余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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ひたすらよしよし 1






深い深い、深淵の底でゆらゆらと揺れているような、体は存在せず意識だけで動いているような感覚に朦朧としながらも、スーランは苦しくも痛くもないが喪失感を感じていた。


遥か遠くで誰かが慟哭し嘆く声が聞こえる。
その声はとても苦しそうで、とても悲しそうで。
スーランは心がぐぐっと切なくなる。
絶望を目の前にしたような咆哮にスーランは揺蕩う意識の中、すぐに傍に行って抱き締めてあげたくなる。




ふと何かが光り意識が上に向く。
深淵の上のずっと上。
遥か上の方から淡く光る何か。

それがそよそよと降りてくる。
何かを探し求めているように。

その光を見たスーランは、もしかしたら自分にもそれがあるのではないかと確信するような感覚になる。

朧気な状態で探してみると降りてくる淡い光よりも、もっとか細くて今にも消えてしまいそうな小さな光を見つけた。

それは朽ちてしまう手前のような、消え去ってしまう脆さがあるのに、何かを求めて彷徨うような様に見えて。

スーランは何となくこの脆弱なものと、上から降りてくるものを会わせてあげたら何とかなるのではないかと閃く。

儚げなそれを意識の中でそっと掬い、上に向けてみる。

すると上で彷徨っていた淡い光が突如強い光を放ち物凄い勢いで下降してきた。

スーランはそれを掲げ引き渡してあげる。

強い光に触れた儚い光は共にくるくると絡まり少しずつ形を変え、一つになる。

何だか良かったねと思ったスーランはその光と共にゆらゆらふわりと浮上していく感覚に陥った。


(――――そろそろお迎えかな。―――――幸せ、――――だったけど、―――でも寂しい、悲しい―――――――会いたいなぁ)


少しずつ温かくなる感覚にスーランは意識が沈む間際までずっと想い繰り返していた。




会いたいなぁ、と。





************************



「――――――――あれ」


ゆっくりと意識が浮上し瞼を上げたスーランは、開口一番おかしいぞと声を出す。

生きている。
どこかの寝台で寝ている。
そして手が温もりに包まれている。


「―――っ、スーラン!」


すぐ傍からスーランの望む声。
スーランが望んでいた人。

視界に入ってきたのは。


「―――――随分泣きましたねぇ。レモン色の綺麗な目が溶けそう」


今まで見たことがないほど目を真っ赤にし顔を歪ませ、少し窶れたバウデンの顔なのだが。


何だ。男前は泣いても男前なのか。


スーランが泣いたら垂れ目が余計に垂れて瞼が腫れ上がって相当不細工だろうに、妬ましい限りだと若干腹が立ちながらも握られていた手を動かしてバウデンの頬を撫でる。

温かい。
その手にバウデンの涙が落ちて流れてくる。


「スーラン……スーラン、スーラン」
「はいはい。聞こえてますよ」
「スーラン…!」


頬を撫でるスーランの手を包みながら、ぼろぼろと信じられないくらいの涙を流し嗚咽するバウデン。

その姿と嗚咽する声が――――――――あの時深淵で聞こえた慟哭していたものと重なって。

スーランはそっとバウデンの頬を引き寄せて、まだ力の入らない腕なりにぎゅっと頭を抱き締めてあげた。

バウデンの少し硬めの髪をさらさら撫で頬を寄せ目を閉じる。


「何でこんなことになっているか良く分からないんですが、今はバウデンさんをとてもよしよししてあげなければと思いました」
「っ、……っ、」


スーランの腰に手を回しながら嗚咽が治まらず、時折スーランと呟くバウデンに都度二度返事をしながら落ち着くまで暫く頭を撫でていた。





「ほぇ。番だったんですか…」


その後聞かされた話はあまりに予想外の展開で。
番避けの薬が切れた状態だったからこそ、バウデンはスーランを番だと認識し命繋ぎの剣の存在を思い出したのだそうだ。


「…私も内密に聞き齧ったことはありますが、命繋ぎの剣って本当に効くんですねぇ」


ガブリアルノがその昔、王妃であったリュリーノに試した話を聞いたことがある。残念ながら既に亡くなっていたリュリーノには効果が無かったが、今回のことで実際に効くことが分かったわけだ。

だが大きな懸念が。





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