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第25話、ある一人の少女の話【トワイライト王国聖女】
しおりを挟む「ミレイ、今日も綺麗だね」
「その、あ、ありがとうございます王子様……」
「王子様じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでほしいな」
「え、えっと……じゃあ、キリングさま……」
頬を赤く染めながら答える少女の姿を、とても愛おしそうな顔をしながら見つめている一人の青年――彼こそはこのトワイライトの第二王子であり、次期国王と噂されている男である。
その男の隣に立つ一人の少女こそ、このトワイライト王国に召喚された『聖女』である少女、『藤崎美鈴』なのである。
一年前、ミレイはこの世界に召喚された。
召喚されたと同時に、ミレイの周りの人間の男たちはとても綺麗な男ばかりでまず驚いており、自分が聖女と言われた瞬間、ミレイは目を輝かせて思ったのである。
(ああ、私はこの人たちに愛されるために、この世界に召喚されたんだ!)
そのように考えた次の日から、手に入れたい、傍に置きたいと思っていた男たちは、まるで自分しか見ていないかのように愛の言葉をかけてきてくれたり、モノを送ってくれたり、自分の事しか考えてくれない人ばかり、集まってきてくれた。
その代わり、貴族の令嬢たちには嫉妬と思えるような目で見られてしまったが、何人かはそんな私を気遣って、友人のようになってくれる人たちもいた。
幸せな世界だったはずだ。
そして、自分の思う通りの世界になってきた、はずだ。
召喚される前、ミレイが暮らしていた場所は、ある意味地獄だった。
両親は美鈴の事を愛してくれなかった。
友達なんて、居なかった。
男たちなんて、こちらの世界に比べれば、汚い存在のような場所だった。
そんなミレイが憧れた世界は、ライトノベルと言う創作の世界。
本当にこのような世界に入る事が出来たら、自分が主人公のような事になったら、何度も同じような事を考えた結果――その通りになってしまったのである。
ミレイの世界に、少しだけ綻びが見えた事がある。
クラウス――『血濡れの狂騎士』と呼ばれている男には、ミレイの魅力がわからなかったのである。
普通、好意を持っている男性ならば、ミレイに魅了されて手を伸ばし、愛を囁いてくれる存在のはずなのに、クラウスは全く靡く事なく嫌そうな顔でいつもミレイを見つめていた。
初めて、自分の思い通りにならない相手に出会った事で、逆にミレイはクラウスに惹かれていく。
目の前の男を自分のモノにしたい――そのような『欲』がミレイに襲い掛かったのである。
「――クラウス様、聖女のお役目が終わったその時に、結婚前提にお付き合いしてくださいませんでしょうか?」
ある日、ミレイはクラウスを呼び出し、求婚を申し込んだ。
絶対に、何が何だろうとも、クラウスは断るはずがないと思っていたからである。
聖女は既に王城に居る全ての貴族を味方につけたので、権力は絶対だという事はわかっていた。
だから、クラウスがこの場で断ってしまったら、王城の全ての貴族を敵に回す事になってしまう、それは間違いなかった。
しかし、予想以上にクラウスは目の前の聖女の事が嫌いだったのであろう。貴族など、どうでも良かったのであろう。
全ての世界がクラウスの敵になったとしても、クラウスにとって、譲れないモノがあったのかもしれない。
「え、嫌です」
たったそれだけ、その一言だけだった。
クラウスの表情は明らかに目の前の女を敵対しているかのような視線で聖女であるミレイを睨みつけていたのである。
どんな事をしたとしても、クラウスは間違いなく聖女のモノにならない、そのように思ったミレイは目を見開き、背を向けて去って行ってしまったクラウスを呆然と見つめ、静かに呟いた。
「……わ、私のモノにならないなら……」
――この『世界』からいなくなった所で、誰も悲しまないだろうね。
ミレイにとってこの『世界』は全て、自分のモノだと思っていたからこそ、そのような考えを持つようになったのだ。
だからこそ、簡単に王城の中に居る貴族の青年たちに声をかければ、クラウスの事を何とかしてくれると話がつき、またミレイの世界は元通りになった。
相変わらずの彼女の事を綺麗だと言ってくれたり、手を取ってキスをしてくれたり、毎日のように愛の言葉を囁いてくれたり、ミレイにとって今の世界は美しく、そして最高の毎日だった。
聖女の仕事と言うものは未だにわからない。やろうともしなかった。
ミレイはこれから起こる未来なんて、大丈夫なのだろうと簡単な事だと思っていたのだ。
まるで乙女ゲームのように。
徐々に彼女の未来が壊れ始めていっているなど、その時誰も思っていなかった。
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