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エリック 3
ちょうどその頃、隣国ロンダース国との水面下での小競り合いがあちこちで起きていた。
ロンダース国から違法に流れてこようとしていたものは、質の悪い媚薬で気持ち良さだけを求めるものではなく、相手の動きを奪う非道なもの。
そんなものがバロアス国に出回っては堪らないので、エリックは水面下の更に水面下で静かに探らせていた。
首謀者の一人は既に捕まっていたが、ロンダース国内の牢で次の日に死体となり発見された。
シュナに出逢ったあの場所でその首謀者の側近を拘束出来たが、エリックの右腕の非情な拷問を以ってしても大した情報が得られず、あまり関わりを持たされてなかったのか収穫は薄かった。
エリックは媚薬のことを調べるついでに偽名だろうがシュナの名前で調べはしたが、居なくなった娘を探している母親がいるという話も聞くこともなく滞っていた。
一人商才で男爵を賜った少し怪しげな人物がブロンドの女と再婚したという話は入手したが、それ以上にシュナに繋がる話は出てこず、その男は今回の薬の件でもこれといって引っかかることがなく、その後も一向に尻尾を見せることはなかった。
暫くすると媚薬もバロアス国に流れず食い止めることができたのでエリックはそこで一旦諜報を止めた。
その後シュナが夜な夜な一夜限りの酒場ユニュイスで雄を食い散らかしていると報告を受ける。
時折質の悪い雄に当たり、マスターのデュークが助けには入るが、次には必ずそのことを学び、どんどん噂は大きくなっていく。
幼く見えるが物凄い婉麗にも見える人族の女。
淫らに腰を振り雄を夢中にさせ誑かすが二度目はない。
絶対に特定を作らない。等など。
エリックは一度酒場から裏道を通って帰ってきたシュナを見かけたことがあり、二度見するという初めての経験をした。
普段結んでいる髪を下ろし、しっかりと化粧を施し少し大人っぽい服装をしたシュナは、今まで見た彼女とは真反対の容貌だ。
ちゃんと細かく見ないと全く気づかないくらい本人の言う通り化粧で化けるものだと驚いた。
シュナは「おかげで昼と夜別々の生活が出来る。昼間は雄は必要ないし」と本当にその辺の男顔負けのつれない態度で、数ヶ月経つ頃には巷で男を喰い漁る幼い悪女とまで評されていた。
そして何の因果か性嗜好が近いスーランとユニュイスで出逢い、エリックの話がきっかけで仲良くなったと聞かされた。
「幼顔であれだけ化けるのマジ半端ない。しかも時折見せる大人顔負けの悟った表情もやばい。中身も気に入った」
魔術と薬の精製、性欲以外に興味のないスーランが気に入るのは珍しい。
しかしスーランとの出会いがシュナにとっては僥倖になり、彼女を通して魔術や精製に興味を持ち、本を片っ端から読んで学ぶ姿をよく見るようになる。
少し興奮した様子で「スーランからね、花好きの私はそれを使った精製に向いてるんじゃないかって。それが上手くいけば稼いで一人で生活していけるよ」とシュナのきらきらした年相応の表情で微笑む姿に、エリックは思わず頭を初めて撫でてやった。
すると目を丸くし照れ臭そうにしながらも嫌がらず、「親にも撫でられたことなかったな」とそれは嬉しそうに微笑むので、その日からエリックはことあるごとに頭を撫でることが習慣になった。
それから約十年。
シュナは巷では闇夜だけに特定の酒場に現れる悪女の名を存分に轟かし続けた。
反して昼間は派手さは一切出さず質素な生活を満喫し髪の香油の精製を極め、仕事としてエリックの薬屋に卸せるまで成長した。
シュナの本質はこちらなのだろう。
繊細な魔術を使い、花を元に植物や果物を使って透明感のある香油を作る。香りはシュナの花好きか本人の性質か。とても芳しく心が落ち着くものを精製していた。
その間もシュナはただの一度もエリックを雄と見ることはなく、身内の一人として他の雄のようなぞんざいな扱いは一切しない。
かといって変に甘えることもなく、ちゃんと親しき者にも礼儀を通して、こちらの不快になる行動をされたことは一度もなかった。
エリックにとっても、実際居たことはないが妹のように感じ、時には雄関係で心配し、時には美味しいと評判の菓子を渡すと、幼気な見た目を前面に出しながら宝石でも貰ったかのように掲げて喜ぶ。
だがそれ以外は施しと受け取るらしく、稀に共に食事に行った時も絶対に相手から奢られることを良しとしなかった。
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