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バウデン 12
しおりを挟む「――――――くれてやる。全力でいくよ。一緒に戦おう」
耳朶に優しく響く声。
そして唇に温かな感触。
バウデンの心から慕う相手の匂い。
スーランだ。
意識混濁している中でも透き通るようにスーランの声が染み渡り、直後バウデンの胸から巣食っていた呪いが一気に外に流れていった。
そして胸元から感じる今までにない僅かな狂おしくなるような唯一の魔力が浸透してくる。
この機を逃すわけにはいかないとバウデンは残った魔力、そして装飾品から足される魔力を使って周囲に蔓延っている呪いを順に駆逐していく。
物凄い勢いでどんどん吸い取られていく呪い。
ふとバウデンはスーランは大丈夫なのかと一抹の不安を抱く。
そしてバウデンの中の呪いが全て除去された時、するりと胸元からバウデンにとって唯一の甘く愛しい魔力が離れていってしまった。
(……何故離れる?…お前は大丈夫なのか―――――スーラン)
バウデンは抑え難い焦燥感が溢れ何とか意識を覚まそうと努めるが、酷使した心身には抗えずに意識が深く沈んでいった。
起きたら直ぐにスーランの元へ行こうと思いながら。
*************************
意識が浮上し、段々とはっきりしてくる。
「――――っ、…―――ーラン」
「っ…キリウを呼んでこい。急げ」
ホーイェンのつっかえない言葉が耳に届く。
バウデンはゆっくりと瞼を上げ、ここが王宮内の医務室だと理解する。
「…総帥、目が覚め―――」
「スーランはどこだ」
「…」
バウデンが呪いに苦しんでいる時、耳元で聞こえた声、唇に触れた柔らかな感触、そして胸元から吸い取っていった狂おしいほどのバウデンの唯一無二の魔力。
スーランしか居ない。
尋ねたホーイェンは何故かすぐに答えない。
「…ホーイェン、その後の状況は」
「…周囲を再確認、呪いの残滓は全て駆逐し臨時で統括していたリグリアーノ王子から状況を聞いた後にコーネインと共に三部隊全てと連携。国王陛下はご無事です。王宮内箝口令、そして王宮、街共に問題なく式典を終えてます」
「私が倒れてからどれくらい経っている」
「半日弱」
「スーランはどこにいる」
他はすらすら話すのに、何故かホーイェンはそこだけ答えない。
「っ、父上!」
そこに駆けつけてきたキリウを見る。
「キリウ」
「…良かったです、無事で」
「キリウ、―――」
「まずは点滴を抜かないと。魔力量に問題はないですか」
「…ああ。ほぼ戻っている」
「…良かった」
そう呟きながらバウデンの点滴を外すキリウ。
何故か目が合わない。
そして目元が、山吹色の瞳が真っ赤だ。
その意味とは。
「キリウ。スーランはどこにいる」
その言葉に点滴を片付けていたキリウの動作がぴたっと止まる。
心の奥底から滲み出るような焦燥感とスーランの現状を何も言わない二人にバウデンは苛立つ。
「――――キリ、」
「一番奥の貴賓室にいるよ」
その声にバウデンが扉の方向に目を向けると、ガブリアルノが立っていた。
「…ご無事で何よりです」
「うん、お陰様で。迅速な対応に感謝する――――ちょっと話があるんだ」
「それを聞く前にまずスーランに―――」
「スーランのことだから」
その言葉に先ほどの焦燥が色濃くなり、バウデンの心臓が嫌な音をたてる。
「もしかして、また枯渇に?すぐに――――」
「バウデン」
その声音は『国王』の声でなく『盟友』への話し方。
バウデンはガブリアルノの表情を良く観察する。
僅かに瞳が充血している。
その意味は。
「魔力漸減症」
「―――――何?」
「スーランは魔力漸減症に罹っていた」
とんでもない衝撃的な言葉にバウデンは割れんばかりに目を見開いた。
「スーランの半年間の限定婚姻の理由がそれだ。今日の時点で余命は残り三ヶ月を切っていた」
恐ろしいほどにバウデンの心臓が速なり、あまりの非情な事実に一瞬頭が真っ白になった。
「――――スーランはバウデンが呪いによって、苦戦していた時に助けられるのは私だけだと、……バウデンと共に呪いに挑んだ」
それは分かっている。あの魔力はスーランのもので―――――唯一の。
そこでバウデンはゆっくりと瞬きを一つした。
何故スーランの魔力をバウデンは唯一無二だと断言したのか。
今まで何度も性交してもスーランの可愛い粒を弄んでも、蜜口を啜っても。
魔力に変換された時甘美ではあっても、唯一と断言したことは一度もない。
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