80 / 123
東京デート
待ちに待った土曜日、沙羅は東京駅のカフェに着いた。
カウンターで抹茶クリームフラペチーノを受け取り、駅の通路に面したカウンター席に腰をおろした。
これから久しぶりに慶太に会うかと思うと、駅構内を行き交う人々を眺めているだけでもウキウキと
楽しい。
あの服が可愛いとか、バッグが素敵だとか、以前よりもファッションに興味を持つようになったのは、慶太と並んで歩く自分を想像してしまうから。
今日の服装はパイピングデザインのワンピースに大判のスカーフ、靴はグレーのツイードパンプス、自分なりにオシャレをしたつもり。
ストローに口を付け、ミルクの甘さと少しほろ苦い抹茶の風味を味わいながら、ふと顔を上げた。すると人混みの中に慶太の姿を見つける。
細身のスーツをパリッと着こなし、背の高さも相まって、まわりの目を引いている。
慶太も沙羅に気付いたようで、肩まで手を上げ合図してくれた。
それだけで、沙羅からは自然と笑みがこぼれ、小さく手を振り返す。
抑えきれない気持ちに背中を押され、ドリンクのカップを手に慶太へ駆け寄った。
「ごめん、待たせたみたいだな」
「ううん、私が早く着き過ぎちゃったの」
「もしかして、会えるの楽しみにしてくれた?」
慶太に笑いながら冗談ぽく言われ、図星を突かれた沙羅は、気恥ずかしさで顔に熱が集まる。
「そ、そう。楽しみだったの。慶太に会えるのが……」
最後の方はもにょもにょと口ごもってしまう。
すると、慶太は少し身を屈め、沙羅の耳元で囁いた。
「俺も沙羅に会いたかった」
耳から入る声に甘く蕩けさせられて、体中に熱が駆け巡る。
こんな人混みの中で抱き合う事も出来ない。それを沙羅は恨めしく思いながら、慶太を見上げた。
「もう、人のことドキドキさせて!」
こそばゆかったのか、耳に手を当てている。身長差で自然と上目づかいになった沙羅は、頬が赤く染まり、慶太の目には可愛く映る。
「俺も沙羅に会えてドキドキしているよ」
「ばか……」
耳まで赤くして、恥ずかしそうに沙羅はうつむいた。
クスッと笑い慶太は手を差し出す。
「さあ、行こうか」
「うん」
差し出された大きな手の上に手を重ねる。
「東京駅にギャラリーがあるなんて知らなかったよ」
沙羅が行きたいと言って指定したのは、東京駅の中にあるステーションギャラリーという施設だ。
仕事で東京に来た慶太を気遣い、疲れないようにとアクセスや混み具合を考えてココにしたのだ。
「私も初めてなの。長年、東京に住んでいるのに全然知らなかった。ホームページを見てみたら建物自体に歴史があって、美術品よりレンガに興味が出て来て」
「明治から大正の頃の建築物はどれも重厚なのに優美で芸術的だよな」
「ギャラリーのシャンデリアも見どころの一つらしいの。写真で見た感じだと余計な装飾が無くて、品があって素敵だった」
嬉しそうにふわりと微笑む沙羅。
繋いている温かな手を離したくないと慶太は手に力を籠めた。
「わースゴイ、圧巻ねー」
ステーションギャラリーの壁、赤レンガに刻まれた傷は100年の歴史を間近に感じられる。
2階の回廊からは東京駅北口のドームが見渡せ、より迫力のある景色が堪能出来る。
東京駅大正3年創建当時のドーム型天井が復元されたもので、鷲のレリーフを取り囲むように十二支のレリーフが配置され、見ごたえ十分だ。
木製の階段、モダンな現代の手すり、100年も昔のレンガの壁、新古が合わさった螺旋階段を上がり3階までたどり着く。
お目当てのシャンデリアは、白木蓮の花のような、可憐で凛とした趣がある作り。上品でありながら温かみのあるデザインに暫し見惚れてしまう。
「素敵……」
「ああ、良いな。後ろのステンドグラスとのバランスも良い」
慶太が感心しながらつぶやき、指で構図を測るように四角い枠を作っている。
「仕事の事、考えていた?」
沙羅は、慶太の顔を覗き込む。
「そうだな。新しく作るホテルのヒントになりそうで」
「TAKARAリゾートがあこがれの宿として人気なのは、慶太が熱心に取り組んでいるからだよね」
「こんな時まで仕事ばっかりで、面白味もないよな。ごめん」
「ううん、自分で考えた事が形になって行くのって楽しいもの。楽しく仕事が出来るのって、すごく良いことだと思う」
大学を卒業後、あたりまえのようにTAKARAに入った。後継ぎとしての義務感から始めた仕事。仕事が楽しいかどうかだなんて、考えたこともなかった。
ホテル事業は、維持管理に骨が折れる。
けれど、新規の事業に関しては、場所の選定から始まり、何もなかったところに、社員たちと出し合ったアイディアを詰め込んだホテルが出来上がっていく様は充実感がある。
もちろん楽しい事ばかりじゃない、資金繰りに頭を悩ませたり反対意見がでたり、思わぬ横やりが入る事もある。
でも、困難を乗り越え、OPENまで漕ぎ着けた時の達成感は、何物にも代え難い。
「そうだな。大変だけど楽しいよ」
カウンターで抹茶クリームフラペチーノを受け取り、駅の通路に面したカウンター席に腰をおろした。
これから久しぶりに慶太に会うかと思うと、駅構内を行き交う人々を眺めているだけでもウキウキと
楽しい。
あの服が可愛いとか、バッグが素敵だとか、以前よりもファッションに興味を持つようになったのは、慶太と並んで歩く自分を想像してしまうから。
今日の服装はパイピングデザインのワンピースに大判のスカーフ、靴はグレーのツイードパンプス、自分なりにオシャレをしたつもり。
ストローに口を付け、ミルクの甘さと少しほろ苦い抹茶の風味を味わいながら、ふと顔を上げた。すると人混みの中に慶太の姿を見つける。
細身のスーツをパリッと着こなし、背の高さも相まって、まわりの目を引いている。
慶太も沙羅に気付いたようで、肩まで手を上げ合図してくれた。
それだけで、沙羅からは自然と笑みがこぼれ、小さく手を振り返す。
抑えきれない気持ちに背中を押され、ドリンクのカップを手に慶太へ駆け寄った。
「ごめん、待たせたみたいだな」
「ううん、私が早く着き過ぎちゃったの」
「もしかして、会えるの楽しみにしてくれた?」
慶太に笑いながら冗談ぽく言われ、図星を突かれた沙羅は、気恥ずかしさで顔に熱が集まる。
「そ、そう。楽しみだったの。慶太に会えるのが……」
最後の方はもにょもにょと口ごもってしまう。
すると、慶太は少し身を屈め、沙羅の耳元で囁いた。
「俺も沙羅に会いたかった」
耳から入る声に甘く蕩けさせられて、体中に熱が駆け巡る。
こんな人混みの中で抱き合う事も出来ない。それを沙羅は恨めしく思いながら、慶太を見上げた。
「もう、人のことドキドキさせて!」
こそばゆかったのか、耳に手を当てている。身長差で自然と上目づかいになった沙羅は、頬が赤く染まり、慶太の目には可愛く映る。
「俺も沙羅に会えてドキドキしているよ」
「ばか……」
耳まで赤くして、恥ずかしそうに沙羅はうつむいた。
クスッと笑い慶太は手を差し出す。
「さあ、行こうか」
「うん」
差し出された大きな手の上に手を重ねる。
「東京駅にギャラリーがあるなんて知らなかったよ」
沙羅が行きたいと言って指定したのは、東京駅の中にあるステーションギャラリーという施設だ。
仕事で東京に来た慶太を気遣い、疲れないようにとアクセスや混み具合を考えてココにしたのだ。
「私も初めてなの。長年、東京に住んでいるのに全然知らなかった。ホームページを見てみたら建物自体に歴史があって、美術品よりレンガに興味が出て来て」
「明治から大正の頃の建築物はどれも重厚なのに優美で芸術的だよな」
「ギャラリーのシャンデリアも見どころの一つらしいの。写真で見た感じだと余計な装飾が無くて、品があって素敵だった」
嬉しそうにふわりと微笑む沙羅。
繋いている温かな手を離したくないと慶太は手に力を籠めた。
「わースゴイ、圧巻ねー」
ステーションギャラリーの壁、赤レンガに刻まれた傷は100年の歴史を間近に感じられる。
2階の回廊からは東京駅北口のドームが見渡せ、より迫力のある景色が堪能出来る。
東京駅大正3年創建当時のドーム型天井が復元されたもので、鷲のレリーフを取り囲むように十二支のレリーフが配置され、見ごたえ十分だ。
木製の階段、モダンな現代の手すり、100年も昔のレンガの壁、新古が合わさった螺旋階段を上がり3階までたどり着く。
お目当てのシャンデリアは、白木蓮の花のような、可憐で凛とした趣がある作り。上品でありながら温かみのあるデザインに暫し見惚れてしまう。
「素敵……」
「ああ、良いな。後ろのステンドグラスとのバランスも良い」
慶太が感心しながらつぶやき、指で構図を測るように四角い枠を作っている。
「仕事の事、考えていた?」
沙羅は、慶太の顔を覗き込む。
「そうだな。新しく作るホテルのヒントになりそうで」
「TAKARAリゾートがあこがれの宿として人気なのは、慶太が熱心に取り組んでいるからだよね」
「こんな時まで仕事ばっかりで、面白味もないよな。ごめん」
「ううん、自分で考えた事が形になって行くのって楽しいもの。楽しく仕事が出来るのって、すごく良いことだと思う」
大学を卒業後、あたりまえのようにTAKARAに入った。後継ぎとしての義務感から始めた仕事。仕事が楽しいかどうかだなんて、考えたこともなかった。
ホテル事業は、維持管理に骨が折れる。
けれど、新規の事業に関しては、場所の選定から始まり、何もなかったところに、社員たちと出し合ったアイディアを詰め込んだホテルが出来上がっていく様は充実感がある。
もちろん楽しい事ばかりじゃない、資金繰りに頭を悩ませたり反対意見がでたり、思わぬ横やりが入る事もある。
でも、困難を乗り越え、OPENまで漕ぎ着けた時の達成感は、何物にも代え難い。
「そうだな。大変だけど楽しいよ」
あなたにおすすめの小説
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
先輩、お久しぶりです
吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社
秘書課
×
藤井昂良 大手不動産会社
経営企画本部
『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。
もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』
大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。
誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。
もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。
――それも同じ会社で働いていた!?
音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。
打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……
【完結】泡になった約束
山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。
夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。
洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。
愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。
そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。
振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。
平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。