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決め手は髪の香り 3
「それで?」
「うん?」
「条件は何?食事するだけじゃないでしょ。私を連れ出した理由は」
その言葉ににこりと微笑むイアンの笑顔は決して無害などではない。
「話が早くて助かる。これからちょっと付き合って」
だろうなとシュナは小さく溜息を吐いた。
イアンとの性交は濃密で楽しいものではあったが、こうなることが予想出来たならシュナはあの時頷かなかっただろう。
煽られて尋常に勝負したことに少し後悔しながら意地でも奢らせずにシュナはさっさと会計場所に移動した。
店を出た直後からシュナは手を繋がれている。
明らかに逃亡防止であることは明確で「逃げないから離して」と言っても「僕がシュナと繋ぎたいだけー」と離さないままで、もう溜息を吐く元気も無くなった。
今更ながらイアンの抜け目のない性格をもっと早く認識しておくべきだったと思うがもう遅い。
連れて行かれた場所は予想通りで、とある閑静な住宅街の通りで一人暮らし用の集合住宅のような綺麗なアイボリーの建物の一部屋だった。
一人暮らし用には広く、二人でも十分過ぎるほどで、そんな場所をヤリ部屋にしているイアンにも溜息しか出ない。
「寝台以外本当に何もないのね」
「それ目的だけじゃなく、伯爵家に戻るのが面倒な時もここで寝泊まりしてる。軍服の換えもあるしね」
イアンは冷蔵庫から飲み物を取り出してシュナに渡した。
「ありがと。それで条件は?」
「せっかちさんだなぁ」
「早く帰りたいの」
立ったままのシュナに近づいたイアンがさらりと団子状に纏めていた髪を解き、一房摘んで鼻元に近づけた。
「ん、良い香り―――ねえ、僕専用の髪の香油頼んでも良い?」
てっきりこのまま寝台に放られるだろうと思っていたシュナはパチパチと瞬きした。
「香油?」
「うん。今使っているのも嫌いじゃないんだけど、これだって香りが未だになくてさ。ねえ、エリック専用ってどうやって作ったの?」
「好みの香り、苦手な香り、どの効果に突出したいのか聞いてから作る。艶か手触りか上手く纏めたいのか」
そう答えるとイアンは面白そうな表情になる。
「なるほど。ちょっとこっち来て」
手を取られ寝台に連れて行かれる。イアンが寝台の端に座り、その前にシュナを立たせた。
「僕の髪に触れてみてどんな効果のものが良いかわかる?全体の色味とかも含めて」
そう聞かれたのでシュナは頷き手を伸ばしてイアンの美しいグラデーションがかった朱色の髪に触れる。
毛先を触り、額から奥に髪を流しながら全体に触れる。
「凄く滑らかね。でも全体が柔らかめな質だからオイルたっぷり系をつけちゃうと重く感じそう」
シュナは一房摘んで少し擦りながらさらさらと髪を落としていく。
「甘めな濃厚なのはあまりお薦めしないかな。甘く、甘酸っぱいけどさっぱりするような爽快な香りを足してバランスを取ってっ……て、ちょっと」
シュナの職人魂に火がつき思わず髪に触れまくって語ってしまっている間にシュナの腰にはいつの間にかイアンの腕が巻かれ、胸元には美しいグラデーションの頭が埋まっている。
「んー…髪触られて気持ち良くて寝そうになった」
「そのまま寝ちまえ」
「あはは。髪って触らせたこと殆ど無くてさ。シュナの手が何だか凄く心地良かった」
「真面目に答えていたのに」
「勿論香油の依頼は本当。この髪の色と髪質に合うの作ってもらえる?」
イアンの表情から嘘は言っていないようだ。
「良いよ。しっかりお代は頂戴するけど」
「それは当然。仕事だからね。どれくらいで出来そう?」
「んーイアンの髪色、髪質に合うのが家にあればそんなかからないと思うけど。他の依頼もあるから早くて一週間以上」
「じゃあ出来たらここに持ってきて。二週間あればいける?」
「大丈夫」
「じゃあ今日から丁度二週間後ね」
そう言ったイアンはシュナの脇を軽々と持ち上げイアンの膝に座らせた。
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