余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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番外編:使用人は見た!公爵家夫妻の情事と癒しの現場【限定婚姻編】2






とある日の昼下がり。

グェンが午前中の仕事を終え、休憩から戻ろうとしていた時。

スーランがささっと音を立てずに階下の下へ移動し上を見上げていた。

普段からは有り得ない俊敏な動きでグェンは何事かと階上に目を向けると、ちょうど二階に上がったバウデンが執務室に向かっているところだった。


「スーラン様?」
「しっ」


グェンの呼びかけにシャッと人差し指を口に当てるスーラン。いつもの何倍もの動きの速さに些か驚いていると、「ちょうど今昼食が終わったところなんだ」とバウデンに指を向けた。

まあ時間的にそうだろうと思っていたら、「私がまだ昼寝してると油断している…今しかないな―――」と何やらぶつぶつ言っている。


「グェン。バウデンさんの部屋にこれから飲み物運んだりする?」
「え?そうですね。執務室で仕事されると思うのでそちらへ珈琲を」
「よし。それに同行」
「はい?」
「ささ、早く準備準備」


スーランの藍色の瞳はぱっちりだ。一体何だと思いながらも珈琲を準備したグェンが届けた時に判明した。


「一瞬の隙で…」
「?」
「いってらっしゃい」


グェンは首を傾げながらも、珈琲が冷めてしまうので執務室の扉をノックして声をかけ中に入った。

一礼して辞そうと扉を開けた瞬間である。

いつもの五倍速くらいの速さでグェンと入れ替わりにスーランが執務室に入り「ムラムラがさー」と一言だけ溢してからバタンと扉が閉まった。

そして執務室の中では「おいっ…!」とバウデンの焦る声が。

グェンは呆然と扉を見つめていた。

これではまるでグェンがスーランの共犯みたいではないか。

断固として抗議したいが、「スーラン…!」と慌てるバウデンの声に、今この扉を叩く勇気はない。

それでもグェンはバウデンに忠誠を誓っているので、さっと胸ポケットからメモ帳を取り出し『私は無実です。グェン』とだけ記し、扉の下からメモを入れた。

僅かに中から聞こえる「今何時だと思ってるんだ…!ちょ、――」とバウデンの怒りというよりも呆れと焦りの声。

そして「まあまあ。夜でなければって法律も糞もないので」と宣うスーランの声が漏れ聞こえたグェンは、即座に踵を返し周囲に一刻は人が行かないように命じながら苦笑してしまった。

 
***************


「ひゃぁぁぁあああああ!!」
「いぃぃぃぃぃやぁぁああああっっ!」


庭の一画から聞こえた世にも悍ましいものに遭遇したかのような悲鳴。


イーガンは庭師のボーグと来年に向けての花や植物の話を玄関前でしていた時のことである。


「…おや。またですか」


聞こえた悲鳴は危険を伴った悲鳴ではなく、どちらかというと恐怖に怯える声だ。

となるとまたあれだろう。


「ぶっ…はははっ!」


ボーグが噴き出すように笑うので、彼もその理由をわかっているようだ。


「ボーグ。今回は?」
「っ、くく…多分冬眠前の幼虫を発見されたのかもしれませんね」
「…全く」


仮にも限定とはいえ公爵夫人であるのだが、作業服のスーランは何だか生き生きしているし、メイド達の素っ頓狂な悲鳴も慣れればまあ不快ではない。

この悲鳴が轟く時は必ずスーランが関わっているので、何だか最近はまたかという思いと同時に苦笑してしまう自分も居た。


「屋敷が賑やかで何よりですな!」
「騒がしいと言った方が正しいですが」


外はどうなっていることやらと、玄関の扉を上げてみると。


「ほらほら止まりなさーい。命令でーす。ちゃんと見たら意外に可愛いんだって」
「無理無理無理無理無理ですぅぅぅぅぅ…!!」
「そんな遠くから見るから余計に怖くなるんだよ」
「さっき目の前で握った手を広げて間近で見せましたよね!?」
「そこでちょっと我慢して見てみれば大丈夫だってば」
「ひぃぃぃっ…!」


スーランとフリア始め数名のメイドがそんな会話をしながら、公爵夫人はとてとてと進み、メイド達は海老の如く後退りし距離は縮まっていない。


「怖がり方が女の子だねぇ、可愛いなぁ」


スーランがぱっちり目で無邪気な表情でにこりと微笑む。

気怠い表情とのあまりの違いにメイドが惚けてしまっている間に、スーランが速度を速めてメイドに近づく。


「ほら。きっとこの二匹番かも。雄と雌の違いはここの部分」
「!!!っっっ、いやぁぁぁああ!!」


両手でそれぞれ摘むようにぶらんと虫の幼虫を持って見せたスーランはちょっとした悪戯をする少年のように瞳がきらきらしている。


「…やれやれ」
「ははは!お小言は程々にしてあげてくださいよ!」


今までの公爵家では有り得なかった喧騒なのだが、何故か悪くないと感じてしまったイーガンは、お小言は少しだけ短めにしようとスーランの元に歩いていった。





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