75 / 129
イアン 12
しおりを挟む「別に何となくじゃないよ。そんなのエリックに言ったところでスルーされるだろうし。少なくとも気分とノリではないよ」
イアンの返答に僅かに目を細めた色眼鏡から見える鋭利な視線。それを見るだけでエリックがシュナを大切にしているだろうことがわかる。暫し見た後にエリックは視線を外し、持っていた手紙を見始めた。
「シュナとの約束があるから詳しいことは言わない。それでも気になるなら公園に行ってみたら?それ見ても気持ちが変わらないなら好きにしなさい」
「公園?」
「王都中央にある公園。その奥に四季が見られる花壇がある。そこにシュナが良く一人で散歩がてら行ってる」
それだけ言うと、もう話すことはないとエリックは手紙に目を落とした。
****************
香油を受け取る日のこと。
イアンは数日間の遠征から夕方前に戻り報告を終え、街に食料調達に向かっていた。ふと公園のことを思い出し、居るかは定かではないが花壇の方向に足を向けてみる。
シュナはそこに居た。
日中は陽が当たれば多少はましだが、まだ寒さが残る季節だ。
花壇も今の時期は寂しい限りだが、シュナは咲いている花の一画の近くにあるベンチに腰を掛けて花をじっと見つめていた。
その姿を死角から見たイアンは瞠目する。
生命の宿らない人形のような顔。
その言葉がしっくりくるほどシュナの顔に表情はない。
花を見ているのだろうが心はそこにはない。
一点を見つめ微動だにしない。
綺麗なモスグリーンの瞳は虚ろで何も映していない。
イアンはシュナのあまりに生気のない顔に心臓がぐっと掴まれたように苦しくなった。
あの顔はイアンは当然、恐らくエリック達にも見せない彼女の闇の部分なのだろう。
背中を向けて無意識に丸まって身を守るように蹲る姿。
肩を震わせながらも一人で何かに挑む小さな背中。
それを誰にも見せずに知らせずに…己だけで闇に対峙し続ける姿。
エリックの話し方から、彼もシュナを助ける術を探そうとしても彼女から約束させられ、何も出来ないことを憂いている。
この姿を見せられたら、誰もがそう思うだろう。
誰も近づけない、近づけさせないような絶対禁止区域のような異様な空間に、イアンはらしくなく呑まれそうになり息を止めていた。
どれくらい見ていたのだろう。
シュナがようやく視線を動かし始め立ち上がったので、イアンはすぐにその場から去り、その辺でたまたま見かけた体で一緒に部屋へ行こうと思っていた時に耳障りな声が届いた。
「イアン!」
その声にゆっくりと仮面を付けて振り向く。
そこには先月あたりに誘われて性交した令嬢。
とても美しく可憐で人気が高いと噂で聞いていたが、顔は多少整っていても中身は大したことがなく、寧ろマイナスな雌だった。
「ようやく会えたわ…!」
「どうしたの?」
「ここ最近どこに行っていたの?特殊部隊にも行ったけど居ないって言われて…」
この時点でイアンの中では下衆な雌に成り下がる。
イアンは元々受付には雌が来た場合は必ず居ないと伝えるように言伝ているからだ。
「僕の職場に行ったの?わざわざ」
「っ!」
「そういうことをして欲しくないと以前僕は言わなかったかな?」
特定の交際をすることはない。
その時だけを楽しむ。
そしてイアンの職場に来ない、だ。
「し、知っていたけど!それでも私…イアンにどうしても会いたくて…!どうしても貴方と付き合いたいの」
気色悪い。阿婆擦れが。
イアンは久々に外れの雌に当たり溜息を吐いた。
「ねえ、イアン!お願いよ」
うんざりしていると、そこに少し恐縮そうな――――真似をしたシュナが現れた。
そこからはシュナの演技の流れでイアンはその場からシュナと共に離れた。お礼を言っても相変わらずつれない態度の彼女にイアンは何だかほっとした。
118
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる