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イアン 7
「これ私より王子じゃない?」
イアンはエリックから頼まれている任務に関して特殊部隊よりも優先しろと言われており、本日は魔術隊施設の食堂に訪れていた。
テラス側の陽が当たらない場所の席。
イアンの向かいに座りランチプレートに残っているフルーツトマトと格闘しながら疑問を投げかけているのは、深緑のローブを羽織り、半分しか藍色の瞳が開いていない治療魔術師のスーランだ。
「確かにリグリアーノの方が専門っちゃあ専門だよね。でもそれに対しての治療や解毒を考えるのがスーランってことなんじゃない?」
「毒作るなら解毒も作れって」
「あはは。確かにー」
イアンは既にランチを終え食後の紅茶を飲んでいる。スーランは未だにつるんつるん逃げるトマトにそろそろ諦めモードに入っていた。
「お待たせしました」
そこに今回依頼を受けたもう一人が姿を現した。
防御魔術隊の灰色のローブを羽織り、透き通るような白銀色に毛先がエメラルドの長い髪を靡かせ歩いてくるのはバロアス国第三王子で防御魔術師でもあるリグリアーノだ。
鮮やかなマゼンタ色の瞳を細めて美麗に微笑みながらランチプレートとを置いて席に座る。
「リグリアーノ、ちょっと遅くない?」
「長に捕まっておりまして―――スーランは相変わらず仕留められないのですか?」
リグリアーノの言葉に、スーランは一瞥もせずつんつくトマトとの一騎打ち継続中だ。
「どこまで聞いてる?」
「まだ聞き齧った程度で―――スーラン、僕が仕留めましょうか?」
「その喋り方のせいで余計にトマトを仕留められない」
「ぷっ」
「リグリアーノ、もういつも通りにしてよ。トマトがぴょんってプレートから旅立っちゃう」
「…くくっ。ほら、フォーク貸しなよ」
「イアン。仕留め役をくれてやる」
「あはは。お引き受け致しますー」
イアンはスーランからフォークを受け取り、普通にぷすっとトマトを刺す。
「早く寄越せ」
「ぶふっ」
一度で刺したトマトに納得のいかない視線を投げながら低い声で手を伸ばすスーランにリグリアーノが再度噴き出す。
先日挿入を焦らしたイアンに向けたリアの言葉と一緒だと思い出し、笑いそうになりながらも「はい。どうぞ」とスーランにフォークを渡した。
スーランは小さくお礼を言いながら、憎きトマトを大きな口を空けてばくりと成敗した。
ようやく敵を屠したスーランが「それでだけど」と話し始める。
「今回の件は王国部隊の仕事よりも優先ってことは皆一緒だと思うんだけど、出回り始めているのは確定?」
「うん。といってもバロアス国内はまだ。ロンダース国の密偵から最近情報が入ってきてさ」
「媚薬確定?」
媚薬に関しては専門と豪語するリグリアーノが綺麗な所作で食事をしながら聞いてくる。
「そうだね。十年くらい前にたち悪いものが一度こっちに流れそうになったことがあったんだって。それは食い止めたらしいけど再来ってやつ」
「あの国は魔術に対して聡くもないのに、無駄にそういう悪知恵だけは働くよな。媚薬作りには魔術は必須。今回も居るんだろ?」
「居るでしょ。式典でやらかしたロンダースの元妾坊やがそうだから」
「あー僕遠征で居なかった時か。元阿呆な王の妾の子?」
「うん。あれの周りに居た魔術師も無能で解呪を前提に作らないものを拵えててさ。まあ無能が過ぎて解呪方法見つけたから何とかなったけど」
「基準を考えない無能ほど無謀なことするもんだ。王を変えるんじゃなくて国自体潰した方が早そうだな」
「まあうちの国が賢王が統治して三強部隊もあって、諸々ちゃんと形が出来上がってるって方が実際珍しいのかもね。僕が遠征行ってる隣国なんてそんなんばっかりだよ」
イアンの所属する特殊部隊は基本隣国や島国など定期的に諜報や密偵目的で遠征している。だからこそ分かるのはバロアス国が本当に恵まれているということだ。
「ロンダース国は薬関係や面倒な呪いを生み出す国ってやつ?」
ようやくランチを終え紅茶に口をつけるスーランは、そろそろ眠いのか目は半分も開いてない。
「だねー他にはランドル国。こっちは人身売買が蔓延」
「もっと違うもんを流行らせろよ」
「あはは。本当にそれ」
リグリアーノの言う通りである。
イアンがエリックから時たまこちらの任務も任されることがあった。何でも調教した人族を堂々と人形だと謳い人身売買が横行しているのだから世も末である。
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