王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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ロイシュタール、出陣

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「せっかくまた会えたのに、もう会え
なくなるような事になったら許さない
からね?ロイシュタール」

エリザベートの不安そうな顔。
抱き寄せて口付ける。
そんな事にならないように努力はするよ。

「ロイ、ご武運を。無事でのお戻りを
心からお待ちしています」

もう一度口付け、エリザベートの隣にいる
アーサー、アルマに視線を向ける。
アーサーにアルマも頷く。
この二人がいればエリザベートは大丈夫だ。

「では行って来る。これより王女宮は青竜の
結界で閉ざされる。
また不便をかけてごめんな。エリザ」

「もう、閉じ込められるのは慣れっこよ。
今度もちゃんと迎えに来てね。いつまでも
待っているから。ロイ、愛しているわ」

「うん。俺も愛してる」

またしっかりと抱きしめて口付けた。
ああ、またしばらくエリザベートを抱き
しめられなくなるのか。
離したくないなぁ。

「あ~~長い!いつまでやってるんだ!
イチャイチャ、うざいんだよ!」

せっかくエリザベートとの別れを
惜しんでいたのに青竜がしびれを切らして
声を上げる。ちっ、無粋な奴だ。

「うるさいわね?青蜥蜴。油をかけて
焼くわよ!私達、また離れ離れなのよ?
別れぐらい惜しませなさいよ」

エリザベートが青竜に怒る。
怒った顔も可愛い。

「はっ!気の強いお姫様だな!まったく
ロイシュタール、このお姫様のどこが
いいんだ?」

青竜とエリザベートは犬猿の仲だ。
嫌そうに言う青竜に笑う。

「全部!何もかもだ。こんなに可愛い
お姫様はどこにもいないさ」

「ロイ!大好き」

満面の笑顔のエリザベートをもう一度
抱きしめた。笑顔が一番可愛いよ。
後ろで青竜がため息をついた。


青竜に促され、王女宮をあとにした。
青竜は王女宮の周りに青い結界を張る。

「よし、これで赤竜にも手出しはできない
はずだ。さっさと帝国へ行くぞ」

「助かる。エリザベートの事だけが
心配だったから……感謝するよ」

帝国でアルフォンスが反乱を起こした。
手筈通り、キルバンは帝国の背後から
奇襲をかける。
俺も出陣だ。今度こそ帝国の息の根を
止めてやる。

青竜は俺と同行するが、王女宮に結界を
張って守ってくれるというので、
任せる事にした。これで帝国やオズワルド、
赤竜でもエリザベートに手を出せない。
留守中の不安がないのは、ありがたい事だ。

今回の奇襲攻撃にあたり長く封鎖してきた
帝国へと繋がる街道を使う。

俺が国王となってから帝国との国交は断絶。
人や物の往来を禁じ、街道を封鎖してきた。
キルバンも帝国も互いに結界を張り
守りの兵を常に駐在させて睨み合ってきた。

アルフォンスは帝国内の魔法師団を次々と
洗脳し手中に収めた。魔法師団を使い、
街道の結界をこのタイミングで解除した。

俺は軍勢を率い、国境に駐留する帝国の
一師団を蹴散らし、一気に国境を突破。
帝国へと進行した。

アルフォンスが率いる反乱軍と帝国軍の
戦闘は激しい市街戦に突入していた。
そこにキルバンが新たに奇襲をかける。
帝国軍は大混乱、敗走に次ぐ敗走を重ねた。

さらに海からは海洋国家カナンの軍勢が
港に船を接舷し上陸。
キルバン、カナンの連合軍が雪崩れ込み
帝国の首都を制圧した。

……手応えがなさ過ぎる。

赤竜も、オズワルドも帝国の精鋭部隊すら
まだ姿を現さない。
白亜宮での籠城か?

あの単細胞のオズワルドがか?

嫌な予感がする。罠か?
罠ならまだいい。問題は……。

「キルバン王!おい、簡単過ぎないか。
これは罠かもしれん」

馬に騎乗した金髪碧眼のガタイのいい男
から声をかけられる。
カナン国の王弟、バルドだ。
カナン国軍の指揮官。
アルトリア王妃マチルダの次兄。

立派な体格、筋肉隆々。甲冑を身につけた
いかにも戦士という風貌。
おまけに精悍な顔には大きな傷。

いつ見ても格好いい。

男らしいなぁ。羨ましい。
俺は三十路になると言うのに下手すると
女に間違われる事が未だにある。
ちょっとしたコンプレックスだ。

「バルド、とりあえず白亜宮に行こう。
罠にしろ何にしろ、手がかりがあるはずだ。
それにアルフォンスとも合流したい」

「そうだな。早くオズワルドの所在を
確認しないとな。奴は赤竜の道でいつでも
帝都を脱出できるんだよな?」

バルドが俺の隣に控える青竜に尋ねる。

「ああ。肝心赤竜の気配がない。
もう帝都にはいない可能性が高いな。
問題はどっちに行ったかだな」

青竜が渋い顔で言う。

オズワルドは赤竜を使い
アルトリア、もしくはキルバンに攻撃に
出る可能性がある。

キルバンならエリザベートが危ない。
アルトリアならマチルダが危ない。

俺もバルドも右手に嵌めた指輪を見る。
白い石の嵌め込まれた指輪。
アルトリア王都が襲われたら赤。
北辺境なら黒。
キルバンなら青。
カナンなら緑。

襲われた場所からの連絡で石の色が変わる。
今のところ何の変化もない。

俺達は皇帝の居城である白亜宮を目指した。
すでに白亜宮は反乱軍が制圧した後だ。
反乱軍の兵士にアルフォンスへ取り次いで
もらう。

アルフォンスは白亜宮の敷地にある
神殿にいた。

アイリスが俺達に気付き頭を下げる。
無事にアルフォンスと合流できて何よりだ。
マックスも……あれ?殺気があるのは
気のせいか?

