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強くなければいけない 2
(これはイアンを諦められない相手かな)
そのことに心臓がぎりっと嫌な音を立てるのをリアは余裕で流す。
心の痛みを流すことは慣れたものだ。
「話せませんか?」
「そもそも貴女はどこのどなたでしょう」
リアはかなり酔っ払ってはいるが、この程度で今までに無様な失態を犯したことはない。
「貴女は私の名前と彼の名前を知っている。それなのに貴女は自ら名を名乗らない。そんな人からどんな関係と聞かれ、ああですこうですとほいほい答えると思いますか?」
とろんと酒に酔った表情のリアが意外にスムーズに答える姿に女性の口が驚いたように少し開く。
「それに貴女が例え名前を教えてくれたとしても。それこそ貴女と彼との関係をこちらが信用に足ると判断しない限りは彼との何某を教えることはありませんし、全てを満たしていたとしても最終的には私の判断で言うか言わないかを決めます。当然今目の前に居る貴女の風貌や仕草、言葉遣いを覚えて、こんな人からこんなこと聞かれたと彼に聞くことがあるかもしれません。それでも貴女は問題ないですか?」
「…」
「こうして貴女が私に問い詰めているのを彼は知っているのですか?このままの状況を説明して大丈夫ですか?」
リアがそこまで言うと、後ろからデュークがぼそりと答える。
「ターニャ」
「!」
「ん?この人の名前?」
「ああ」
後ろを振り向くとデュークの先ほどの鋭い視線は緩和されてはいるが警戒するような雰囲気は継続している。
「何だ。知り合いなら言ってよ」
「顔と名前は知っているがそれだけだな」
「そうなんだね」
リアはターニャに向き直り、にこりと微笑む。
「連日雄を漁っているような女にあれだこれだ聞くよりも本人に聞くほうが一番ですよ。それに私もこう見えて…見ての通りか。それなりに嘘つきなので言ったことが真実かどうかもわかりませんしね」
「…嘘つきが嘘つきと言いますかね」
「ふふ、言うかもしれません。裏の裏の裏をかくかもしれません。表になり――、あれどっちだ」
「もう酒は終わりにしろ」
「八杯目まできたんだよ。これどうにか二桁にしたい」
「何でだ」
裏の裏の…と呟いているとターニャが近くまで寄ってきて、頭を下げた。
「無礼をお許しください」
「無礼?いえいえ。私のようなクズ女に対し色々懸念することがあって、ある程度覚悟して来られたのでしょう。私は大丈夫ですよ、慣れてますから」
にこりと微笑み隣の席に手を流す。
「彼のことを話すことはしませんが、良かったら一杯飲んでから帰られたら如何ですか?こちらのちょっと強面ですがマスターの作るお酒はとても美味しいので」
リアは「ギムレット!」と頼み、「いつものマンダリンにしとけ」と客なのに却下され口を尖らせながらも、それなりに酒が回ってきていたので頷いておく。
するととなりに座る気配を感じた。
「オールドファッションド」
「おっとーガツンと強いのいきますねー」
「仕事は終わっているので」
ターニャの横顔を見て初めて瞳の色が薄い茶色のような橙色に見えた。そしてやはり端正な綺麗な顔をしている。
「オールドファッションド。――お前はこれだ」
デュークがターニャの前に煌めく茶色のカクテルを置き、リアの前には輝くマンダリン色のいつもの〆のカクテルだ。
「少しはお酒入れてくれてるよね?」
「少しな」
「一滴とかマジで無しだよ」
「二滴だ」
「三滴」
デュークは溜息を吐いて酒を少し足してくれたのでリアはにこりと微笑み、すすっとグラスをカウンターのテーブルで滑らしてカチリと軽く鳴らした。
「ユニュイスでの綺麗な女性の方との出逢いに。かんぱーい」
「…乾杯」
一応ターニャも合わせて言ってくれたので、それだけで良い奴だとリアはくいっとカクテルを飲んだ。
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