38 / 47
38、お礼の鞄です
しおりを挟む馬車の前方から戻って来たエミリーが博美に言う。
「博美様、申し訳ございません。御者が言うには、どうにも馬が言うことを聞かないようなので、お屋敷にはこのまま徒歩で帰ることに」
そこまで言ったエミリーだが、声を詰まらせる。
「どうしたの、エミリー?」
博美が不思議そうに尋ねた。
客車の開いた扉が死角になっていたため、前方から戻って来たエミリーには見えなかったが、博美の前に銀色の狼がいた。しかも大人しくお座りをしている。
「博美様……、その狼は、もしかしてフェンリルですか」
「うん、そうだよ」
けろりと言った博美の隣で、銀色の狼が嬉しそうにブンブン尻尾を振っている。
エミリーが鋭い視線を狼に向けた。
「なぜこのようなところに、またフェンリルが」
エミリーの視線に、ロルフが後ずさりをする。
「くぅううん」
「ロルフは元の狼の姿に戻っていたんだよね。もう大丈夫だかよね、ロルフ」
「ワン!」
「ほんと、かわいいね。ロルフは」
銀色の毛の体をなでると、ロルフも博美に頭をこすりつけて、ペロペロと顔を舐める。
「ハッハハ、くすぐったい」
じゃれているロルフと博美が遊んでいる所に、小柄なおじいさんが現れた。
街で大きな黒い獣となったロルフの前で両手を広げていたドワーフだった。
「お嬢さんのおかげで、助かりましたじゃ。このようにロルフが元の姿に戻ったのはお嬢さんのおかげだと赤い服の男性に言われましての」
博美はすぐに気付いた。
「エミルマイトさんですね」
でも、わたしのおかげ?
博美は詳しく聞こうと思ったが、ドワーフのおじいさんが言葉をつづけていたので、とりあえず話を聞くことにした。
「すぐにでもお礼を述べたかったのですが、あのような騒動を起こしたらわしらは、もうあの街には戻ることができません。ですから、ここで足止めまでして申し訳ないです」
「いえ、馬車を停めたのことは気になさらないでください。あのとき、ロルフといっしょにいたドワーフさんですね。ご無事で何よりです。わたしは鎌本博美です。そちらがエミリーです」
博美が紹介をすると、ドワーフも同じく、
「申し遅れましたの。わしの名前はガンディと申します。もうご存じでしょうか、そこにいるのがロルフです」
「ワン!」
挨拶するようにロルフが吠えた。
「ああ、そうですじゃ、お嬢さんにこれを」
思い出したかのようにガンディが背負ていた大きな荷物を下ろし、中から、革のバックを取り出した。
「お嬢さん、コレを受け取ってくださいませんかの」
「それは?」
エミリーが尋ねた。
「お礼をさせてもらいたくて……。ですがの、今のわしにはこれしかなくて」
ガンディが言いながら革製のバックを博美の前に差し出す。
「わしらの村でこしらえたカバンですじゃ。受け取ってもらえませんかの」
一目見て価値のあるものだと分かるほどの品物だった。
「このように素敵な鞄をいただいてもよろしいのでしょうか」
「もちろんですじゃ。ぜひとも受け取ってくだされ」
「そうですよ。博美様、せっかくガンディさんがこのような時間までお待ちになられていたのですから」
エミリーの言うとおりだ。
ここは素直に感謝の気持ちを、頂こう。
「早速、使わせていただいてもよろしいですか」
図々しいかと思ったが、あまりにも素敵なカバンなので博美はすぐにでも使いたくなった。
「もちろんですじゃ」
ガンディの前で、博美は肩からバックを斜めがけにした。
「すごく軽くて、大きめのマチが横にふっくらしていて、とても可愛いです。ガンディさん、ありがとうございます」
「いやいや、受け取ってもらって嬉しいですの」
「博美様、とてもお似合いですよ。使っていうるうちにいい風合いがでますよ。とても貴重なバッファローの革でしょうから」
エミリーの言葉にガンディが感心したような声を出す。
「よくご存じですな」
エミリーがニコリと笑う。
「ええ、わたくしこう見えて、目利きもできますから」
「なるほど。やはり、王子様のお屋敷で働かれているメイドさんたちは違いますの」
エミリーが慌てて、訂正する。
「いえ、私はメイドですが、博美様はハロルド王子のお客様です」
「ほう、そうでしたか」
「本当に素敵なバックをありがとうございます。大切に使わせていただきますね、ガンディさん」
「いやはや、そこまで言っていただけますと、そのカバンを作った村の者たちも喜びますじゃ」
「では、ガンディさんの村では武器や装備品ではなくて、鞄を作られているというわけですか?」
エミリーが尋ねると、ガンディが頷いた。
「そうなのですじゃ。わしらドワーフが鞄づくりなど珍しいと思われるでしょうが」
二人のやり取りから話しの流れを掴もうとしていた博美に、エミリーが声をかけてきた。
「博美様、ガンディさんのようにドワーフという種族は、とても手先が器用で、力もあります」
「そうなんだ」
「ですから、ドワーフが作る武器や装備品は丈夫で評判が良く、最高級のものばかりです。その鞄にも使われているバッファローの革は耐久性もありますから、通常なら防具などに使われます。なのに、なぜガンディさんの村では防具や武器ではなく、カバンを作っているのか不思議に思いまして」
278
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。
さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。
聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。
だが、辺境の村で暮らす中で気づく。
私の力は奇跡を起こすものではなく、
壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。
一方、聖女として祭り上げられた彼女は、
人々の期待に応え続けるうち、
世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる