王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

文字の大きさ
82 / 135

ピクニック

しおりを挟む
柔らかい陽射しが降り注ぐ。
雲一つない快晴。
目の前には大きな湖。
透き通るようにきれいな水。小魚が泳いで
いるのが見える。
キルバンはアルトリアより暖かい。
初冬の寒さのアルトリアから、春から初夏の
陽気のキルバンへ。
やっぱり、寒いより暖かい方が体が楽だ。
北辺境で生まれ育ったくせに軟弱だよね私。

「何でアーサーと乗るんだ……」

ロイシュタール様がうざい。
今日は姫様がアーサー様との約束を
守るためにピクニックに来た。
十二年ぶりに果たされる約束。

一緒にお馬でピクニック。
幼いアーサー様と馬で遠乗りピクニック。
楽しみだった日は、悪夢の日になった。
オズワルドのせいで果たせなくなった約束。

妊婦のアルマさんと付き添いの私は馬車。
なぜか黒竜も同じ馬車に乗り込んでいる。

『お、本当だ。キルバンの王様の馬車は
乗り心地が最高だ。うん。中も豪華だ』

そう言って満足そうに馬車の中を
色々触りまくる黒竜。
あ~以前青竜がキルバンの王様の馬車は
乗り心地が良いと言っていたから、
黒竜……乗ってみたかったんだね。
馬車が大好きな竜……やっぱり黒竜変な奴。

他の人達は馬で移動。青竜は馬だ。
乗馬する竜。
なんで当たり前のように竜が二人とも
ピクニックに参加しているのでしょうか。
──謎だわ。

男装に慣れきった姫様はドレスではない
乗馬服にご満悦だ。

この湖へのピクニックは、王宮から
そう遠くない場所で景色が良いからと
ロイシュタール様が姫様とアーサー様の
ために計画して下さった。
私とアイリスさんは明日、キルバンを離れ
辺境へと向かう。
私達との思い出作りにもいいだろうとの
事だった。

うん。ここまでは素晴らしい。

でも、湖に到着したらボートに乗りたいと
姫様が言い出した。二人乗りのボート。
アーサー様とロイシュタール様のどちらが
姫様とボートに乗るか揉める。
それはみっともなく揉めた。
アーサー様はまだ十代。まだいい。
ロイシュタール様は三十路だ。
大人げないわ。

もう、ロイシュタール様。心が狭いな。
義弟に譲ってあげなさいよ。お義兄様?


結局姫様が『アーサーと乗る!』と
一言で片付けた。
恨みがましい顔でロイシュタール様が
楽しそうにボートに乗る二人を眺める。
──うざい。

湖に浮かぶボートに姫様と満面の笑顔の
アーサー様が乗っている。
オールを手に無邪気に笑うアーサー様。
こんな表情もされるのですね。
仲の良い姉と弟。果たされた約束。
お二人とも良かったですね。

……ところでなんで私がボートを漕いで
いるのでしょうか。
姫様から離れたくないロイシュタール様。
別のボートで姫様達のすぐ近くにいる。

うざい。

しかもボートの漕ぎ手は私だ。
まあ、彼は国王陛下だから身分的に私が
漕ぐのは当たり前ですけれど。
それが分かっていてわざわざ女性に漕が
せるのは、どうなのよ。

しかも他のお付きの家臣や護衛と乗れば
いいのに、女の子と乗りたいと私を指名した
のはロイシュタール様だ。
嫌がらせでしょうか。ふん。やっぱり嫌い。

「清々しいほど嫌われたな。あははは!」

おや、顔にでてました?
失礼、失礼。
ロイシュタール様が私の顔を見て笑う。

「いや、権力を持った今、人に嫌われる事
が新鮮でね!今さら取り繕う必要のない
人間がいるのもいいものだね。
しかもそれがグレンのお嫁さんだ。うける!
いや、君はそのままで変わらずにいてくれ。
面白いから!あはははは!!」

……やだよ。この人絶体に病んでる。
姫様、趣味悪いよぅ。

まあ、でも姫様第一で絶体に大事にして
くれるだろうからいいけれどね。
姫様が幸せなら私は言う事はない。
彼は十二年かかって王女宮を自分の国に
転移させちゃうぐらい執念深い。

案外、これぐらい振り切れた奴の方が
安心してまかせられるかも、姫様は、
何せオズワルドみたいな粘着系のどクズに
狙われているから。
私とアイリスさんは姫様のお側を離れる。
この王様に託したのだから。
私はため息をつくとロイシュタール様に
頭を下げる。

「姫様をよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いされました。
今までありがとう。正直、彼女が変わらず、
こんなに健やかなままでいてくれたのは
君達のお陰だと思う。
それにグレン。あいつを頼むよ。
なんでかな?昔からあれが俺は可愛くてね。
ようやくあいつに添い遂げてくれる相手が
出来た。それがこんなに面白い娘だなんて
ふふ。人生何があるか分からないもんだね」

グレン様が可愛いか。
本当に面白い感性をしてますねこの王様。
魔王様が可愛いか。うん。それは良い。
好感度を少し上方修正する。

「それにしてもアーサーの奴。ボートを漕ぐ
のが下手じゃないか?さっきから同じ場所を
ぐるぐる回っている。それに水飛沫がやたら
上がる。エリザが風邪をひくだろう!
だから俺と乗れば良かったんだ。
俺の方が絶体上手いのに」

……うざい。
そう言うセリフはご自分でボートを漕い
でから言って下さい。

ボートから降りてみんなでお昼をいただく。
敷物を広げクッションを置いて寛ぐ。
ローテーブルの上には豪華なお料理が並ぶ。
明るい陽射しの中でワイワイ食べる。
黒竜は甘い物を嬉々として頬張る。
本当に甘党だ黒竜。それも焼き菓子が
好きなんだよね。
こんなに沢山のお料理があるのになぜか
ずっとお菓子を食べ続ける。
クッキーをボリボリ食べる竜。

青竜はワインをがぶ飲みして満足そう。
こっちは酒好きか。
大酒飲みの竜。

同じ竜でも好みが大分違う。
面白いなぁ。

アルトリア風の料理とキルバンの料理が
半々ぐらい。
キルバンの料理はわりと香辛料が強めだ。
これはこれで美味しい。
私は海老の擂り身を油で揚げた料理が気に
いった。サクサクした衣がついていて甘辛い
ソースをつけて食べる。
これ美味しい。

「みんなでお出かけか。うん。うれしい。
馬も久しぶりで楽しかったわ!
ロイ、ありがとう。あなたが選んでくれた
馬はとてもいい子だわ」

姫様がご機嫌だ。
今までどこにも行けず王女宮で
過ごしてきたから……本当に良かった。

「うん。穏やかな気性のいい馬だよね。
あの子は君の愛馬だったマロンの子なんだ。
産まれた時にアルバートに譲ってもらった」

「え?嘘!本当に?似てるなとは思ったけど
マロンの子供なんだ。
マロンの子供がショコラ……ふふ。
美味しそうな名前……」

姫様が涙ぐむ。ロイシュタール様はそっと
姫様を抱き寄せた。
そんな二人を私達は微笑みながら見ていた。

──うん。この二人は大丈夫。

姫様にはロイシュタール様が付いていて
下さる。
アーサー様も帝国との戦が終わるまでは
キルバンで保護されている。
それにまだアルマさんもキルバンにいる。
身重のために侍女としては暇を出された
けれど、話し相手として姫様のお側にいる。

私とアイリスさんは互いに頷き合った。
安心して離れられる。

翌日、私とアイリスさんは姫様と
アルマさんに別れを告げて
青竜の『穴』を使いアルトリアへと戻った。
いつまでも抱き合う女四人に黒竜が
日が暮れると苦笑していた。

青竜はアルフォンス様が戻るまでキルバンに
残り姫様を守ってくれるそう。
──竜の護衛。正直ありがたい。

黒竜はアルトリアの王都郊外の森まで私達と
一緒に戻った。
けれど、しばらく王都に用があるからと
ここで別れる。

「アイリスは気を失わないな?アニエスは
すぐ気絶するのにな」

黒竜が馬鹿にしたように笑う。
そう、アイリスさんは『穴』を通っても
気絶しませんでした。
私は例によって気絶したのにね。

「いえ結構な圧迫感がありましたね。私も
王女宮が転移した時は気を失いましたよ」

アイリスさんが笑う。
二度目から気を失わないなんて優秀。
うっ、次こそ気を失うものか。

アルマさんからマクドネル卿への手紙は
黒竜から王宮に届けてもらう事にした。
竜の郵便屋さん。
なんだか黒竜には色々お世話になったなぁ。

「黒竜、色々ありがとうね」

「いいさ。お前は俺の血の契約者だ。
気にするな。俺も王都での用がすんだら
辺境へ戻る。それまで達者でな」

「うん。黒竜も元気でね」

黒竜は私の頭をグリグリ撫でると去って
行った。ここからは私とアイリスさんの
女二人だけだ。
北辺境へと繋がる『穴』まで歩いて来た。
黒竜の『穴』だ。

私とアイリスさんは手を繋ぐ。

「行きましょうか。アイリスさん」

「ええ。アニエス、行くわよ」

女二人で手を繋いで『穴』に飛び込む。

暗転した。
私の意識はそこで途絶えた。










しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

カナリアというよりは鶸(ひわ)ですが? 蛇令息とカナリア(仮)令嬢

しろねこ。
恋愛
キャネリエ家にはカナリアと呼ばれる令嬢がいる。 その歌声は癒しと繁栄をもたらすと言われ、貴族だけではなく、王族や他国からの貴賓にも重宝されていた。 そんなカナリア令嬢と間違えられて(?)求婚されたフィリオーネは、全力で自分はカナリア令嬢ではないと否定する。 「カナリア令嬢は従妹のククルの事です。私は只の居候です」 両親を亡くし、キャネリエ家の離れに住んでいたフィリオーネは突然のプロポーズに戸惑った。 自分はカナリアのようにきれいに歌えないし、体も弱い引きこもり。どちらかというと鶸のような存在だ。 「間違えてなどいない。あなたこそカナリアだ」 フィリオーネに求婚しに来たのは王子の側近として名高い男性で、通称蛇令息。 蛇のようにしつこく、そして心が冷たいと噂されている彼は、フィリオーネをカナリア令嬢と呼び、執拗に口説きに来る。 自分はそんな器ではないし、見知らぬ男性の求婚に困惑するばかり。 (そもそも初めて会ったのに何故?) けれど蛇令息はフィリオーネの事を知っているようで……? ハピエン・ご都合主義・両片思いが大好きです。 お読みいただけると嬉しいです(/ω\)! カクヨムさん、小説家になろうさんでも投稿しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...