王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、王宮にて

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ん?揺れてる。
グレン様の匂い。いい匂い。
抱き抱えられている?
あ、私また気絶だ!

「起きたか。大丈夫か?」

グレン様と目が合う。
あれ?もう王宮だ。一度郊外の森に出るの
かと思ったのに。

「チビすけが起きないから小僧が抱いた
まま郊外の森から王宮まで飛んだぞ。
いちいち気絶しやがって。面倒臭い奴だな」

黒竜がぼやく。あ、なんだ。気絶したまま
王宮まで運ばれたのか。
グレン様、ごめんなさい。

「見ろ。赤竜だ」

グレン様の視線の先に赤竜がいる。
王都の上空からブレスを吐いている。

「あんな所でブレスを吐くなんて!」

王都の中心部だ。なんて事するのよ。
赤竜を睨み付けるとその赤竜に青い稲妻が
落ちる。赤竜が攻撃を受けている。

「ロイシュタールだな」

グレン様の声に驚く。ロイシュタール様?
キルバンから?姫様を置いてきたの?

あ、今度は青竜が赤竜に体当たりした。

「帝国はアルフォンスが掌握した。
ロイシュタールと青竜はオズワルドと赤竜
を追いかけてアルトリアに来たんだろう」

「私達も赤竜を止めないと」

「いや、赤竜はロイシュタール達に任せて
俺達はオズワルドを仕留めよう。
奴の狙いはエリザベートだ。奴は王女宮が
キルバンに移った事を知らない。
エリザベートを狙って王女宮のあった
場所に現れるはずだ」

え?王女宮があった場所って今は抉れた
大地に大きな『穴』と魔法陣があるだけ
なんだけれど。あと青竜の溝がある。

「あそこには私しか行けませんよね。
私が行ってきます」

王女宮には白竜の結界があってグレン様は
入れないはず。
それに溝に落ちたら王都郊外の森に飛ば
される。転移魔法を使わないと駄目だ。

「いや俺も黒竜も行ける。だよな?黒竜」

グレン様が黒竜に確認する。
え?どういう事?

「多分な。白竜の結界は俺を弾かない。
アルマ、アルフォンス、アイリスの三人は
俺の血を浴びているから結界に弾かれ
なかったんだ。アニエスは俺の血の契約者
だから当然弾かれない。
小僧は……金竜の鱗の魔力で白竜になった
から同じ白竜の結界には弾かれない」

「え?!グレン様が白竜になった?
どういう事よそれ!」

黒竜の言葉に驚く私。

「小僧は白竜の末裔だ。お前の婚姻鱗と
金の鱗を食ってさらに金竜の鱗を食った。
そのせいでもう完全に竜化したんだよ」

「私も金竜の鱗を食べたけど何にも変化が
ないけど?」

「いや、お前は金竜の鱗を食う前からすでに
竜だったから!何でお前は竜化しないんだ」

いや、そんな事を言われても。
私は今でも自分は人だと思っているし。
黒竜に分からない事が私に分かる訳がない。

「……俺に心当たりがあるな?」

グレン様がぽつりという。

「心当たり?なんだ、言ってみろよ」

黒竜が言う。
うん。グレン様、何?心当たりって。

「俺がアニエスの血の契約者だからじゃ
ないか?俺がアニエスの魔力を消費して
いるから竜化しないんじゃないかと思う」

「「はい?」」

グレン様が私の血の契約者ってどういう事?
黒竜もなんでという顔だ。

「アニエスは俺と出会った時はすでにほぼ
竜だったのだろう?俺は初対面でアニエス
の血を舐めている。白竜の末裔とはいえ、
俺は完全に人だった。
全く苦しまず寧ろ甘くて旨かったが
人が竜の血を飲む。
血の契約が結ばれる条件は満たしている。
森で瀕死のアニエスの匂いを嗅いだ後は
さらに鱗が生えてきたしな。
あれもアニエスの血のせいで竜化が
促されたんじゃないか?」

「……確かに契約の条件は満たしているな。
血の契約者か。盲点だったな。
チビすけは俺の血の契約者。
小僧はチビすけの血の契約者?で番?
なんなのお前ら。もう、訳が分からん」

黒竜が匙を投げたぞ。
それにしてもあれか。確かに初対面で
ドーラに扇子で殴られて切れた口の端を
グレン様に舐められたわ。
思えば初対面から変な人だったよね
グレン様。

あれから始まっているの。

変な運命だよね。私達。

「しかし初対面で血を舐めるって……お前ら
一体、どんな出会い方をしたんだよ」

黒竜が呆れたように言う。
どんなってねえ?

「木にぶら下がってスカートがめくれ
上がって下着と足が丸出しだったな?
いや、あの足の美しさは衝撃的だった。
一目惚れだ。本当に綺麗な足だった」

グレン様がうっとりとした顔で言う。
この足フェチが!

