからバウデンは仕事以外は育児を率先して行い、周りの協力もありキリウはすくすくと元気に育っていった。

それ以降もバウデンが異性に興味を持つことはなかった。新しい伴侶を得ることもなく、恋人も作らず性欲だけ発散する娼館など殆ど行かなかった。性欲自体の欲も元々薄いようで、自慰だけで事足りたくらいだった。

ただ、戦争や魔力を大量に使ったあとはどうしても滾るので、その時だけは娼館へ赴いていた程度で十分だった。



バウデンが統括総帥になる前、良く父親や国王ガブリアルノから人族の少女の話は聞いていた。

何でもガブリアルノが孤児苑から気紛れで王宮に連れて帰り、特例で寮に住まわせ魔術隊の試験を受けられるまで面倒を見るという何とも珍しい話を聞いたのだ。

ガブリアルノの気紛れは定期的にあるのだが、自らアフターケアをすることは稀だ。


「バウデンには合わないかなぁ。でも以外にぴったりハマることも有り得るかも?」


ガブリアルノのお気に入りであり、連れてこられる前は本だけで魔術を独学で学び、寮に入ってからはそこから殆ど出ない変わり者。

まだ魔術師でも魔術隊にも入っていない少女が『番避けの薬』を開発したなんて耳にした時はそんな訳あるかと誰もが思っていた。

だがガブリアルノの指示でホーイェン始め数名の精鋭の治療薬師が鑑定したところ、今まで名ばかりの殆ど意味を成していなかった薬とは別格レベルのとんでもない効力の薬だと聞いたのだから驚愕するしかない。


僅か十五歳でしっかりとした効力のある番避けの薬を精製した人族の元孤児。バウデンは会ったことないスーランと名前だけしか知らなかったが、統括総帥一年目で多忙の日々を送っていた間でもたまに耳に入る名前が僅かに頭の片隅に残っていた。





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