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イアン 18
「石鹸屋で会った」
遠征中にフェリウスが突然言い出した。
「え、何?」
「はちみつ色の髪と緑の目」
それでシュナだと理解したイアンは首を傾げた。
「え?知ってたの?」
「匂い」
「…あー」
「イリエが欲しい石鹸無くて困っていたところを同じ香りの髪の香油を紹介してもらって凄く喜んでいた」
「なるほど。彼女髪の香油を精製してるんだよ」
「その後すぐ薬屋行った」
「あはは。早いお買い上げー」
「お礼にイアンの使ってる石鹸呟いておいた」
「え?」
「――いた」
聞き返したイアンにフェリウスが視線で標的の相手を指す。
「あ。いた」
「俺は援護」
「了解ー」
それぞれが迅速に動き幾分も経たないうちに対象を捕縛したイアン達は後から来た仲間に引き渡した。
(…石鹸をわざわざ買ったってこと?僕と同じ匂いがするから?)
この前シュナから香ったイアンの石鹸の匂い。
たまたま買ったと言っていたが、今思うといつもよりつんつんした言い方ではなかっただろうか。
(…かーわい)
まさかフェリウスにチクられるとはシュナも思っていなかっただろう。イアンはあの時のシュナの言い方を思い出してくすくすと笑ってしまった。
「何笑ってるの」
「…くく。いやー?あ、そうだ。フェリウスに一番に言っておく。僕シュナと番縁繋ごうと思ってるんだ。本人にまだ伝えていないけど」
イアンの言葉に流石のフェリウスも目を丸くして驚いたが頷く。
「納得。イアンは変わった」
「そう?」
「親友だからわかる」
「僕もあの時わかったからねー」
「ああ」
「さあ、早く戻ってお互い会いに行こー」
「イリエ不足」
思ったより早く今回の任務を終えたイアン達二人は帰路に着く。
遠征から戻り報告しに行く前に少しだけ伯爵家に立ち寄ったイアンは、両親にシュナと番縁を繋ぐ意志を伝えた。
イアンの過去を知る二人は万歳三唱しており問題なさそうだ。
ローアンには伝えておいてくれるとのことで、お願いしたイアンは依頼とシュナのことを報告しに薬屋に赴いた。
「シュナが傍に居ると物凄く良く眠れるし居るだけで落ち着くの。物凄く大事にしたいから番縁結んでも良い?」
任務の報告の後にイアンが伝えると、エリックはぽかんと口を開けた。
「は?マジで言ってんの、あんた」
「マジもマジ。僕がこんな冗談言ったことないでしょ」
それでもエリックは驚いたままだ。
「傷だらけで健気に蹲って身を守るあの子を助けられるのは、狡猾で用意周到な僕しか居ないと思うんだよね。そもそも僕がずっと一緒に居たいし僕が一緒に幸せになりたいと思った初めての子だから逃さないけど」
すらすらとシュナへの想いを言葉にする度に覚悟は強固になっていく。
それを聞いていたエリックが溜息を一つ吐いた。
「…本気なら許す」
「うん。許して貰えなくても僕は行動するけどね。それにエリックに伝えたって言えばシュナも信じるでしょ」
その言葉にエリックが眉を下げて僅かに微笑む。まるで無鉄砲な妹を心配する兄のように。
それともう一人の兄にもだ。
「もう一人も納得させといてー」
「もう一人?」
「僕くらいにしか分からないかな。僅かな気配。カウンター奥に居るでしょ」
それだけ言ってイアンは寂れたドアベルを鳴らして出て行った。
「シュナ。僕と番縁、繋ごう?」
部屋に居なかったシュナは公園に居た。
イアンが話しかけても何故か反応が薄い。
ふと顔を良く見ると全体に珍しく化粧を施していて、目元の下が特に濃かった。
シュナは眠れていなかった。
今までが頑張り過ぎていただけなのだ。
いつ壊れてもおかしくなかったのに何とかそれでも耐えていた。
本当にいじらしくて強い子だ。
イアンは先ず自分のクズになった経緯を話した。
阿婆擦れから睡眠薬で犯された話をした時に顕著に身体が強張ったので、きっとシュナも同類の事情だろうことは確定だ。
シュナへの想いを伝え彼女の綺麗な美しいモスグリーンの瞳が潤む。
シュナでなければ駄目なのだと言葉を重ねる。
過去を無理して話さなくて良いのだと伝える。
それが何十年後でも―――――最悪言わなくても良いのだと伝える。
番縁の言葉に、唯一の伴侶を望む言葉に、シュナの涙腺が崩壊する。
ちゃんと保険もかける。
クズ二人が居なくなることで巷が安心すること。
現在犯罪者ではない確認。
シュナの信頼するエリックにも直接伝えてあること。
自分を蹴落とす言葉や自虐的な言葉をイアンは否定しない。
でもイアンが想うシュナのことも否定はさせない。
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