61 / 110
バウデン 2
バウデンが二十七歳、スーランが十六歳の時。
スーランは無事に、いや魔術隊の試験で過去最高得点を叩き出した。それなのに優秀生としての挨拶は面倒だと断ったらしい。
そんな彼女を就任式で初めて見た。
長そうな琥珀色の髪は適当に纏めて後ろで辛うじて団子状にしてあり、背筋は丸く人族なので余計に小さく見える。
藍色の垂れ目は半分程も開いておらず、就任式の間何度も欠伸をしている姿にバウデンは薬を開発した人物とはますます思えず首を捻るばかりだった。
動き全体が緩慢で周りの同僚は今後の未来に生き生きとしている姿と対照にスーランは就任式そのものが面倒だと言わんばかりにつまらなそうに、そして間違いなく途中から眠っていたことは確実だった。
想像以上と言うか予想を遥かに超えたスーランにバウデンは治療魔術師となった彼女の状態を見ておくよう治療魔術長のホーイェンに伝えておいた。
統括総帥とはいえ、基本攻撃魔術部門に属するバウデンはスーランに関わることは殆どなく、たまに食堂でぼーっとしながら、ランチプレートを突いている姿くらいしか見ていなかった。
その後ホーイェンからの定期的な報告で「…スーランは、逸材…魔力の多さ、魔術の技術、薬師としての、技能、全て一流」との同じく魔術おたくの彼にすら絶賛されていることにバウデンは首を傾げっぱなしだった。
いつものんびりしていてやる気がなさそうな怠惰なイメージではあったが、ホーイェンの言う通り所属してから次々に番避けの薬の調整や、現存している治療薬の効能上昇、治療魔術を施す作業の短縮など功績はどんどん耳に入るようになる。
何でも精製時と治療魔術をしている時はいつも半分しか開いていない瞳がぱっちり開き、人が変わったようになるらしい。
バウデンとしては幾らガブリアルノのお気に入りだとしても魔術隊お荷物にならなければ良い認識で自らそれを確認しに見に行くことはなかった。
しかしホーイェンに定期的に報告させることは何故かずっと続けさせていた。
それから数カ月すると、毎月行われる魔術隊の全体会議にホーイェンがスーランを連れて来るようになった。連れてこられた感満載の気怠そうなスーランの表情にバウデンとしては何故ホーイェンがそうするのかが分からず、ホーイェンがこそりとスーランに話しかけていても、頷くだけだったり首を振るだけだったり、どっちでも良い風に肩を諌めたりと何しに来ているのかと不思議であったが、ホーイェンが熱心に連れてきていた理由が更に数カ月後に知ることとなった。
番避けの薬の話題が上がり、それに対して物を申した者にそれまでぼーっとしてたスーランが食いついたのだ。
相手は爵位のある獣人魔術師で番避けの薬自体に懸念を示し、人族が認識できない状態で番に見つけてもらうことは誉れではないか、死ぬまで愛され有り難いものではないかと言った瞬間、スーランがスッと挙手をし立ち上がったのだ。
「お言葉ですが、貴方は人族になったことがあるのでしょうか」
「は?」
「何を以て番に出逢った人族は皆幸せなのだとおっしゃいますか」
「それは我々獣人は番に常に寄り添い、誰よりも何よりも番だけを愛し一番に考えるからだよ」
「では質問を変えます。貴方が人族だと仮定してください」
「…何?」
スーランはいつもの気怠そうな雰囲気と打って変わって、姿勢を伸ばし藍色の瞳は開き凛とした態度で相手の魔術師を見据える。
「貴方は人族で番の本能を何も知りません。出会っても感知することすらできません。そんな貴方はとても好きな人が居ました。将来は番縁として共に居たいと思っていた時に、全く、見も知らない、どこの誰かもわからない、異性が。私は貴方の番だから私と番絆しましょう。今までの好きな相手とは別れて全てを捨て、沢山私が死ぬまで寄り添って貴方を愛しますので有り難いと思って誇ってくださいね。――――これが幸せで喜べると言うことですね?」
「…っ、それはっ――」
「貴方が今まで好きだった、又は親しくしていた人を、私が全て愛すのだから、私以上に大切なものは何も要らないでしょと言われ、はいわかりましたと答えるんですね?時にはやりがいのある魔術師の仕事も異性と会うから我慢出来ないので辞めてずっと家に居てと言われても従うんですね?」
「…っ」
「若しくは住み慣れた国では無い隣国の番の人から言われても、番だから来てくれるよねと今までの自分の生活を全て捨てて大喜びで付いて行くんですよね?」
「…」
「まあ後半は偏り過ぎましたが、番の相手によってはそういう愛し方や求め方をする人がいることは諸々調査済みです。勿論全てではありませんが」
今までの彼女は何だったというくらいの相手に隙を与えないスーランの口調にバウデンだけならず、誰もが驚き会議室全体がしんとしていた。
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした
由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は――
年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。
「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」
人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。
最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに――
「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」
不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。
これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
好きな人が嬢を身請けするのが辛くて逃げたら捕まりました~黒服の私は執着騎士に囲われる~
こじまき
恋愛
騎士が集う高級酒場「夜香楼」で女性黒服として働くソフィアは、客である寡黙な騎士ゼインに恋していた。けれど彼が指名するのはいつも人気花嬢イサナで、身請けも近いと予想されていた。
ソフィアは、叶わない想いにと嫉妬に耐えきれず、衝動的に店を去る。
もう二度と会うことはないはずだったのに、身請けした嬢と幸せに暮らしているはずの彼が追ってきて――
「お前への愛は焼き印のように刻まれていて、もう消えない」
――失恋したと思い込んで逃げた黒服が、執着系騎士様に捕まって囲われる話。
※小説家になろうにも投稿しています
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。