余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

文字の大きさ
74 / 81

ひたすらよしよし 1

しおりを挟む





深い深い、深淵の底でゆらゆらと揺れているような、体は存在せず意識だけで動いているような感覚に朦朧としながらも、スーランは苦しくも痛くもないが喪失感を感じていた。


遥か遠くで誰かが慟哭し嘆く声が聞こえる。
その声はとても苦しそうで、とても悲しそうで。
スーランは心がぐぐっと切なくなる。
絶望を目の前にしたような咆哮にスーランは揺蕩う意識の中、すぐに傍に行って抱き締めてあげたくなる。




ふと何かが光り意識が上に向く。
深淵の上のずっと上。
遥か上の方から淡く光る何か。

それがそよそよと降りてくる。
何かを探し求めているように。

その光を見たスーランは、もしかしたら自分にもそれがあるのではないかと確信するような感覚になる。

朧気な状態で探してみると降りてくる淡い光よりも、もっとか細くて今にも消えてしまいそうな小さな光を見つけた。

それは朽ちてしまう手前のような、消え去ってしまう脆さがあるのに、何かを求めて彷徨うような様に見えて。

スーランは何となくこの脆弱なものと、上から降りてくるものを会わせてあげたら何とかなるのではないかと閃く。

儚げなそれを意識の中でそっと掬い、上に向けてみる。

すると上で彷徨っていた淡い光が突如強い光を放ち物凄い勢いで下降してきた。

スーランはそれを掲げ引き渡してあげる。

強い光に触れた儚い光は共にくるくると絡まり少しずつ形を変え、一つになる。

何だか良かったねと思ったスーランはその光と共にゆらゆらふわりと浮上していく感覚に陥った。


(――――そろそろお迎えかな。―――――幸せ、――――だったけど、―――でも寂しい、悲しい―――――――会いたいなぁ)


少しずつ温かくなる感覚にスーランは意識が沈む間際までずっと想い繰り返していた。




会いたいなぁ、と。





************************



「――――――――あれ」


ゆっくりと意識が浮上し瞼を上げたスーランは、開口一番おかしいぞと声を出す。

生きている。
どこかの寝台で寝ている。
そして手が温もりに包まれている。


「―――っ、スーラン!」


すぐ傍からスーランの望む声。
スーランが望んでいた人。

視界に入ってきたのは。


「―――――随分泣きましたねぇ。レモン色の綺麗な目が溶けそう」


今まで見たことがないほど目を真っ赤にし顔を歪ませ、少し窶れたバウデンの顔なのだが。


何だ。男前は泣いても男前なのか。


スーランが泣いたら垂れ目が余計に垂れて瞼が腫れ上がって相当不細工だろうに、妬ましい限りだと若干腹が立ちながらも握られていた手を動かしてバウデンの頬を撫でる。

温かい。
その手にバウデンの涙が落ちて流れてくる。


「スーラン……スーラン、スーラン」
「はいはい。聞こえてますよ」
「スーラン…!」


頬を撫でるスーランの手を包みながら、ぼろぼろと信じられないくらいの涙を流し嗚咽するバウデン。

その姿と嗚咽する声が――――――――あの時深淵で聞こえた慟哭していたものと重なって。

スーランはそっとバウデンの頬を引き寄せて、まだ力の入らない腕なりにぎゅっと頭を抱き締めてあげた。

バウデンの少し硬めの髪をさらさら撫で頬を寄せ目を閉じる。


「何でこんなことになっているか良く分からないんですが、今はバウデンさんをとてもよしよししてあげなければと思いました」
「っ、……っ、」


スーランの腰に手を回しながら嗚咽が治まらず、時折スーランと呟くバウデンに都度二度返事をしながら落ち着くまで暫く頭を撫でていた。





「ほぇ。番だったんですか…」


その後聞かされた話はあまりに予想外の展開で。
番避けの薬が切れた状態だったからこそ、バウデンはスーランを番だと認識し命繋ぎの剣の存在を思い出したのだそうだ。


「…私も内密に聞き齧ったことはありますが、命繋ぎの剣って本当に効くんですねぇ」


ガブリアルノがその昔、王妃であったリュリーノに試した話を聞いたことがある。残念ながら既に亡くなっていたリュリーノには効果が無かったが、今回のことで実際に効くことが分かったわけだ。

だが大きな懸念が。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた

榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。 けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。 二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。 オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。 その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。 そんな彼を守るために。 そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。 リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。 けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。 その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。 遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。 短剣を手に、過去を振り返るリシェル。 そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。

処理中です...