トラウマ克服の為にクズに徹します

きるる

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エリック 1

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エリックはロンダース国経由のバロアス国辺境にある辻馬車の停留所付近から少し離れた場所にいた。


夜も更けた日付が変わる少し前。 

エリックの髪は結って後ろに流し紫紺のローブで顔全体が見えないように目深に被り、色眼鏡の中から静謐な目で辻馬車乗り場の周辺を観察していた。

本日最終の馬車が到着し、降りた乗客が散り散りになり少しすると乗り場は閑散とし始める。


「状況は」
「捕縛完了」


後ろに微かな気配を感じ、黒い艶消しのローブを羽織る人物から端的に報告を受け、「吐かせろ」とだけ返しエリックは自分が乗ってきた漆黒の馬車に向かおうとしたのだが。


(…子供?…少女、か)


辻馬車乗り場の近くに彷徨く一人の少女。

薄手のマントを被りきょろきょろと周りを見ながら、何やら諦めた様子で乗り場の奥の林の方に歩いていく姿をエリックは何となしに目で追っていると、少女の行動をずっと観察していた雄が近づいて行くのが見えた。

男が体を傾けながら話しかけると少女が振り向いた。

マントのフードから溢れるバターブロンドの髪は闇夜でも煌めいて見え、モスグリーンのぱっちりとした瞳は少し目尻が切れ長であるが顔全体の印象は幼く見えるには見えるのだが。


(あの幼さであの表情をするのか)


悟ったような虚無の瞳。
目の前でへらへらと話しかける男の目的などわかっているとでもいうような表情。

あまりに見た目とその表情がそぐわない少女は、一つ頷いて肩を抱いた雄についていこうとするのを、エリックは反射的に動いて知り合いかのように声をかけた。


「どこにいたの?探したのよ」


少女を連れて行こうとしていた雄は「あ?何だおめえ」とエリックを睨んできたが、目深に被ったフードから色眼鏡の表情の無い威圧感溢れるエリックに、息を呑みそそくさと逃げていった。

少女は去っていく雄を見ながら一つ溜息を吐いていた。


「あの雄がどういうつもりで話しかけてきたかわかってるの?」


そう尋ねると、即座に少女の口から「性交でしょ。ヤリたいって目で分かる」とあまりにもあけすけな言葉で返されたのでエリックは些か驚いた。


「…わかってついて行ったってこと?」
「勿論。辻馬車が夜走らないって知らなくて。寝床無かったし」


少女くらいの年で簡単に性交する選択をとることにエリックは眉を寄せる。

その視線にも少女は気にも留めずに、「泊まるところなくなっちゃった」とぼやきエリックから離れて行こうとするので、再度声をかける。


「どこ行くつもり?」
「馬車が動くまで居られるところ」
「あんた未成年でしょ」
「もう少しで成人になる」
「え…十五歳?」


服装などからどう見ても家出少女な平民以上の風貌で十三歳くらいだと思っていたエリックはまたもや驚いた。

清楚な服装と幼気な顔の造りは性交という言葉すら知らないような雰囲気にしか見えない。


「もう行って良い?」
「…どこ行くの」
「寝られる所。その辺の木陰にでも」
「もし雄に話しかけられたら?」
「眠れる場所に居られるなら何でも良い」


冗談を言っているようにもわざとエリックに上手くことを運ばせようとする素振りも無い少女は、背を向けて歩き出した。

関わってしまった以上、エリックはこのまま放置するわけにもいかずに「ちょっとこっち来なさい」と離れる少女の腕を取って自分の馬車の近くまで連れて行った。


「十五歳とはいえまだ未成年のあんたが何でこんな夜中に一人で馬車に乗っていたの?」
「話さなきゃいけない?」


エリックはそれなりに背も高いし目深にローブを纏った姿は迫力はあるだろうはずなのに、目の前の少女は気にもせず、助けてくれと乞うことも無く寧ろ放っておいてくれとでもいう表情だ。


「未成年だと戻されるわよ」
「成人の十六歳になれば自分で国籍取れる」


主張がはっきりしていて態度も堂々としているのに、何故か知識はかなり乏しいらしい。


「…ここはバロアス国。もしここで国籍を取るなら十六歳前は親の承諾が必要。外からの者で十六歳過ぎてても国籍を取るにはバロアス国民の後見人が必要になる」


親という言葉に僅かに眉を寄せる少女。そして「…そうなんだ」と微かに落胆するような声。


エリックは溜息を吐き、もう乗りかかった船だと「あんたがちゃんと事情話すなら寝床の提供と後見人になってあげてもいいわよ」と言うと、少女はパッと目を見て「本当?」と今度は少女らしい表情で聞き返してくる。


少女のあまりに無謀な行動にエリックはこのまま放っておいたら寝覚めが悪いからと頷いた。

話せることと話したくないことがあると前提に言われ、更には克服するまで絶対に誰にも話すなと念を押され、聞かされた少女の話はかなり重たいものだった。





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