はは!アニエス嬢を殺しかけた件で怒こら
せてしまったようだ。

絶対に隙をみて俺と青竜を殺そうと
思っているだろう。顔に出ている。
まだまだだねぇ。若い若い。

──なるほどね。
グレンの相手に恋かぁ。
不毛な奴だなぁ。不憫だ。

カーマインはバルドを見て、戦いたくて
ウズウズしている。
バルドとは初対面だからか。
はは!バルドは強そうだもんな?
ま、戦闘馬鹿は放っておこう。


「ロイシュタール、バルド!
オズワルドがいない。赤竜もだ。
大きな『穴』がある。これを使ったのかも」

アルフォンスが無念そうな顔でいう。
帝都を制圧しても肝心のオズワルドと
赤竜がいないなんて。

「アルフォンスはこのまま帝国を完全に
掌握しろ。オズワルドの奴、本当に国の事
はどうでもいいんだな。
簡単に帝都を捨てやがって。
皇帝が国を捨てたと布令を出せ」

「すでに出したよ。この国はぼろぼろだ。
魔物を使っていたのは、単純に戦力が
足りないからだった。
オズワルドが皇帝位を簒奪した時に
先皇帝を守ろうとした臣下は皆殺し。
あのクーデターの時にまともな奴ほど
死んだんだ。ここ数年のアルトリア、
キルバン、カナンからの経済制裁で経済も
ぼろぼろ。
東の小国を侵略して搾取した富で帝都だけが
栄えるハリボテ国家。
もう、この国は死んでいる。
情けなさ過ぎて涙もでないよ」

自分の祖国がこの惨状。
アルフォンスは優しいから
大分堪えたらしい。
俺なら自分を奴隷に落とした国が滅びたら
大笑いするけどね?

アルフォンスは出会った時から優しい子
だった。変わらずにいてくれてうれしいよ。
落ち込むアルフォンスに寄り添うアイリス。

アイリスがいてくれて良かったな。

寄り添う二人をほのぼのと眺めていると
指輪が光った。

──赤!アルトリア王都。

オズワルドは王女宮が、エリザベートが
キルバンに移った事に気がついていないと
いう事だな。

「アルトリアの王都!マチルダと甥っ子が
危ない」

バルドが叫ぶ。想定していたとはいえ
肝が冷える。アルトリアは……守りたい。
俺の心の故郷だ。

「青竜、頼む」

「手筈通りだな。送るのは何人だ?」

「アルフォンスとアイリスは残れ。俺と
バルド、カーマイン、マックスの四人だ」

アルフォンスには帝国で事態の収集に努めて
もらわなければならない。

「よし、四人とも手を出せ」

青竜に促され四人とも手を出す。
手のひらに青い髪と黒い髪を乗せられる。
青竜が指で触れると手のひらが光り
黒い文字のようなものが刻まれた。

「何本か道を乗り継ぐ。とりあえず一本目は
帝都の路地裏だ。そんなに遠くない急ぐぞ」

青竜の言葉にカーマインが反応する。

「ぱあっと、いっぺんに送れないのか?
竜も意外と無能だな!残念だな」

残念なのはお前の頭だ。
なんでこいつはこんなに協調性がないんだ。
こいつを副官にしているグレンの忍耐力を
褒め称えたい。

「悪かったな!無能で!つべこべ言わず
さっさと動け!」

青竜に促され、アルフォンスに後を頼み、
俺達は青竜の道までやって来た。

「おっ!『穴』だ。これに落ちるのか?
親分が落ちると気絶すると言ってたな。
わくわくするぜ!俺は絶対に気絶しない
からな」

カーマインが言う。
親分?誰の事だ。

「ああ確かにアニエス、何度落ちても気絶
すると嘆いていたね。どんな感じなのかな」


マックスだ。アニエス嬢の事を語る時は
柔らかい表情だ。
へえ。親分ってアニエス嬢の事か。
……グレンに溺愛され、マックスに片恋され
カーマインに親分と呼ばれる女。

すごい子だよね。アニエス嬢。
本人は何も考えてない系の天然女子なのに。

青竜と黒竜の道を乗り継ぎ、アルトリアの
王宮に出た。懐かしい。女神像の庭だ!

「ははは!なんだ大した事ないじゃん。
誰も気絶なんかしないぞ。よし、親分に
自慢してやろう」

カーマイン……アニエス嬢は女の子だから。
結構な圧力がかかってたでしょうに。
俺は道に慣れているから平気だけれど
こいつらは規格外だからなぁ。
カーマインに呆れているとバルドが息を
飲んだのが分かる。

「赤竜だ!」

バルドの声に彼の視線の先を見た。
王宮から少し離れた上空に
ブレスを吐く赤竜の姿が見える。

おそらく王都の中心部だ。
あんな人の多い場所でブレスを!

「アカ……」

青竜が切ない顔で呟く。
いつも飄々としている青竜の
見た事のない顔。寂しげで痛々しい。

俺はしばらく青竜から目が離せなかった。












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