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番外編:使用人は見た!公爵家夫妻の情事と癒しの現場【永久婚姻編】6
「いいいぃぃぃぃやあぁぁぁぁあああああっっ…!!!」
「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!!」
「がはははは!」
イーガンとグェンが食堂で料理長を話をしていると、屋敷内…恐らく玄関方面から恐怖の叫喚が響き渡ってきた。
「…え。屋敷内ですか?」
グェンが目を丸くさせながら呟く。イーガンはやれやれと溜息を吐いた。
「ボーグの笑い声で想像はつきますね」
二人が玄関先に向かうと、腰を抜かしたらしいメイド数人に何やら菓子箱を持ったぱっちりお目々のスーランがきらきらした表情でしゃがんでいる。
「す、すすすすスーラン様ぁぁぁっ!ち、近づけないでくださいぃぃ」
菓子箱は開いており、蓋はメイドが持っている。それで大体の予想がつく。
「これきっと大家族っぽいよね。これが主できっとこれが夫人…こっちは第二夫人?」
「し、雌雄同体ぃぃぃぃ」
「お、凄い。学んでいるね」
スーランがしゃがみながらじりじりと近づくのと同時にメイド達が腰を抜かしたまま後退りし距離は縮まらない。
こつりとイーガンとグェンの足音に気づいたスーランがこちらを見る。
そしてスッと目を細めた。
この時点でイーガンとグェンは午前中の自分の行動を少しばかり後悔することになる。
すくっと立ち上がったスーランがいつもの数倍の早さでイーガンとグェンの側に近づき「二人ともそこから動かないで。命令でーす」と言い、持った箱をずいっと押し付けてきたので、イーガンは思わず受け取ってしまう。
「っ…」
「!う、…わ」
グェンが隣から思わずと言った感じで声を漏らし、イーガンも珍しく目を丸くした。
空の菓子箱の中には大量のミミズが蠢いている。
恐らくボーグと薬草の区画に放す為に集めたものを、スーランはちょっとした悪戯心で空の菓子箱の存在を思い出し、入れたのだろう。
遡ること午前中。
背中を丸め怠そうに歩き大きな口を開けて欠伸を堂々としながら歩いていたスーランにイーガンはいつものお小言。
そして倉庫は冷えるので眠らないように言われていたのだがうたた寝しそうになったらしく、気付いたグェンが滾々とお小言。
スーランはぶうたれながらも「わかりましたー…」と不貞腐れながら去っていった。
そして今。
スーランが二人を見た瞬間の瞳の鋭さ。
すぐに察知しその場から去らなかった二人は心底悔やんだ。
「ドリスが水分摂らないと干からびるって。だからちょっと補給してくる。その間イーガン、グェンに大事な肥料を作ってくれるミミズ一家の護衛を命ずる。間違っても下ろしたりせずに真摯に見守りを頼みます」
格好良く言葉を纏めているが、要は午前中の二人への仕返しに他ならない。
滅多に命令をすることがないスーラン。
これは周りの目もあるが、己の意地としても聞かないわけにはいかない。
スーランはふっと悪い顔をしてから「今日はレモン水が飲みたいでーす」と言いながら食堂に移動していった。
イーガンは虫など苦手ではないが、流石にこれだけ大量のミミズが蠢く様子に毛穴がぞわっとなり、側から離れられないグェンに箱を押し付けた。
「ちょ…イーガンさん!」
「今度はお前の番だ」
「う、わぁ…これはきつい…」
グエンは目を逸らしながらも箱を下に置くことはしない―――基命令されているので置けない。
ミミズ自体そこまで嫌悪はなくても、そこそこ大きな箱が埋まる程のミミズの集合体には誰もがちょっと見たくはないのではないだろうか。
それを難なく持つスーランも未だに涙を流しながら笑っているボーグもある意味猛者なのである。
「っはは…あーおかしい。この年でこんな腹が捩れるほど笑うとは思わなんだ」
苦しそうに腹を押さえるボーグが助けてくれることは微塵も無い。
「っうー…はい、イーガンさん交代ですっ」
「っ、早いだろう」
「そんなことないですね!」
そんな醜いやり取りを遠目で見る使用人達は普段まず見られない珍しい状態の二人を、仕事をする振りをしながら怖いもの見たさでちらちら見ている。
玄関先にそんな大勢がする仕事はないはずなのに態とらしい限りである。
「イーガンさんがチクチクお小言言うからですよ」
「グェンの理路整然するような嫌味な言い方が癪に障ったんじゃないのか」
そんな低次元な争いにボーグが愉快に笑う。
「ははは!良いですねぇ。たまにはお互い言い合ってすっきりってやつですよ。スーラン様のおかげですな!」
ボーグの言葉にイーガン達はお互い目を見合わせてしまった。
時には似たような立場同士、面と向かって色々と対話することも大事かもしれない。
けれども方法は出来れば他の類であって欲しいと二人は心から願ってしまった。
*****************
「スーランは?」
昼下がり。休みではあるが、執務室で仕事をしていたバウデンが昼食の後にイーガンの元へ来た。
「予定にはございませんでしたが、薬草が思ったより収穫が早そうだと先ほど庭に行かれました」
「そうか」
バウデンが玄関に向かって歩いていった。
その後イーガンが一通り用事を済ませ玄関を通った時、玄関近くの二箇所ある小窓からグェンやキリウ、ドリス達やボーグまでもが皆で外を見ている。
「どうしたんです?」
イーガンの声にキリウが振り向き手招いたので側に行く。
窓の外を指され見てみると、庭の薬草の一画近くにいつものように敷かれている敷物にスーランとバウデンが寝そべる様子が。
「迎えに行ったんだろうけどあまりに気持ち良さそうに眠るスーランさんにつられたのかな」
外を見つめるキリウは本当に嬉しそうに微笑んでいる。
スーランが来てから時には年相応な無邪気な表情や行動が増えていっているキリウだ。
それがイーガン始め屋敷の者はバウデンと同様に嬉しいことだった。母を早くに亡くし自立するのも早かったキリウが今唯一心を柔らかく出来る時間だ。
「ふふ。二人のこの時間を観られる僕は幸せ者だ。…スーランさんも少しずつ変わってくれている。本当に嬉しいな」
キリウが二人を見ながら呟いた。イーガンが目を二人に向けると、バウデンにくっついていたスーランが自分に掛けられていたブランケットをバウデンにも掛け半分ずつ分け合っている。
今までのスーランならしなかっただろう行動をバウデンには進んでするようになっている。面倒で苦手だと未だに言い続けている配慮を自ら進んで行っている。
何だかイーガンも心がほわりと温かくなってスーランを引き寄せたバウデンと、バウデンの腰に手を回し…足まで回したことは見なかったことにしてあげて、日向ぼっこする二人を暫く見つめていた。
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