余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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バウデン 2






バウデンが二十七歳、スーランが十六歳の時。
スーランは無事に、いや魔術隊の試験で過去最高得点を叩き出した。それなのに優秀生としての挨拶は面倒だと断ったらしい。

そんな彼女を就任式で初めて見た。

長そうな琥珀色の髪は適当に纏めて後ろで辛うじて団子状にしてあり、背筋は丸く人族なので余計に小さく見える。

藍色の垂れ目は半分程も開いておらず、就任式の間何度も欠伸をしている姿にバウデンは薬を開発した人物とはますます思えず首を捻るばかりだった。

動き全体が緩慢で周りの同僚は今後の未来に生き生きとしている姿と対照にスーランは就任式そのものが面倒だと言わんばかりにつまらなそうに、そして間違いなく途中から眠っていたことは確実だった。

想像以上と言うか予想を遥かに超えたスーランにバウデンは治療魔術師となった彼女の状態を見ておくよう治療魔術長のホーイェンに伝えておいた。

統括総帥とはいえ、基本攻撃魔術部門に属するバウデンはスーランに関わることは殆どなく、たまに食堂でぼーっとしながら、ランチプレートを突いている姿くらいしか見ていなかった。

その後ホーイェンからの定期的な報告で「…スーランは、逸材…魔力の多さ、魔術の技術、薬師としての、技能、全て一流」との同じく魔術おたくの彼にすら絶賛されていることにバウデンは首を傾げっぱなしだった。

いつものんびりしていてやる気がなさそうな怠惰なイメージではあったが、ホーイェンの言う通り所属してから次々に番避けの薬の調整や、現存している治療薬の効能上昇、治療魔術を施す作業の短縮など功績はどんどん耳に入るようになる。

何でも精製時と治療魔術をしている時はいつも半分しか開いていない瞳がぱっちり開き、人が変わったようになるらしい。

バウデンとしては幾らガブリアルノのお気に入りだとしても魔術隊お荷物にならなければ良い認識で自らそれを確認しに見に行くことはなかった。

しかしホーイェンに定期的に報告させることは何故かずっと続けさせていた。

それから数カ月すると、毎月行われる魔術隊の全体会議にホーイェンがスーランを連れて来るようになった。連れてこられた感満載の気怠そうなスーランの表情にバウデンとしては何故ホーイェンがそうするのかが分からず、ホーイェンがこそりとスーランに話しかけていても、頷くだけだったり首を振るだけだったり、どっちでも良い風に肩を諌めたりと何しに来ているのかと不思議であったが、ホーイェンが熱心に連れてきていた理由が更に数カ月後に知ることとなった。


番避けの薬の話題が上がり、それに対して物を申した者にそれまでぼーっとしてたスーランが食いついたのだ。

相手は爵位のある獣人魔術師で番避けの薬自体に懸念を示し、人族が認識できない状態で番に見つけてもらうことは誉れではないか、死ぬまで愛され有り難いものではないかと言った瞬間、スーランがスッと挙手をし立ち上がったのだ。


「お言葉ですが、貴方は人族になったことがあるのでしょうか」
「は?」
「何を以て番に出逢った人族は皆幸せなのだとおっしゃいますか」
「それは我々獣人は番に常に寄り添い、誰よりも何よりも番だけを愛し一番に考えるからだよ」
「では質問を変えます。貴方が人族だと仮定してください」
「…何?」


スーランはいつもの気怠そうな雰囲気と打って変わって、姿勢を伸ばし藍色の瞳は開き凛とした態度で相手の魔術師を見据える。


「貴方は人族で番の本能を何も知りません。出会っても感知することすらできません。そんな貴方はとても好きな人が居ました。将来は番縁として共に居たいと思っていた時に、全く、見も知らない、どこの誰かもわからない、異性が。私は貴方の番だから私と番絆しましょう。今までの好きな相手とは別れて全てを捨て、沢山私が死ぬまで寄り添って貴方を愛しますので有り難いと思って誇ってくださいね。――――これが幸せで喜べると言うことですね?」
「…っ、それはっ――」
「貴方が今まで好きだった、又は親しくしていた人を、私が全て愛すのだから、私以上に大切なものは何も要らないでしょと言われ、はいわかりましたと答えるんですね?時にはやりがいのある魔術師の仕事も異性と会うから我慢出来ないので辞めてずっと家に居てと言われても従うんですね?」
「…っ」
「若しくは住み慣れた国では無い隣国の番の人から言われても、番だから来てくれるよねと今までの自分の生活を全て捨てて大喜びで付いて行くんですよね?」
「…」
「まあ後半は偏り過ぎましたが、番の相手によってはそういう愛し方や求め方をする人がいることは諸々調査済みです。勿論全てではありませんが」


今までの彼女は何だったというくらいの相手に隙を与えないスーランの口調にバウデンだけならず、誰もが驚き会議室全体がしんとしていた。





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