31 / 140
起こしてあげる 3
「シュナが相手と眠らない理由ってこれ?」
その言葉にぴくりと体が反応するが、腰に回った手が優しくお腹を擦ってくれる。
「…何で?」
「起き方が異常だったから。怖い夢でも見たのかなって」
リアがシュナだとバレた時もだが、彼は特殊部隊だ。相手の動きや行動には敏感なはずで、前回も恐らく気づいていて敢えて聞かないでいてくれたのだろう。
「まあ…そんなとこ」
「良く見るの?」
「…たまに」
「そっか」
嘘だ。殆ど毎晩だ。
でも言う必要は無い。
言ったところで解決は出来ないのだから。
他のことも全部そうだ。
言ったところで夢を見なくなるわけじゃない。
過去がなかったことになるわけでもない。
シュナは人に弱さを見せたくないのだ。
それによって自分が弱いと知りたくない。
まだ強くなれると。強くなるのだと。
だから何時でも何とか自分でやってきた。
シュナは自分の力で克服しなければならない。
そうじゃなかったらきっとあの悍ましい過去を乗り越えられないと思うから。
「飲み終わった?」
「…うん、ありがと。ごちそうさま」
「いえいえ」
イアンが受け取りサイドテーブルに置くと、シュナを抱いたまま体をずらして横たわる。
「シュナ。こっち向いて」
優しい声で呼ばれ思わず素直に向くと、体ごと向きを変えさせられて、掛布を掛けられる。
そしてイアンの方に引き寄せられて背中に腕が優しく回った。
相手を拘束しない優しい手。その手が背中をゆっくりと撫でる。
シュナは驚きながらも、背中にある温もりがとても心地良くて、震えがいつの間にか治まっていることに気づく。
「シュナと三度こうして横になっているけど、必ず背中を向けて丸まって眠っているの知ってた?」
ふとそう聞かれ、言われてみればそうだなとシュナは思い返した。
「…そう言えばそうかも」
「うん。何ていうか自分の身を守っている感じ」
その通りなのだろう。無意識だったかもしれないが、蹲って眠ることが殆どだ。
「怖い夢のせいなのかわからないけど、一人だから余計にそうなるのかな」
一人なのは当たり前だ。
一人で挑まなければならない。
誰かに迷惑はかけられない。
「…夢、だから、自分しか対処出来ない」
「確かに。でもさ」
イアンが綺麗な橙色の瞳を合わせてくる。
「怖い夢からなら起こしてあげられるよ」
「…起こ、す…?」
考えもしなかったことに、シュナはぽかんとしてしまう。
「うん。流石にすやすや気持ち良さそうに眠っていたらわからないけど、魘されていれば起こせる」
「…私、魘されていた?」
「少しだけね」
その言葉に瞠目したシュナは、迷惑をかけることに耐えられず、やっぱりもう何を言われても今夜で終わりにしようと思ったのだが。
「それに不思議でさ。シュナを抱えて眠ると凄く良く眠れるんだ」
そう言いながらイアンが背中を優しく優しく擦ってくれる。
「え…だって、私飛び起きて…起こして迷惑かけてるし」
見上げて伝えるが、イアンはにこりと微笑む。
「そうだけど、それでもシュナを抱えてるとすぐに眠くなる。僕眠り浅いんだよ」
そう言ったイアンは欠伸をしながら「明日久々の休みだからゆっくり出来る。付き合って」などと言う。
「嘘だと思うならこのまま試してごらん。僕すぐ寝るから。シュナが怖い夢を見ても起こしてあげられるし、僕は良く眠れる。なかなか良い条件でしょ」
イアンがシュナの頭に口を落とし「この香りも一つの理由かもー」と言いながらシュナを更に引き寄せて目を閉じた。
その間にも背中の温かい手が温もりをくれる。
母親だった人ですらもらったことが一度もなかった温もりだ。
時折とんとんと背中をあやされながら、擦ってくれるイアンの手に次第に眠気が誘われる。
そしてそのうち緩慢になっていた手が止まり上を見るとイアンがすうすうと眠っていた。
とても眠りが浅いようには見えない。
その姿を見ていたシュナも徐々に瞼が重たくなり、目を閉じた。
アーロから犯された日から初めて。
シュナは起きるまで悪夢を見なかった。
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました
恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」
交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。
でも、彼は悲しむどころか、見たこともない
暗い瞳で私を追い詰めた。
「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」
私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、
隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」