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第49話、ある騎士の話⑬【血濡れの狂騎士】
しおりを挟む聖女が来てから、あの国はおかしくなっていく。
同時に、まるで世界が遮断されてしまったかのように、他国との交流も徐々になくなっていくかのように、この村のように孤立していくかのように感じたまま、クラウスはそれを口にする事が出来なかった。
口にしてしまったら、自分が消えてしまう気がしたから。
既に魅了されてしまった友人、部下、周りの人間たちに助けを求める事も、声をかける事も恐れた。
それは、クラウスが決めた事だ。
クラウスの故郷であるトワイライト王国が消える、滅びる、と言う話をしたが、ルーナの言葉は軽いモノだ。
「へー」
彼女はどうやら興味がなかったらしい。
(やはり、彼女らしい)
まだそんなに日はたっていないが、ルーナと言う存在を理解している。
トワイライト王国が滅びたところで、ルーナには関係ない話だ。
「全く興味がなさそうな顔をしているな」
「クラウス様には申し訳ないのですが、興味と言うものがわかないです」
「そうか」
「……だけど、一つだけ思っている事はありますよ」
「思っている事?」
「――腹が立ちますね、その聖女様って。何様なんですか?」
無表情で答えるルーナを見たクラウスは目を見開いた。
どうやら、本気で腹が立っているらしく、まさかそれに『興味』を示すとは思わなかったので、次の瞬間クラウスは腹の中にためていたモノを思わず吹き出してしまった。
「ぷっ……」
「え、ちょ……」
まさか笑われるとは思っていなかったのであろう。ルーナは驚いた顔をしながら、少しだけ頬を赤く染めつつ、クラウスを睨みつける。
「な、なんですか……あれ、もしかして私、何か変な事を言いました?」
「……いや、だけど」
「だけど?」
「……腹、立っているのかって思ってな」
聖女は腹ただしい事ではない。
聖女は『祝福』される存在だと、ずっと思っていたのだ。
何をされても許される存在だと思っていたはずなのに、彼女は自分と同じ考えを持ってくれているのだと思った時、すごく嬉しかった。
自分と同じことを考えてくれる人がいるのだと思った時、とても嬉しかった。
無意識に、クラウスはルーナの両手を握りしめていた。
「く、クラウス様?」
手を握りしめられた事に慌てる素振りを見せているルーナの姿が何処か可愛らしい感じながら、精一杯の気持ちを込めて、ルーナに言った。
「ありがとう」
「……え?」
何故お礼を言われるのかがわかっていないようだが、それ以上クラウスは何も言うつもりはない。
これ以上、彼女を巻き込むつもりはなかったからだ。
そんな二人のやり取りを面白くなさそうに見つめている人物と、楽しそうに見つめている人物、二人いる。
明らかにシリウスの方は殺意を感じるほどの視線を向けられているのだが。
彼は隣に居るドライアドのサーシャと簡単に話をした後、クラウスに目を向ける。
「クラウス、それ以上ルーナを困らせるな」
「え、別に俺はお礼を言っているだけで……」
「まず手を放せ……それと、その聖女の件なんだが、どのぐらい魅了されてるんだ?」
「俺が国を出た時にはもう半分以上は……因みに第二王子、国王などは既に魅了にかかっている状態だった」
「国王までかかってんのかよ……厄介だな、おい」
「貴族は殆どかかっていると考えていい。性別関係なく……唯一、第一王子は留学中だから国には居ない」
「留学中?」
「隣の国にある学園に留学中だったんだ。だから、俺はその国に行こうとしていた」
国の状況、聖女と言う存在がいかに危険だと言うのを知らせる為に――と、クラウスは話を続ける。
「行く途中で刺客に襲われてこのざまだ……簡単に蹴散らす事は出来たんだが、数が多かった」
そして、その中にはルフトもいる。
ルフトは剣術はクラウスと並ぶほど強く、人一倍剣術を磨いていた。
彼がある意味敵に周るのは避けたかったのだが、魅了されているのであれば仕方がない。
「つまり、クラウス様はその第一王子って人に会う予定だったってこと、なんですね?」
「ああ」
クラウスの本来の目的は、第一王子で留学中である人物とコンタクトを取る予定だった。
第一王子の護衛にはクラウスの実の弟も一緒にいる。
二人に力を貸してもらえば、何とかなるかもしれないと思ったのだが――その途中でクラウスは襲われ、そしてシリウスと出会った。
すると、ルーナは今度はシリウスに目を向け――その目を見た瞬間、シリウスはめんどくさそうな顔をしながらルーナに言う。
「……お前の言いたいことはわかってるぞルーナ。わかった、何とかする」
「ありがとう、シリウス様!」
「と、言うわけだサーシャ、力を貸してくれるか?」
『ルーナとシリウスのお願いだもの。精霊を使って何とかコンタクトを取って見せるわ』
フフっと楽しそうに笑いながら、サーシャはシリウスの頭を優しく撫でた後、ルーナとクラウスの二人に手を振ってその場から静かに消え、シリウスは息を吐いた後その場に横になった。
ふと、ルーナが今度目を向けたのはクラウスではなく、気絶しているルフトだった。
ルフトに目を向けたのが、気に入らない。
「少し肌寒くなってきたから、布団をかけないといけないな……」
「別に良いんじゃないか、風邪をひけばいい」
「いや、風邪ひいたら看病するのはボ……私なんですけど」
嫌そうな顔をしているクラウスにルーナは笑いながらそのように返事を返すのだった。
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