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バウデン 14
「ガブ!すぐに命繋ぎの剣を持って来い!」
「――――何?」
「スーランは俺の番だ!!早くしろ!!!」
ガブリアルノ始め皆がまさかというような驚愕の表情をする中、キリウははっとしながら「…だから薬を飲んだ時間を…」と呟いている。
「だが!あの剣はお前の命を―――――」
「スーランが死んだら、俺が生き続けることは万が一にも無い!狂い死ぬぞ!!!早く持ってきてくれ!!!!!」
強靭な精神と力ずくで暴走を自ら抑えたバウデンはそれだけ叫び治療魔術を展開してスーランの胸に当て始めた。
ガブリアルノが駆け出す足音を確認し、バウデンはスーランの首元の脈を確かめながら少しずつでも浸透させるように治療魔術を施していく。
スーランの身体に治療魔術は浸透はしない。
周りだけを縁取るようにふわりと覆われる程度だ。それでも僅かに脈が動くなら構わない。
スーランの薬の影響はあったが、今思えばいつも頭の片隅に彼女の存在は常にあった。
どこかで気にはしていて、婚姻も突っぱねればどうにでもなっただろうに折れることになり。
共に過ごし身体を重ね、口づけをし、過ぎる快感に驚きながらも、共に触れながら穏やかに眠れることが不思議であった。
だが。
それがどうした。
それが何だ。
番だろうがそうでなかろうが、バウデンは必ずスーランに惹かれていただろう。番だからこそではなく、人となりからスーランを望んだのだ。
スーランと共に過ごすことで心から惹かれ心から欲し、心から望んだのだ。
番なんてものは後付けに過ぎない。
しかし番だったからこそ、この可能性に賭けられる。
その点だけは番であったことに感謝しよう。
「っ、バウデン!」
ガブリアルノが息を切らせながら、持ってきたもの。
命繋ぎの剣。
国宝に定められている美しい漆黒の柄にまるで七色に輝く半透明な剣。
それを知る者は王族と一部の高位貴族のみ。
その昔とある偉大な獣人の魔術師が、番が攻撃され生死を彷徨っている間、以前から思考していた禁呪を無我夢中で唱え、それを短剣に宿して救ったと言われている。
禁呪と呼ばれるそれは当然代償がある。
一つは膨大な魔力量を持つ者。
そしてもう一つ。
己の残りの命を番に分け与えること。
番との命繋ぎは、相手が死んでいない場合限る。
その剣で傷つけ流れた自分の血を口に含み、相手に口移ししながら魔力を放出させ繋がりが見えると命を繋げられると言われている。
スーランの魔力の器は消滅している状態だ。
それでもやらない選択肢はないバウデンはガブリアルノから剣を受け取ると、即座に腕を掻っ切った。
流れ出る血を口にめいっぱい含んでスーランのおとがいを上げて口を開けさせて気道を確保し、バウデンはそのまま口付け中に己の血を押し込んだ。
(頼む…頼む!――――お願いだお願いだお願いだ!!!繋がってくれ!!!!!!)
バウデンは全魔力を総動員させ、自分の想いを全て込めて血をスーランの中に流していく。
溢れた血がスーランの頬を濡らす。口づけで覆っているバウデンの口周りも血だらけのことだろう。
それでも再度熱い腕から流れる血を口に流してから、もう一度スーランに口移しをする。
(スーラン―――――スーラン、戻ってこい!―――俺の命で漸減症も潰えさせてやる!お前の為なら、生かす為なら何でもする!!!戻ってこい…!!!)
バウデンは目を閉じ全神経をスーランとの口、その奥、心臓、そして全身隈無くに望みを賭けて魔力を散布させ、消滅したであろう魔力の器すら再生しろと、これでもかと念じる。
ふわり。
ふわり。ふわり。
バウデンの濃いものとスーランの薄いもの。
スーランの薄い何かがゆっくりと上昇し、バウデンの濃い何かと触れ合う。
共にふわりと浮いていたそれがするりするりと交差し始める。
スーランの薄い微細な何かに対しバウデンの濃い何かはしっかりと逞しい。
それがふわりふわりと絡まり、しゅるりしゅるりと重なり、固まり、一つに融合する。
とく――――とく――――とくとくとく…
弱まっていた一定の鼓動が、脈が、規則的な音に戻っていく。
バウデンは激情に駆られ、心が震え、歓喜に溺れ、幸福過ぎて涙が止まらなくなる。
「――――スーランっ……!」
その声音が喜びであることにガブリアルノは目を見開き、その赤紫の瞳からは一雫。キリウは真っ赤だった山吹色の瞳からまたもや涙が止まらなくなり、他の者もまさかの結末に驚愕しながらも詰めていた息を緩やかに吐いた。
「ガブ…離縁届は即座に破棄してくれ」
届けられた盥の湯に浸した布でスーランの口元を拭いていたバウデンがガブリアルノに伝える。
貴賓室のソファで力尽きたようにだれて座っていたガブリアルノがゆっくりと体を起こす。
「うーん、スーランがなんて言うかなぁ」
「逃げられんし逃さんし離さん。離縁してもすぐに婚姻届を書かせる」
「わーお」
今までのバウデンからは想像できない言葉の数々にガブリアルノが口笛を吹く。
「何だ」
「いやぁ…凄い変わりようだなって」
「勘違いするな。番のことはこの場で知っただけでスーランへの想いは以前から全く変わらん。元々から有ったものを表に出さなかっただけだ」
「まあそれは知っているけど…ねえ」
スーランの口元が綺麗になり、バウデンはその布で自分の口周りを拭いた。随分血が拭き取れたので、さぞかし恐ろしい顔だっただろう。
傍ではキリウがバウデンが命繋ぎの剣で傷つけた箇所を治療魔術で治していた。
「キリウ、ありがとう」
「いえ…いえ、本当に、…本当に良かった」
「ああ」
久しぶりに泣き腫らした子供らしいキリウを見た。大人びて見えるがまだ十八なのだ。
バウデンは久々に頭を軽く撫でてやると照れくさそうにした後にくすりと微笑んだ。
「ふふ。父上、…スーランさん」
キリウの言葉に振り返ると、血色の良くなったスーランが口元を少し開けてすうすうと眠る姿にバウデンはほろりと眉が下がり微笑んだ。
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