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真夜中
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彼は、僕の手刀を前転で避けた。
(!!)
僕は驚くも、次の動作に移った。初撃を躱された場合、初撃から次の動作をどれだけスムーズに繰り出せるかが、戦闘を生業とする僕たちの世界じゃ重要になってくる。何があろうと、次の手を迷う理由にはならない。
僕が次に選んだのは、十字斬りだった。
パンッッッッッッ!!!
南側に取り付けられていた大きな窓が、十字に音を立てて割れた。ガラスが床に散らばり、足場が悪くなる。
彼は白銀の髪を揺らして、僕を睨んだ。その目からは不快感が見て取れた。
「いきなり襲いかかってくるとはな」
「政府の意向です」
彼は、僕の言葉に更に不機嫌さを加速させた様だった。
「お前の意見は?」
「家畜は意見など持ちません」
彼は心底不満そうに、溜息をついた。それから、彼は自分の心臓に手を当てた。
「お前がその気なら、俺様もとことんやる。お前の曇った心臓とは違う、輪郭がはっきりしている俺様の心臓を見せてやる。手本にしやがれ」
僕は身構えた。世界最強と謳われる、彼の『武器』が来る。真っ赤な刀身を持つ肉切り包丁という事以外、何も知らない。噂では、形を変える事も出来るのだとか。これが初めての、彼の『武器』を間近で見た瞬間だった。
________
ズルッと、彼の心臓が形を変えて出てくる。その瞬間、この部屋は一つの星が誕生したかの様な、眩しくて赤い光に包まれた。
こんな目を眩ませる様な光を放つには、相当な鍛錬と才能が必要だ。彼は現役を引退しても、世界最強という称号に値する努力をしていたのだろう。そんな貫禄が、彼の光にはあった。
「出したのは、1年3ヶ月ぶりか」
彼が完全に心臓を出し終えた所で、やっと光が収まってきた。僕が実際に、その武器の全貌をしっかり見たのは、彼が心臓を出し始めてから10秒くらい経った後だった。
その武器は、本当に真っ赤だった。
刃と模様以外を、真っ赤に染め上げた無駄のない肉切り包丁。上部に施された白薔薇の模様は、己を主張する様に咲き、霜が降った様な白刃は、その切れ味を誇るかの様に輝いていた。
その威風ある佇まいと、周りを圧倒する勢いの美しさに、僕は思わず目を背けた。
僕は自分の手を見やった。
僕の手には、僕の心臓が填めてあった。防刃素材で出来た、黒い革製の手袋。手の甲には銀色の突起が無数についている、どこにでもある様な物。
自分と彼を見比べる。
確かに僕の手袋は、なんだかぼやけていて、輪郭がはっきり見えない。対して彼の包丁は、白刃と峰の部分の境目まで、くっきりと見えるのだ。
(彼の言った通りだ。僕は心だけじゃくて、ただの臓器である筈の心臓まで、曇っている)
僕はふと思った。
『彼の様になれたら』
僕は頭を振って、邪念を払った。いくら嘆こうが羨もうが、これが僕なのだ。他の何者にもなれはしない。僕はこの在り方で、彼はあの在り方なのだ。
僕は所詮、家畜なのだ。僕に、彼の様な強固な自我など、全くもって必要とされていないのだ。
僕は拳を握りしめ、彼を真っ直ぐ見据えた。
「……貴方の武器の在り方は、確かに手本になります。でも、僕はこの生き方をすると、はるか昔に決めました。今更、変える事はありません」
「……つまんねぇ奴。まるで人形だな」
「人形でいいです。僕にとって、これが最善の在り方だから」
そう信じてる。僕はこれで良い。弟や母も、これを望んでいる筈だ。
貴方に理解されなくたって、別に良い。
僕はガラスの中を、彼目掛けて駆け出した。
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