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第33話、ルーナに近づく闇。

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「落ち着いた、神父様」
「半分」
「……顔つきめっちゃ変わってるから、サーシャが帰ってくるまではいつものクソ神父の顔でいてよ」
「努力する」
「……ったく」

 しかめっ面をしているシリウスの様子を見ながら、ため息を吐き、ルーナはシリウスに水を渡す。
 受け取った水をすぐには飲まず、舌打ちをした後、水から出てきた自分の顔を見て余計に不機嫌になっており、そんなシリウスの様子を見ながら再度深くため息を吐いていた。

 そんな二人のやり取りを見つめていたクラウスは、同じように二人の様子を見ながら笑っている老婆、カルーナに視線を向けて声をかける。

「カルーナ……さん」
「ん、なんじゃ若いの?」
「……一つだけ聞いても良いか?」
「……大事な話のようじゃの」
「ああ、俺にとっては大事な話だ」

「――ルーナに迫っている闇と言うのは、どんなモノなんだ?」

 真剣な眼差しで静かに呟くようにしながら答えるクラウスに対し、カルーナは一度、ルーナとシリウスの二人に視線を向け、そしてクラウスに目を向ける。
 クラウスに静かに近づいたカルーナは彼の前に座り込み、ルーナに指を指して問いかける。

「お前は、ルーナの事をどう思う?」
「……俺にとっては、大切な人だ」
「お前は、ルーナの事を傷つける奴か?」
「絶対にそんな事はしない……つもりだ。ただ、俺の傍に居れば、もしかしたら周りに色々と言われるかもしれない」
「お前の事はルーナから色々と聞いておる……『血濡れの狂騎士』と言われている事もな」
「ああ……」

 クラウスの通り名――『血濡れの狂騎士』。
 数年前の大きな戦でトワイライト王国の騎士の一人として、敵対していた国との戦いで、あまりにも強く、あまりにも血に塗れ、狂戦士のような存在だと、敵味方に恐れられた事がある。
 たまに魔獣退治の時でも、前に出て戦い、血を浴びる事はある。

「ルーナは俺の事を風の噂で聞いていたと言っていたが、それでも彼女は俺の傍に居てくれた……それに、命の恩人だ」

 敵味方関係なく、彼女は手を差し伸べ、『友達』と言ってくれたこともある。
 ただ、それだけの言葉で救われていたのだ。

 友だと思っていた男が裏切り、トワイライト王国では既に全てが敵になってしまった。唯一信じてくれていた家族が外に逃がしてくれたことで今、こうして生きている。
 トワイライト王国で家族がどのようになっているのかわからない。もしかしたら捕まっている可能性が高い。
 国は全て、『聖女』が握っているようなモノだ。

「いつかは……この村を出て、国に戻らなければならない。決着をつけなければならない……ルーナを巻き込むつもりはないが……それでも今は、俺は彼女の傍に居たい」
「ふむ……国と言うのはトワイライト王国、じゃったな?」
「ああ……」
「……」

 トワイライト王国の名前を言った後、カルーナは一度口を閉ざし、何かを考えこむような形を取り、数分後に再度クラウスに目を向ける。
 大きな瞳で視線を向けられた事に少しだけ驚いたクラウスだったが、その瞳は何処か優しさを感じさせるほど、温かい瞳だった。

「どこまで教えればいいのかわからん。お前さんはある意味、『余所者』だからの」
「……ああ、わかってる」
「……そして、ルーナの出生に関する事でもある。ルーナはまだ幼かったからこそ何もしらないがな」
「ルーナの、出生?」

 ルーナはこの閉鎖された森の中でひっそりと暮らす、医者のまねごとをしているただの女だと、言っていたことを思い出しながら、クラウスは言う。

「ルーナは自分は孤児で、神父様に引き取られた、と」
「ああ、あれはシリウスが考えた嘘じゃ」
「え……」
「生い立ちについてはシリウスに聞くがいい。奴の方が一番詳しい」

 静かにため息を吐きながらそのように発言すると、カルーナはシリウスとルーナのやり取りをしている様子を見つめながら、問いかける。

「時にお前さん、『大罪を犯した勇者』の話は知っておるか?」
「ああ、それは確か……数年前に起きた、小国の国が民、王国の者達全てを皆殺しにされた話か?」
「そうじゃ……少年だった『勇者召喚』された異世界のモノが、ある一つの目的の為にその小国を滅ぼした話じゃ」
「……御伽話だと、トワイライト王国では伝わっている」
「本当の話じゃぞ……現にわしは、ちゃんと見た」
「え?」

 まっすぐな瞳で、真顔で、そのように答えたカルーナの瞳に嘘はなかった。
 トワイライト王国ではその話は有名なのだが、その話は嘘なのではないか、御伽話ではないか、と言う話が多いため、誰も信じていない話だった。
 しかし、カルーナはその話は現実だと言った。
 睨みつけるような、強い目でカルーナは何かを訴えるかのように、クラウスを見つめている。何も言えないクラウスは息を静かに飲んだ。

「……必ずしも『勇者召喚』されたモノが善人だと言えん……現にトワイライト王国の『聖女』はそうであろう?」
「……ああ」

 『勇者』だろうが、『聖女』だろうが、必ずしも召喚されたモノは善人とは言えない。クラウスはその話については納得する事が出来た。
 クラウスはルーナに目を向ける。
 ルーナは心配そうな顔をしつつ、シリウスの傍に居て話を続けている。対し、シリウスの機嫌は未だに直らず、不機嫌そうな顔をしながらルーナを見ていた。

「……『闇』と言うのは、その少年じゃ」
「……は?」

 突然目の前の老婆は何を言っているのか理解が出来ない。
 驚いた顔をしながらクラウスは一度問いかけようと、口を動かそうとしたのだが、カルーナはその目を濁す事なく、はっきりと答えた。

「大罪を犯した『勇者《魔王》』が手に入れたかったのは、あの子なのだから」
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