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27、~佐藤マユside7~ 解放
ハロルド王子と宰相が出て行った廊下をマユは睨んでいた。
アイツら、私を置いて逃げやがった。
「マジ、信じられねぇ……」
「あ?」
サイモンが声を上げたときだ、マユは腕からスルリと逃げて、デンっとソファに座った。それでもイライラは納まらず、マユはソファにあったクッションを床へ叩きつけた。
「マジむかつくんだよっ!」
豹変したマユの態度に、少し怯んだサイモンだがハッと思い出したように、
「おい、さっさと呪いを解けよ!」
マユの正面に立って剣を向ける。
ソファで足を広げ、マユは爪を噛みながら、貧乏ゆすりをする。
「ったく、信じられぇ。マジむかつく」
サイモンは呆気にとられた様子で、マユを見下ろしている。
「お前、聖女だよな……」
マユが「ふんっ!」と横を向くと、サイモンが怒鳴りつけた。
「聞いているんだよ!」
マユは怖くも何ともなかった。
こういう男は知っている。たくさん見てきた。
女を暴力で支配しようとする男だ。マユがもっとも嫌いなタイプだった。
マユは、視線をあわさない様にテーブルをみる。
ん? テーブルの視線の先に魔獣がいた。
なんだよ、その目は、文句あるんのかよ。
「なんで、気持ちの悪い魔獣までいるんだよ。キモいんだよ」
「すみません」
うつむく魔獣の前にあるテーブルには、飲みかけのコップに入った水があった。
これって、宰相がさっきまで飲んでいた水じゃね?
「おい、お前が聖女かって聞いているんだよ、返事をしろよ」
あぁ、ごちゃごちゃうるせーな。
アイツら、私をおいて逃げやがった。
「あいつら、信じられぇ、普通、逃げるか? しかも婚約者を置いてよ」
「王子とロドリックのことか? いや、そんなことよりも、はやく、カルロスの呪いを解いてやってくれ」
サイモンに言われ、マユは向かいのソファに寝かされている男に視線を向けた。
ソファに寝かされたカルロスの顔は黒ずみ、生きているのか死んでいるのかわからない状態だ。
「で、カルロスって、この黒ずんだ男? すでに死んでいるんじゃね」
マユは言い放った。
それを聞いたサイモンは慌ててカルロスの傍へ行き膝をついた。そしてカルロスの首の付け根に手を置き、脈を測るようにしながら、息をしているか顔を近づける。
ホッとした表情になると、顔を上げてマユを睨みつけた。
「お前、不吉なことを言うんじゃねーよ。まだ生きてるだろ。さっさとカルロスの呪いを解けよ」
横柄な態度のサイモンに、マユは横を向く。
「突然こんな世界に連れてこられて、呪いを解けなんて言われても出来ると思ってんの? 使い方なんて知らねーし、教えてもらってねーし、聖女だから呪いを解けなんて言われて、はいそうですか、って、すぐに出来るわけないだろ」
思ったことを言ったマユだが、まだ苛立ちが治まらない。
「聖女はなんでも出来る万能なのかよ」
吐き捨てるようにマユは言った。
そして、目の前にある宰相の飲みかけのコップの水を持ち、自然と口をつけていた。
ん、おいしい。
なんだかイライラが収まっていく。
これって、酒か?
