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バウデン 13
「魔力の器はその時点で約四分の一。スーランは全てを使ってお前と共に呪いに打ち勝った。―――――――残りの命を使って」
「!!!」
「現時点で仮死状態。そして恐らく魔力の器は――――消滅している」
バウデンの脳内が全てを遮断する。
ガブリアルノからの言葉を全て否定したくなる。
体が、心が、奥底から震え出す。
同時に。
バウデンが何度も無意識にスーランを唯一と定めた理由は。
今までのスーランとの生活全てを鑑みてのことは分かっている。
だがそれ以上に沸き起こる不確かな、だが確実に溢れ出すこの感情は何だ。
己の奥底でそう断言する理由は何だ。
それが導き出す答えとは。
「キリウ」
「……はい」
キリウに目を向けると、いつの間にかギュスターやベイガー、カルロ、リグリアーノまでが医務室に揃っていた。
「―――スーランは、いつから番避けの薬を飲んでなかった?」
「…え、何で知っ――」
「答えろ」
「式典の前日の朝で、式典のあとに取りに行くって―――――」
バウデンは医務室を飛び出した。
スーランは最近まで番避けの薬の効果の調整をしていた。大体飲まなくて二日以内で切れるのだと言っていた。
式典が終わり日が変わっている。
効果が薄れ始めていると予想するのなら、…滲み出していたのだとしたら。
その答えは。
バウデンは恐ろしい速さで貴賓室の一番奥まで走る。
近づくにつれて感覚と匂いにバウデンの予想が真実となる。
「っ、と、統括―――」
「退け!!」
驚く近衛兵が直ぐ様避けて、バウデンは扉を開けた。
貴賓室の寝台にスーランは居た。
真っ直ぐ上を向きながらお行儀良く寝台に横たわっていた。
ふらふらと歩きながらバウデンはスーランの元に進む。
だいたいいつも寝相があまりよろしくないと言いながら左右に動き大抵は横を向いて寝ているのだ。バウデンにぴったりとくっついて、満足そうにふうと溜息を吐いて。
そして何よりも。
ぴったりと口を閉じている。
いつもの締まりのない口ではない。
まるで二度と開かないような。
そして耳には付けたことがないと言っていた耳飾り。
バウデンが贈った耳飾りを付けている。
スーランの瞳と同じ藍色の魔石の耳飾りは、魔力を使い切って色味はくすんでしまっていた。
バウデンと共に呪いに挑んでくれたのだ。
バウデンの贈った耳飾りを付けて戦ってくれた。
バウデンは目を見開いたまま、全身が震える。
胸から、いや心から、全身全ての神経が訴える。
番であると。
スーランのすぐ傍に膝をついたバウデンは嗤えるくらいに震えた手を伸ばしスーランの首元に触れる。
微かに温かい。
微かにしか温かくない。
脈動は。
徐脈だ。
「………スー、ラン?」
しっかりと閉じられた瞼は微動だにしない。
「スーラン…?」
『はいはい』
気怠げな返事が返ってこない。
息をしていないかのように胸は上下すらしていない。
まるで。
まるで、もう死がすぐそこにあるかのように。
「スーラン……スーラン、スーランスーラン……!スーラン!!!」
バウデンは視界が一気に歪み激情に駆られる。
「…ぁぁぁぁあああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!」
咆哮する。
頭の中が狂乱し閃光が迸る。
滂沱の涙が流れる。
そして全身の血が沸騰したように熱くなり、魔力が暴走を始めた。
漸減症になり、理由が明確でない中で分からないながらバウデンとの婚姻を望んだスーラン。
残りの時間をバウデンと過ごそうと思ったその理由は。
人族でも、もし魔力量が膨大だったスーランならば。
無意識に本来の番への何某かの気配を感じたからこその行動だったのか。
スーランの作った番避けの薬が有能過ぎたことでバウデンは一切気づかなかった。
それでもバウデンはスーランにここまで惹かれた。焦がれた。魅了された。
今効力が切れたことでバウデンにとっての唯一の、唯一無二の存在が目の前にいるのに。
死の淵に佇んでいる。
魔力の器は消滅している可能性が高い。
それでも。
まだ身体は死んではいない。
魔力暴走が既に始まったバウデンは即座に全神経を使って、身体中を蔓延る暴れまわる魔力を押さえつける。
(…ここで無駄に減って堪るか……!!!抑えろ!!必要なのはこの後だ…!!)
バウデンは動かぬスーランを見つめながら、己の精神の安定を図る。
「バウデン!」
そこへガブリアルノの叫び声。
そして幾つもの足音。
今思えば医務室に何故国の有事に必要な人物たちが揃っていたのかをバウデンは理解する。
スーランの状態を知ったバウデンが魔力暴走を起こした時に対処する為だったのだろう。だが今は暴走なんぞ起こしている場合ではないのだ。
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