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鷹の囲い込み 終
約十日ぶりの魔術隊復帰。
施設内に入ると、此度のスーランの貢献や一度仮死状態になっていること、そしてバウデンと番絆を繋いだことなど、周りは何からどう言えば良いのかわからないようだ。
それならばそのままでいてくれと面倒なスーランはキリウから声を掛けられ、治療魔術長室に向かった。
ホーイェンが男泣き。
共に居たコーネインも目頭押さえる。
些か驚いた。
ホーイェンは自分のせいでバウデンが呪いを受け、それでスーランが仮死状態にまでなってしまったのだと思いこんでいたので、病の話をしたら余計泣いてしまった。コーネインも驚愕しながらやはり目頭を押さえてしまったので、キリウを見ると仕方なし的な頷きを見せた。
二人とも魔術長ではあるので、ハグはどうかと思ったスーランは爪先立ちに近い背伸びをしてよしよししてあげた。コーネインに関しては目頭を押さえながら頭を下げていたのでよしよししやすかった。
昼休憩にキリウやホーイェン達と共に食堂に行くと、バウデンが陽の当たらない静かな場所で食事をしていた。
こちらに気づき、くいくいと指で招いたので頷く。
キリウがランチを持っていくと言うので素直に甘えスーランはバウデンの元に向かった。
向かいにはテゼルが座っており、一度立ち上がった彼はスーランに一礼した。
色々な意味が込められている気がしたが、面倒臭がりなスーランはぺこりと頭を下げてそれでとんとんにしようと暗に伝えた。困ったように微笑んだテゼルは前のような気張った感じがなく、まあ良かったねとスーランは手を引かれたバウデンの隣に座らされ、ホーイェン達もそれぞれ腰掛ける。
周囲がざわざわしているが、元より気にもならないスーランはふわぁと欠伸する。
「国王陛下から呼び出された」
端の静かな場所にした理由の一つなのだろう。スーランは一つ頷くとキリウが持ってきてくれたランチプレートを突き始めた。
何でもガブリアルノは今回の件を重く受け止め、ロンダース国始め周囲に周知させるために、元愚王の妾の血族全てとそれに関与した家門を全て断絶したのだとか。
この十日間でどれだけ三部隊を動かしたのだろうとスーランは些か驚いた。
「国王の心情を省いても国家の重要人物と薬開発の先駆者を窮地に立たせた。当然の報いだ」
バロアス国は基本穏やかに国交も応じるが、獣人特有の性質も当然併せ持つ。大切な者を傷つけたことへの報復は想像を絶するものだと今回改めて周辺国に知らしめた。
思えばリュリーノが亡くなった時もスーランは番消しの薬開発に没頭していたが、ガブリアルノは心身削りながら徹底的に報復したと後に聞いていた。
特殊部隊が総勢で隣国の根城を突き止め潜伏していた者諸共壊滅。地下から発見された研究施設の更に地下室にあったゴミ焼却所では人体実験の被害者達と思われる数多の骨が発見された。
そしてギュスターが探し出した王宮内の裏切り者は、王宮内で倉庫人として働いていた男爵の妾の子。父親の下で見習いしていた男だったのだが、本来別の者であったのに男爵が可愛がっている妾の息子だからということで甘やかし偽って登城させていたということが判明した。
その男は博打で首が回らないところをロンダース国残党に目をつけられ、たった金貨十枚で国を売ったのだ。
ガブリアルノはその男爵一族を見せしめとして無情にも根絶やしにした。
バロアス国に今後そのような者が湧いては堪らない。前回ガブリアルノの傘下同族を断絶させたのと同じように淡々と行った彼は、やはり王でありスーランが知っているほろりと優しく微笑む人物だけではないのだ。
スーランは聞きながらずっとフォークでフルーツトマトと格闘していた。
「なるほど。…バウデン、そろそろこのフルーツトマトを仕留めてください。マジで小賢しい」
「…お前な」
バウデンはそう言いながらも受け取ったフォークで難なくプスリと仕留めたトマトに毎度ながらスーランは腑に落ちない思いでそれを見つめる。
そして明らかに食べさせ給えと見上げるスーランにバウデンは眉を僅かに下げながらぱくりと口に入れてくれた。
周囲がざわめいていたが、スーランは成敗したトマトへの勝利を噛み締めてそれどころではなかった。
午後の仕事の前に少しだけスーランが開発した薬や今回の呪いに関して話をしたいから登城してくれとのことで、バウデンと共に王宮に向かった。
豪奢な長い廊下を歩きながら、スーランは隣を歩く唯一無二の伴侶を見上げる。
背筋を伸ばし颯爽と歩く姿は精悍で、統括総帥だけが着られる漆黒のローブ姿が様になっている。鮮やかなレモン色の瞳は冷淡に見えるが、この瞳が温かくなったり快楽で変わることも知っている。
焦げ茶色とキャメル色のメッシュの癖のある髪が少し硬めであることを知るのはスーランだけ。右側の複雑な編み込みは魔力で煌めいている。
バウデンは本日もとても格好良い。
「これ」
バウデンが首元の魔術服では隠れない鬱血痕を指さした。
「いつの間につけたんだ。隠しようが無いぞ」
「さあ。寝惚けてアレと勘違いしてぱくりと喰い付いたんでしょうか」
「お前な…」
本日も露骨な言葉を吐くスーランは最愛の伴侶の眉が僅かに下がる表情を満足気に見つめる。
「屋敷でのバウデンも可愛く幼くて好きですが、魔術隊での統括総帥も格好良いです。また魔術服でヤリたいですね」
「お前なぁ…」
バウデンの呆れた声を聞きながらスーランは気怠そうな歩き方をしながらも、もう心がしくしく痛むことはなく、ほくほくしながらガブリアルノが待つ謁見室にとてとてと向かって行った。
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