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外道の心を折る方法 1
しおりを挟む本来は夕方頃行く予定だったが、あの後イアンから何倍もの仕返しされたので夕食の給餌という軽い屈辱を経てから薬屋に行くことになった。「けしかけたのはシュナだからねー」といつも以上に艶々した麗しい笑顔で言ってくるイアン。
またそのうち拙い孔雀にしてやると心に固く決めて、馬車で薬屋の前まで赴いた。
夜の薬屋の前はレトロな照明がほんのり灯っている。
寂れたドアベルを鳴らし扉を開けようとすると、その扉がバッと開き目の前に長身のエリックが居たことにシュナは驚き、同時に体がふわりと浮いた。
「ちょっと」
いつもより少し低めのイアンの声にも、目の前でシュナを抱き上げぎゅっと抱き締めるエリックにも驚きの連続である。
「……良かった」
シュナを抱き締めながら心の底から安堵するようないつものオネエ言葉よりも低めのエリックの声は、もしかしたら彼の素の声かもしれない。
シュナを心配してくれていた声に固まってしまっていたが、ゆっくりとエリックの首に腕を回した。
「…心配かけてごめんね。エリックの情報のおかげで無事…?戻れたよ」
まあアーロにあれこれされはしたが、イアンとエリック達のおかげで戻れたことは確かだ。
「…ああ」
エリックがシュナの頭を撫でながらぎゅっと少し強く抱き締めてくる。今まで頭を撫でられたことはあったが、こうして抱擁してもらったことはなかった。
シュナは勝手ながらエリックを兄と慕っていたが、こういうことはする習慣すら知らなかったので、驚き以上に嬉しさが勝る。
目頭が熱くなるが、瞬きで何とか抑えシュナも回した腕をきゅっと少しだけ強くして今までの…十年以上シュナを見守ってくれていた恩人に感謝を述べる。
「エリックのおかげでここまで頑張ってこれたよ。―――私にとって血が繋がらなくても勝手に大事な家族だって思っているの。いつもありがとう」
「お―――…私も昔から思っている。シュナは大事な身内。とても大切」
いつもの口調に戻ったエリック。だがさっきまではシュナを気にかけてくれて本来の姿が―――出てしまうくらいに大事だと思ってくれていたことにイアンとはまた別の歓喜が湧き起こる。
「ねーそろそろ家族の抱擁終わりにしてくれるー」
ちょっと拗ねたような声と共にべりっとシュナはエリックから剥がされた。そして即座にぎゅうっと抱き締められ、イアンの顔がバターブロンドの髪に埋め込まれる。
「あんたね…」
「幾ら家族でも長いよ」
「あんたの変化に驚きよ」
「家族にとっても多方面から安心できる最強の相手でしょ?」
「やれやれ」
「ふふ」
しれっと言うイアンにエリックが苦笑しシュナは思わず何気に仲の良い二人に微笑んでしまう。
イアンはシュナの髪から頬に移行し唇をすりすりさせながらエリックに声をかけた。
「それでどうなった?」
「デュークとフェリウスが事後処理してこちらで捕らえてる。既に派遣が向かっているから明日中には戻るでしょ」
「ふーん。勿論こっちで処理するんだよね?」
「それが大前提」
二人の会話からアーロは無事捕らえられたようで安心する。そしてデュークも動いていてくれたのだ。
「エリック。あの、新しい媚薬なんだけど…」
「ああ、デュークが地下から見つけた。シュナの情報通りに金庫にしこたま入ってた。あの証拠品は相当でかい」
「良かった…」
人族の尊厳を真っ向から潰すあんな媚薬が絶対に出回って欲しくはない。
「あれで、あいつはもう終わり?」
「二度と表には出られない」
「そっか…」
シュナがされたことは記憶からは失くならないけど、今後アーロから何かされることは無いと思うだけでこんなに心が軽くなる。
エリックがイアンが抱き上げているシュナの傍まで来て大きな手で優しく頭を撫でてくれた。
「十年以上…最後まで目を背けずに良く頑張った。シュナは私の自慢の家族」
その言葉に我慢が出来ずにぶわりと目元が緩みぽたりと涙が落ちた。
「あの時エリックに出逢えて本当に良かった。あれが私の転機だったもの」
「…私もよ」
少し眉を下げて微笑むエリックの表情がとてもシュナは好きだ。
「何だかなぁ…僕が知らない間の関係に物凄く嫉妬」
「仕方ないでしょそれは。これからはあんたが築くのよ」
「うん。残りは全部僕のだから」
「…あんたの変わり様にドン引きよ」
「あはは」
思わずシュナは笑ってしまう。それを見たイアンがふわりと微笑んで今度は鼻をすりすりと頬に当ててくる様が本当に可愛い。
後日アーロ関連の処理が終わり次第連絡をくれると言われ、シュナとイアンは離れの家に戻っていった。
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