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イアン 12
「別に何となくじゃないよ。そんなのエリックに言ったところでスルーされるだろうし。少なくとも気分とノリではないよ」
イアンの返答に僅かに目を細めた色眼鏡から見える鋭利な視線。それを見るだけでエリックがシュナを大切にしているだろうことがわかる。暫し見た後にエリックは視線を外し、持っていた手紙を見始めた。
「シュナとの約束があるから詳しいことは言わない。それでも気になるなら公園に行ってみたら?それ見ても気持ちが変わらないなら好きにしなさい」
「公園?」
「王都中央にある公園。その奥に四季が見られる花壇がある。そこにシュナが良く一人で散歩がてら行ってる」
それだけ言うと、もう話すことはないとエリックは手紙に目を落とした。
****************
香油を受け取る日のこと。
イアンは数日間の遠征から夕方前に戻り報告を終え、街に食料調達に向かっていた。ふと公園のことを思い出し、居るかは定かではないが花壇の方向に足を向けてみる。
シュナはそこに居た。
日中は陽が当たれば多少はましだが、まだ寒さが残る季節だ。
花壇も今の時期は寂しい限りだが、シュナは咲いている花の一画の近くにあるベンチに腰を掛けて花をじっと見つめていた。
その姿を死角から見たイアンは瞠目する。
生命の宿らない人形のような顔。
その言葉がしっくりくるほどシュナの顔に表情はない。
花を見ているのだろうが心はそこにはない。
一点を見つめ微動だにしない。
綺麗なモスグリーンの瞳は虚ろで何も映していない。
イアンはシュナのあまりに生気のない顔に心臓がぐっと掴まれたように苦しくなった。
あの顔はイアンは当然、恐らくエリック達にも見せない彼女の闇の部分なのだろう。
背中を向けて無意識に丸まって身を守るように蹲る姿。
肩を震わせながらも一人で何かに挑む小さな背中。
それを誰にも見せずに知らせずに…己だけで闇に対峙し続ける姿。
エリックの話し方から、彼もシュナを助ける術を探そうとしても彼女から約束させられ、何も出来ないことを憂いている。
この姿を見せられたら、誰もがそう思うだろう。
誰も近づけない、近づけさせないような絶対禁止区域のような異様な空間に、イアンはらしくなく呑まれそうになり息を止めていた。
どれくらい見ていたのだろう。
シュナがようやく視線を動かし始め立ち上がったので、イアンはすぐにその場から去り、その辺でたまたま見かけた体で一緒に部屋へ行こうと思っていた時に耳障りな声が届いた。
「イアン!」
その声にゆっくりと仮面を付けて振り向く。
そこには先月あたりに誘われて性交した令嬢。
とても美しく可憐で人気が高いと噂で聞いていたが、顔は多少整っていても中身は大したことがなく、寧ろマイナスな雌だった。
「ようやく会えたわ…!」
「どうしたの?」
「ここ最近どこに行っていたの?特殊部隊にも行ったけど居ないって言われて…」
この時点でイアンの中では下衆な雌に成り下がる。
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「っ!」
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その時だけを楽しむ。
そしてイアンの職場に来ない、だ。
「し、知っていたけど!それでも私…イアンにどうしても会いたくて…!どうしても貴方と付き合いたいの」
気色悪い。阿婆擦れが。
イアンは久々に外れの雌に当たり溜息を吐いた。
「ねえ、イアン!お願いよ」
うんざりしていると、そこに少し恐縮そうな――――真似をしたシュナが現れた。
そこからはシュナの演技の流れでイアンはその場からシュナと共に離れた。お礼を言っても相変わらずつれない態度の彼女にイアンは何だかほっとした。
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