「初対面の女性の顔を舐めるような変な人
でしたね。しかも口の端だし」

私は遠い目になる。
あれから色々あったなぁ。
あの時はグレン様の事をこんなに好きに
なるなんて思ってもいなかった。

「……分かったのは小僧が足好きで初対面の
女の顔を舐めるような変態だって事だけか」

「俺が変態で国が滅ぶか?」

「滅ばねぇよ!なんだ?この開き直った
変態は!チビすけ。お前、こんな変態が
いいのか?お前、男の趣味が悪くないか?」

「あ~、うん。変態でも俺様でも人でも
竜でも何でもいいの。グレン様が好き」

私の言葉に満面の笑顔になるグレン様。
ああ~うん。好きだわ。

「はっ!アホらしい。ご馳走様!おい、
さっさと行こうぜ!」

黒竜がうんざりと言う。

「黒竜、掴まれ。アニエスは自分で
飛べるな?王女宮の跡地まで飛ぶ」

「え?グレン様、転移魔法が使える?」

ニンマリ笑ってさっさと黒竜といなくなる
グレン様にムカつく。
何を私を置いてきぼりにしているの!
慌てて私も転移する。

王女宮の跡地に出た。
うわ、何度見ても壮絶な風景だ。
グレン様と黒竜が先にいる。

「もう、何でさっさと行っちゃうの!」

「さて、竜殺しの剣はオズワルドには
効かないとみていいな?どうするかな」

グレン様、丸っと無視したわね。
あ、でもそうか。金竜に竜殺しの剣は
効かないよね。
そうなると……どうするかな?
見当がつかないわ。

「あ!あそこ『穴』ができる」

抉れた地面のすぐ側に新しい『穴』が出現
した。中から赤い髪の男が現れる。
オズワルドだ。

「なんだ?王女宮はどこだ!」

怒鳴り散らすオズワルド。
まあ、あると思っていた王女宮がないん
だからそりゃ驚くよね。
ザマアミロ!

「お前達の仕業か!エリザベートをどこに
やったんだ!やっと結界を破ったのに!」

あ、地団駄を踏んでいる。
面白いわ~!

「あ!お前は!クソ、あのピンクの花は
なんだ?あっと言う間に魔物を食い尽し
やがって!お陰で計画が台無しだ。
は!もう帝国なんてどうでもいい。
エリザベートとアルトリアの両方を手に
入れればいいたけだ。
まずはお前から殺してやる!」

あ~ピイちゃんの件で恨まれているわね私。
あはは。あっ、ピイちゃんか。
よし、出してみようかな。

「生憎だが、お前の相手は俺だ」


グレン様が私を背に庇う。
はうん。ときめいてしまう。格好いい!
黒竜が白い目で私を見る。なぜ?

「はっ!この俺にかなうと思っているのか?
脆弱な人の分際で!」

言うなりオズワルドが竜化した。
巨大な金竜?あれ?赤と金が混ざってる。
これ?何竜?
赤金竜?

「完全な金竜にはなれなかったらしいな?
なら、条件は一緒だ」

グレン様もそう言うなり竜化した。
ええ~!!本当にグレン様、竜になったよ。
綺麗な竜。ああ、竜になっても格好いい!
でも白竜?グレン様も金竜が混じってる。
白と金の鱗だ。グレン様が竜化した。
私の方が先に竜だったのに。解せない。
何で私は竜になれないの?

なんて考えているうちに竜同士が
戦い始めた。
オズワルドがブレスを吐く。
黒いブレス。あ、赤竜の重力波だ。
グレン様!!

グレン様もブレスを吐いた。

あれ?黒いブレス?!

オズワルドと同じブレス!
ブレス同士がぶつかる。
爆風が!土埃を巻き上げる。
小石や砂が物凄い勢いでぶつかってくる。
黒竜が結界で弾いてくれた。
あ、ブレスの激突で威力が相殺される。
グレン様は無傷だ。

「小僧すげぇな」

「感心している場合じゃない!もう私は
なんで竜になれないの!」

黒竜相手にキレる私。

「小僧がお前の力を代わりに使っている
からだろう。血の契約者っていうのは
本当らしいな。ついでにお前を介して俺の
力も使ってやがる。器用な奴だよ。
お陰で俺も魔力が足りなくて竜になれんわ」

「私の血なんて、白竜も青竜も飲んでる
わよ!なんでグレン様だけが?」

「竜同士の血のやり取りは道の共有の際に
使うか、手っ取り早い魔力の補充手段だ。
竜と人の血の契約とは違う。
お前と俺の時はお前は人の赤子だったし、
お前と小僧の時はお前が竜で小僧が人だっ
た時になされた契約だ。
あくまでも竜と人との契約だ。後天的に
竜になっても契約は有効だって事だろう」

いや、もう分からないわ。
大体、人から生まれたのに後天的に竜に
なるっていう事、事態が分からないもん。

竜同士の激しい戦い。

こうなると人の分際で私には何も出来ない。
あ~もう!
何かグレン様の援護射撃をしたい。
オズワルドも自分の手でぶちのめしたい!
あ、そうだ。ピイちゃんを出そうと思って
たんだっけ。

よし!出でよ!蔦蔓!
あ、やっぱり。豆になったよ。
いや、今回はピイちゃんを出そうと思って
やったから結果は正しいんだけれど。
何か複雑。
グレン様の蔦蔓を出せる日は来るの
でしょうか。

「チビすけ。なんだこれ?」

黒竜がなんとも言えない顔をする。

こんな見た目でも結構強いのに。現れた
ピイちゃん達に大きくなぁれと念じる。
ぐんぐん大きくなる豆花。
大ピイちゃん完成。

ついでに燃えない。あなた達は燃えないと
念じる。……こんなので火炎耐性がつくとは
思わないけど、気休めだ。

でもピイちゃんは結構単純な言い聞かせで
変化するから案外行けるかも。

「よしピイちゃん行け!グレン様を助けて」

「「「ピイピイ、ピー!」」」


豆花達はペタペタと歩き出した。












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