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車を飛ばさせて位置情報の示す場所に辿り着いた。微かに香夜の香りがする。ここに連れて来られたのは間違いないだろう。建物内にいる奴らは全員敵だと判断して、フェロモンで威圧する。
俺は誰にも邪魔されることなく、建物内に侵入した。香夜の匂いが強くなる方に歩いていく。一刻も早く香夜の安全を確保したい。きちんと場所を見極めつつ進んでいく。
辿り着いた部屋には鍵が掛けられていて、重厚な扉は蹴破るには丈夫すぎる。しかしフェロモンが漏れ出すだけの隙間があるならこちらのフェロモンも流し込めるということだ。
なら中にいる奴に開けさせればいい。基本的に威圧に使うことが多いが、命令に従わせる事もできる。取り敢えずさっさと開けばいい。
「開けろ」
鍵がカチャリと開けられる音がする。中に踏み込めば意識のない香夜が倒れていた。急いで香夜を抱き起こす。平伏するように頭を下げている奴を意識だけ失わせて、香夜を連れて建物を出る。
「香夜…くそっ…」
苛立ちはあったが、何よりも香夜の安全や体調が心配だった。すぐにでも病院に連れて行った方がいいだろう。至るところに打撲痕が見える。番を傷つけられた事に対して、殺したいほどの憎しみが湧き上がるが、香夜の手当が先だ。
呼吸も問題はないようだが…意識がないのが不安要素か…。グチャグチャになりそうな思考を深呼吸することでなんとか落ち着ける。ここまで来た車に乗り込み、直ぐに病院へ行くように指示を出す。
移動の間に春夜達に連絡を回す。俺は香夜の側にいてやりたい。後のことは押し付けよう。
「秋夜、香夜ちゃんは?」
「助けだした。けど怪我してるから病院連れてく。あと任せた」
「ん、あとで場所教えて。お見舞い行くから」
「ん、もう切るぞ」
「いいよ、香夜ちゃんに手ぇ出した奴はちゃんと地獄に落としてやるから安心して」
「頼んだ」
「うん、大事な兄弟の為だからね。また連絡する」
「ああ」
面倒事いつも押し付けて多少悪いとは思っているが、正直有り難い。香夜のことで頭いっぱいで考えが纏まらないからな。
病院に連れていき、医者に見させたが検査は必要だが骨などにも異常は見られないとのことだった。打撲のみで済んでいるようだ。だからといって許せるわけではない。
検査を終えて、真っ白なシーツの中で眠る香夜の手を取る。医者が大丈夫だと判断しようが、10時間ほど経っても目覚めないし…痛々しい傷が見えて、不安な気持ちも募っていく。この子を失ったら生きていけないと感じるほどに。
「早く目覚めてくれ…」
ついつい力が入り、ぎゅっと握ってしまった手を緩めようとすると、手を握り返される。
「香夜…?」
「ん…しゅう…や…」
名前を呼べば香夜の目がうっすら開き、返事もしてくれる。その瞳と目が合って…本当に大丈夫なんだと思え、安心感が広がっていく。あ"ー…マズい泣きそう…顔を伏せて、涙を抑える。香夜も怖かっただろう。
安心させたくて精一杯の笑顔で話しかける。
「良かった…目が覚めたんだな…一日寝てたんだよ?お寝坊さん」
「…心配かけて…ごめん…ありがとう助けてくれて」
「っ…」
あー…さっきは堪えたのに…
結局泣いてるし…情けな…。溢れる涙を見られないように指で拭う。多分見られてない…と信じたい。
「香夜…一緒に居るから眠いなら寝な?」
「うん…ありがと…」
「あと…助けに行くの遅くなってごめん…。」
「ううん、そんなこと謝らないでよ…。大好き秋夜」
「ん…俺も大好き。おやすみ香夜」
「おやすみ…」
まだ身体を休ませた方が良さそうだし、眠そうだったので寝かせることにした。直ぐに寝てしまった香夜の様子を見つつ、学校や仕事関係のことを済ませていく。
香夜が安心して過ごせるようにしてやらないと…。今回の事があって香夜を閉じ込めて安全に囲ってしまいたいという思いも無いわけではない。しかしそれを香夜は望まないだろう。お互い許容できる範囲を話し合いながら出来るだけ安全性を確保しよう。
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