飲みやすく、後味も香りもフルーティで果実酒のようだ。
マユはコップの透明の液体をマジマジと見ていた。
その向こうでは、サイモンが魔獣に聞いていた。
「おい、魔獣、聖女は呪いを解くことができるんだよな」
「すみません。僕もわかりません」
「はぁ? お前、今さらなんだよ!」
「……すみません」
二人が会話をしているなか、マユは立ち上がり、水差しに新しいグラスに水を入れて飲んだ。
あれ? こっちは水だ。
「おい、勝手に歩き回るなよ」
サイモンがマユに言ったその時だ。
ガシャガシャと廊下から聞こえたかと思ったら、ドカドカと盾をもった兵士の男たちが部屋に入って来た。
すぐさまサイモンがマユの腕を引っ張った。
「おい、お前ら、聖女がどうなってもいいのか」
サイモンが背後からマユの首に腕を回し、頸動脈を締め上げるマネをする。
兵士の隊長らしき人間が静かに言葉を伝える。
「サイモン。今なら、王子がお前たちのやったことの罪を軽くするとおっしゃてくださっている。今すぐ、聖女様を解放しろ」
「なにが罪だ! 今更どうでもいい。こっちは呪いで生きるか死ぬかなんだよ」
兵士の隊長らしき人が顔をしかめる。
「呪いだと?」
王子や宰相から呪いのことを聞いていなかったようで、考えあぐねいている様子だ。
「た、助けてください」
マユは兵士に助けを求めた。
「聖女様、無事に助け出しますから」
「は、笑わせるな。何が無事に助けるだ。おい、聖女、さっさと呪いを解けよ」
サイモンはマユの首に巻いた腕に力を入れる。
「それとも俺らと一緒にあの世へ行くか」
「ふざけんじゃねぇ……。どうしてスリーパーホールドかけられなきゃいけないんだよ」
「ああ?」
こそこそと二人が会話をしていると、兵士たちがザザザっと、盾を持ちながらサイモンたちを囲んだ。
「お前ら、聖女がどうなってもいいのかって言っているんだ! 部屋から出て行け。お前もさっさとカルロスの呪いを解けよ」
もうやけっぱちのようにサイモンが怒鳴った。
できるわけねぇだろ――。
そのときだ、部屋に眩い光が走った。
サイモンが顔を背け、同時に手で光を遮るようにした瞬間、マユは逃げ出した。必死で廊下に向かって走った。
そのタイミングを見計らったように、兵士たちが盾を持ってサイモンと魔獣に向かって突進した。
「聖女様、こちらへ」
隊長がマユに声をかけ、
「は、はい……」
マユは廊下へ連れて行かれた。
「もう大丈夫ですよ、聖女様」
「ありがとうございます」
光が止んだ後、サイモンと魔獣は兵士たちによって床に身体を押さえつけられ、制圧されていた。
「マユ怖かったぁ。あの人たちに、呪いを解けなんて言われて……、ひっく、ひっく」
マユが嘘泣きしていると、背後から女性の声がした。
「お待ちください。魔獣さんは無理やり連れてこられたのです」
マユが振り返ると、そこには青い服のメイドがいた。
なんだこのメイド?
赤い髪の毛を後ろにくくり、そばかすの顔に、印象的な赤い目をしていた。
じろじろとマユの視線を受けて、メイドは自己紹介を始めた。
「申し遅れました。わたくし博美様を担当しているメアリーと申します」
あぁ、そういえば、あのバリキャリと外でピクニックしていたメイドか。
マユはニコリと笑顔をつくった。
「まぁ、博美さんも心配してくださって、あなたをここへ?」
「いいえ。博美様は魔獣さんを心配されていました」
ちっ、どいつもこいつも、誰も私のことを心配してないじゃねーか。
「ああ、マユ、めまいがするぅ」
そう言いながら、マユはふらふらと廊下の壁にもたれかかると、急いで兵士の一人が駆け寄った。
「聖女様、大丈夫ですか。まずは外に出ましょう。ハロルド王子が心配されています」
はぁ? 王子が心配しているだと? 真っ先にこの部屋から逃げたのは王子なんだよ。
だが、そんなことをおくびにも出さず、マユは小さく頷いた。
「そうですか、王子様が……。わかりました。でもぉ、立てない」
そういったマユは腰が抜けたような演技をすると、ひょいと兵士がお姫様だっこをした。
「聖女様、自分が外までお送りしましょう」
「ありがとうございます」
マユは思いっきり、上目遣いで兵士に御礼を言った。
そのときだ、また眩い光が部屋から放たれる。
おいおいおい、何度も閃光弾を使うなよ。
マユは抱きかかえられたまま、部屋に顔を向けた。
すると、あのソファに寝かされていた男の足から徐々に光が広がっていく。光が波のように男の全身へ行き渡ると、黒ずみが消えていた。
「カルロス! カルロス!」
兵士たちの腕を振りほどき、サイモンがソファに横たわるカルロスのそばに寄った。
「兄ちゃん……」
ソファから身体を起こすカルロスは、血色のいい顔をしていた。
「よかった、カルロス。お前が元に戻って、本当によかった」
ちっ、なんだよ、治ったじゃねーか。人騒がせな野郎だな。
「今の奇跡は、聖女様のお力で?」
マユを抱きかかえている兵士が言った。
ややこしいことに巻き込まれたくないマユは、とりあえず、首をかしげてやり過ごすことにした。
「マユわかんなーい」
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