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番外編:鷹の最愛の嫉妬 1
「バウデンも参加しませんか?」
スーランから飲み会に誘われた。
元々外出という外出も殆どせず行動範囲が狭いスーランだが、友人のシュナとの飲み会は月に一度の頻度で行っていた。
人族であるシュナとはもう十年以上の付き合いであり、スーランから興味を示し近づいた稀有な存在とバウデンは思っている。
飲み会はいつも大衆酒場の賑やかな老若男女がいる場所で、バウデン個人としては内心気が気ではないのだがスーランが楽しみにしている時間を奪うほど狭量ではない。…迎えは絶対に行くが。
そんな二人は最近シュナも特殊部隊のイアン・ピーフォックと婚姻し互いに既婚者として色々話に華が咲いているらしい。
シュナは髪の香油師で最近は石鹸の作製も手掛けているらしい。
彼女の精製する香油は質が良くべたつかずに香りもくどくない。スーランの髪から香るイランイランはバウデンもとても好みで、今では外せない日用品として重宝しているくらいだ。
香油はバウデンも愛用させてもらっており公爵家の使用人達からも人気がある。今では定期的にまとめて購入させてもらうくらいだ。
シュナとは酒場に迎えに行く度に数言話すことはあるが腰を据えて会話したことはないので、スーランが心を寄せる同性の相手として一度ゆっくりと話してみたいと思っていた矢先の誘いだった。シュナの伴侶であるイアンも同じく誘っているらしいとのことでバウデンは二つ返事で快諾した。
飲み会当日。
バウデンは仕事を早めに切り上げた後、一度公爵邸に戻り湯を浴びてから馬車で向かった。
今回はいつもの大衆酒場ではなく、シュナの伴侶であるイアンが昔良く利用していたという仕切りのある個室風の酒場ということだ。
馬車から降りたところでちょうどすぐ近くに馬車がもう一台停まり、紋章を見るとピーフォック伯爵家のものだ。
「あ、統括総帥。お疲れ様です」
馬車から降りてきたのは孔雀族特有の絶世の美貌を持つイアンだ。
イアンは三強部隊である特殊部隊暗部隊員の筆頭であり、ピーフォック伯爵家自体も国の裏で暗躍する仕事に長けた家系である。
イアンは見た目の美貌から誰もが騙されるほど真逆である残虐思考の持ち主だ。彼の代名詞と言われる甘やかな笑みを絶やさないまま嬉々として行う拷問はかなり残忍だと言われている。
イアンは最近まで『正統派クズ』と称されるくらい性に奔放な生活を送っていた。
シュナと出逢い色々紆余曲折はあったが番絆だということが判明しバウデンと同じく唯一無二の相手を見つけた幸運の者だ。
上下の服は彼の華やかな容貌とは対照的に無地の落ち着いた色であるが、以前見たキャメル色ではない淡いクリーム色のコートを羽織っており、どう見てもシュナの髪の色である。
「イアン、久しいな。職場付近ではなかなか会わないものだ」
「ですね。僕の仕事柄どうしても遠征が多いので。統括総帥の私服姿って新鮮ですね」
本日薄手のチョコレート色のコートにアンバー色のシャツ、黒いトラウザーズというラフな格好のバウデンだが、イアンから言われ確かに私服に着替えたのは久しぶりだと思った。
バウデンが多忙なのもあるがスーラン自身も外出や遠出に興味が無く、今考えれば二人でどこかに出かけたことも殆どなかった。互いが休みの日は屋敷でのんびりしたいスーランと、共に居られればどこでも良いバウデンなのであまり考えたこともなかった。
「スーランが初めて行く酒場だと言っていた」
「ここは僕が良く行っていた酒場なんです。仕切りがあって個室のような感覚で酒も食事も美味しいんですよ」
「そうか」
そんな会話をしながら少し奥まった場所にある酒場の扉を開け、奥に進んだ時のことだ。
通路に四人の酔っ払った女達がこちらを見た途端、姦しく騒ぎ道を塞いで先に進めなくなった。
イアンは表面上に淡い笑みを浮かべているが目元は全く笑っていない。先程シュナの話をしていた柔らかい表情とは正反対だ。
今までならおべっかを使うくらいの軽い口調で話すイメージがあったのだが、そんな様子は微塵にも見られない。
(私も良く言われるが、イアンも変わったものだな)
バウデンは殆どが無表情のままであるが、スーランといる時に限り表情も感情も良く動くのだと周りからは言われている。対して今は完全に通常だ。
目の前で騒いでいる女達を冷めた視線で見下ろしながら、早くスーランの元に行きたい気持ちが募る。
それでも目の前の四人はあれだこれだと勝手に盛り上がり、いい加減うんざりして苦言しようとすると、穏やかではあるが平淡な口調でイアンが伴侶という言葉を前面に出して女達を黙らせた。
「退いてくれ」
黙りはしたがその場から避けもしない女達に苛立ったバウデンも不機嫌を露にした声で言うと、ようやく焦ったように左右に避けたので、それらに視線も向けずにその場を通る。
イアンが「僕の唯一以外は肉片の塊にしか見えなくて」と囁く声に、バウデンも同意するように頷く。
そしてようやくスーラン達が待つ個室に入り、暫くは楽しく談笑しながら酒や食事を楽しんでいたのだが。
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