あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

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第四章「クラルの戦い」

4-3:潜入

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 時間は前日の夜に戻り――。

 月のない新月の夜。
 深夜を回り、静まり返ったテユヴェローズの下町。

 その一角にある旅人用の三階建ての宿屋。背後には市民の生活を支える水路が流れている。
 窓の明かりはすべて消え、寝静まっていた。
 その一階にある一室の窓が音もなく開く。

 窓からそっと顔をのぞかせ、周囲を警戒したのはクラル。
 誰もいないことを確認して、軽やかに裏庭に飛び出す。後に続いてカラナも姿を現した。
 素早く、裏庭を走り抜け、宿の敷地と水路とをへだてる壁に張り付く。

「じゃ、頼んだわよ」
「お任せください」
 カラナの念押しにクラルは首を振って応えた。
 宿の窓からは、部屋に残っているサフィリアが小さく手を振っている。

 カラナが周囲を警戒しているあいだに、クラルは素早く上着やズボンを脱ぎ、肌着姿になる。
「では行って来ます」
 脱いだ衣装をまとめてカラナに渡す。

 壁に向いて狙いを定め、腰をかがめてぶ!
 その細い脚からは想像も出来ない跳躍力で、クラルは数メートルはある壁の頂点に降り立つ。
 もう一度、地上のカラナと、窓の奥にいるサフィリアを一瞥いちべつし――
 真っ暗な水路へ、その身を投じた!

 早い流れも身体を持って行かれぬ様に、水中で体勢を立て直し、脚にちからを込めて水を蹴る。
 真っ暗な水中。だが、『ゴーレム』であるクラルの眼にははっきりと見える。

 流れに逆らって町中の方向へ泳ぎ進む。
 しばらく泳ぎ、ゆっくりと水面に顔を覗かせる。
 位置を確認し、岸壁に近寄って行く。こちら側は手すりがあるだけで登り易いが、反面人目に付き易い。
 気配をうかがいながら、素早く水から上がる。

 そこは、商店街の路地裏の通路になっており、深夜と言うこともあって人のいる様子は無い。
 さっと建物と雑多に置かれた木箱や樽の隙間すきまに身をひそめる。
 一つの木箱を開け、中をあさる。
 ――ここに隠したハズだ。

「あった!」
 中に隠されていたのは、荷物の入ったリュック。日中にカラナが隠しておいた物だ。
 中身は、黒いボディスーツとローブ。紅竜騎士団ドラゴンズナイツのローブを貰う前に羽織っていた『ゴーレム』の共通装備だ。

 一緒に入っていたタオルで肢体したいまとわりつく水滴を払い、それらを着込む。
 濡れて頬やひたいにべったりとくっついた黒髪をタオルで乾かしながら、上がった息を整えた。

 不意に人の声が聞こえた!
 咄嗟とつさに身体を縮めて姿を隠す。路地の曲がり角から歩く音が近づいて来る。二人だ。
 木箱の影からそっと顔を出すと、ランプを手にした警官が二人、こちらへ近づいて来る。
 巡回中の様だ。

 気取られない様に息を殺して身体を丸める。
 真夜中の路地裏で女が一人で居ること自体怪しいのに、まして自分は『ゴーレム』だ。警察官などに捕まれば、カラナのところに戻してなどもらえまい。その場で破壊されて終わりである。
 もちろん、抵抗して相手を傷つけるなど今の自分にはご法度はっとだ。

 足音が目の前を通り過ぎ、やがて遠ざかって行く。
 完全に警官たちの足音が聞こえなくなり、クラルは息をついた。
 初めて――サフィリアやカラナから離れて行動する。彼女たちの加護かごが無いと、こんなにも心細いものか……。

 バサバサになった黒髪を手櫛てぐしで整える。
「……よし、行こう……!」
 自分を勢いづける様に、あえて小さく声に出す。
 ローブについたフードを目深まぶかに被り、深夜の街へと繰り出した。

 目指すはアナスタシス教団本部だ。
 水路の上がった場所から三区画ほど行ったところに位置している。
 表通りに出て足早に反対側の区画の路地に入り込み、入り組んだ細道を進んで行く。
 幸い誰にも見つからず、やがて高い塀に突き当たった。

 アナスタシス教団本部の裏側に出たのである。
 塀の高さは優に三メートル。その上にさらに先端が鋭く尖った鉄格子が張られ、ご丁寧ていねい鉄条網てつじようもうまで巻き付けられている。

 息を大きく吸って、クラルは跳躍した!
 塀の頂上に腕をかけ、猫の様に空中で身を柔らかにひるがえす。
 鉄条網にローブのすそを捕られぬ様に身体をひねり、アナスタシス教団の敷地側へ。

 再び塀に手をかけ、ぶらさがった状態で敷地内の様子を見回す。
 中の様子は熟知している。かつてここで自分も働いていたのだ。
 最も人目に付きにくい位置から入り込んだつもりである。
 予想通り、裏庭に人気はなく、覗き見れる様な窓もない。

 音もなく地面に降り立つと、植えられている木々の合間に身を潜める。
 宿からここまで既に二時間近くが経過し、東の空が白み始めていた。ほぼ予定通りのタイミングである。後は、夜が明けるのを待ち、聖堂の中に侵入する機会を待つのみだ。

 庭木が作る茂みの中ならば、意図して覗き込まれなければ見つかる心配はない。
 木の幹にもたれかかり、ローブの裾を広げて脚を伸ばしリラックスした姿勢を取って一息つく。
 体力を温存するために、目を閉じて時間の経過を待つ。

 やがて空に青の深さが増してくると、にわかに礼拝堂が賑やかになって来る。
 シスターたちが、朝礼を始める時間だ。

 裏庭にもちらほらと『ゴーレム』が行き来する様になる。
 戦闘から庭の掃除まで――姉妹たちは本当に何でも淡々とこなす。

「みなさん。間もなく、サイザリス様がこのアナスタシス教団を訪れます」
 聞き覚えのある声。続いてシスターたちのどよめく声がする。

 マザー・ヴィオレッタの右腕マグノリアだ。マザー・ヴィオレッタの不在を埋めるため、彼女が指揮を執っているのだろう。

「さぁ、皆さん。サイザリス様をお出迎えする準備をいたしましょう」
 マグノリアの号令の下、シスターたちの気配が聖堂の入口の方に遠ざかって行く。
 どうやら、全員そろってこれから訪問して来る予定のカラナたち――いや、サフィリアを出迎える準備をする様である。
「これは……好都合かな?」
 いつもであれば、朝礼の後はシスターたちが忙しく教団内を歩き回る。しかし、彼女たちの眼が表の入口に集中していれば、こちらも潜入し易いと言うものだ。

 今がチャンスとばかりにクラルは茂みから抜け出し、聖堂の壁に張り付く!
 左右を見渡し見られていない事を確認。
 手近の扉に近づく。確かこの扉は給湯きゆうとう室につながる裏口だった筈だ。

 ドアノブに手をかけ、そっと扉を引く。
 クラルは、意を結して聖堂の内部へ身体を滑り込ませた――。

 ***

 クラルは気付いていなかった。
 アナスタシス教団の裏手の民家の屋根の上から――複数の眼が彼女を見つめていた事に……。

 ***
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