料理下手な聖女ですが

チャらら森山

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料理下手な聖女ですが

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「国王陛下、成功です。聖女様が召喚されました」
「なんと、こちらのお方が世界を救う聖女様なのか」
「あ、あの、ここはどこでしょう」

 大津まりえは、きょろきょろと辺りを見回す。
 まるでどこかのスイートルームのような豪華な部屋。
 周りにいるのは、中世の貴族のような恰好かっこうをした人たち。

「ええっと、なにかのコスプレ大会でしょうか? わたしは普通の主婦で、夕食の準備に取り掛からないと」
「申し遅れました。私は、国王のエドワード・アルバイト。さっそくですが、聖女様に国を救っていただきたい」
「あの、わたしをどこに連れて行くつもりですか、ちょっと――」

 そうして普通の主婦大津まりえは、お城の食堂に連れて行かれた。

「国を救うとはどういうことですか? わたしに何をさせるつもりですか? いったいここはどこですか?」
「まずは聖女様の料理のスキルで、ここにいる兵士たちに元気と勇気を与えていただきたい」
「ちょっと、人の話を聞いてます? ……え? 料理スキル?」

「そうです。聖女様がお持ちの料理レベルは99。どのような食材もあなたの手にかかれば、すばらしい料理となりましょう。そこで、その聖女様のお力で魔物退治に向かう兵士たちに活力をお与えください」

「あの……、実は、恥ずかしいのですが、私は料理が苦手です。夫や息子からもいつも文句を言われるぐらいです。しかも料理をするのに2時間もかかって。ここにある大根だって、どうやって切ればいいかわからないので、スマホで調べないと」

 そう言いながら、まりえは、大根を手に取った。
 すると、大根からまばゆい光が放たれる。

 食堂に集まった兵士たちが、どよめいた。
「おお、すごい力だ!」
「聖女様の力が発動した」
「救世主様だ!」

 光が止んだ大根は黄金色に光っていた。

「聖女様、大根にどのような力を与えたのですか」
 国王がまりえに聞いた。
「ええっと、これは……、たくわんですね」
「たくわん? それはいったい、どのようなものなのですか」
「大根を干してつけたもの。沢庵漬たくわんづけ。滋賀県の家庭ではごく普通に食卓にあります」

 まりえの手にしているたくわんを、眼鏡をかけた男性がじっとみた。
 そして驚愕の声をあげる。

「なんと! これはすごい力を持った食べ物です。体力回復MAX、魔力回復MAX、しかも夜の元気MAX。これを口にすると1週間は効果があります」

「聖女様。それはいいものを作ってくださった。国王の私も、最近では、夜の生活がご無沙汰でしてな。なにせ王妃を満足させることが……、いや、話を戻そう。聖女様、どうか、このすばらしい食材で兵士たちに料理を振舞ふるまっていただきたい」

「ええっと、そう言われましても……。さきほども言いましたが、私は料理の腕が……、あれ? もしかして、そこにあるのはお米ですか」
「そうです。こちらの世界では、異世界からやってきた人たちが多種多様な食品を売りに来ます」
「ほんとだ、日本の家庭にあるものまでそろっていますね。焼きのりに鰹節かつおぶし、それにマヨネーズまで」
 なぜか、それらの食材を見ているとまりえの中でインスピレーションが湧いてきた。そして、ハタと気付いた。
 巻けばいい!

「なんだか、やる気になってきました」
「それこそが料理人レベル99なのです。さっそく、聖女様、試してみては?」
「わかりました。では、私の住んでいる滋賀県では、よくたくわんを食します。ですから、このたくわんをつかった料理をつくってみましょう。ですが、自信がないので、そこの方、手伝ってもらえますか。卵を割って、塩コショウで薄焼き卵をつくってください」
「わかりました」

 そうして主婦、大津まりえが監修した料理。

『和風たくわんサラダ巻き』
 材料、焼きのり、白ご飯、きゅうり、薄焼き玉子、鰹節1袋、たくわん
    マヨネーズ(きゅうり)、塩(きゅうり)、醤油(鰹節)

 1、きゅうりは洗って両端を落とし縦に6等分する。切ったきゅうりに塩を振り、マヨネーズを塗っておく。
 2、鰹節一袋にさっと醤油を振りかけて混ぜておく。
 3、たくわんのみじん切り

 皿の上に焼きのりを縦長に置き、うっすらと白ご飯を広げ、1のキュウリに、薄焼き卵、2の鰹節をのせて、3の細かく切った沢庵たくわん、お好みで最後にまたマヨネーズを適量。ぐるぐる海苔をまくと、『和風たくわんサラダ巻き』できあがり!

「どうですか、兵士の皆さん」
 まりえは、恐る恐る聞いた。

「おいしいです!」
「うまい! コリコリの食感がいい」
「この小さく刻まれた沢庵たくわんがアクセントになっているので、飽きずに、いくらでも食べられます!」

「さすが聖女様。兵士たちに好評のようですな。それに、一口食べただけで、元気がみなぎるようです。これで今夜は王妃と久しぶりに、むふふふ♡」

 料理を食べた兵士たちは、魔物退治にでかけ、見事に成し遂げました。
 その後、王妃様のご懐妊も発表され、すでに元の世界に戻っていた聖女様に皆が感謝したそうです。
 
 一方、元の世界にもどった大津まりえは――。

「はい、どうぞ」

 夕飯に和風たくわんサラダ巻きを出しました。

「お母さん、おいしいよ!」

 息子が言うと、まりえの夫も驚いた表情です。

「ああ、ほんとうだ。珍しいな、お母さんの料理でおいしいなんて」

「本当に失礼しちゃう。でも、この料理だけでもマスターできて、良かった」
 と、異世界から戻り、一人で料理をしたまりえも納得がいく出来栄えのサラダ巻きでした。

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