あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

文字の大きさ
25 / 51
第四章「クラルの戦い」

4-6:窮地

しおりを挟む
 最後の最後で――!

 頬を汗が伝う。
 ゆらりと構えた二体の『ゴーレム』を前に、クラルは舌打ちした。

 最後まで気を配っていたハズだが――どこで見られていたのか?
 だが、幸いにして相手は意思を持たないただの『ゴーレム』。『ハイゴーレム』であるクラルには逆らえない。

「二人とも……わたしに道を開けなさい!」
 だが、クラルの言葉を意にかいさず――
 『ゴーレム』たちはケタケタと笑い続ける。

「!?」
 心に動揺が走る!
 何故なぜ、自分の命令が通じない!?
 …まさか、アナスタシス教団の所有物『ゴーレム』ではない!?
 そんなものがどうしてこんな町中に…!?

 ニタニタ笑う『ゴーレム』のひたいの魔導石が怪しく輝く。
 攻撃を開始するつもりだ!
「させない!」
 瞬時に”マギコード”を組み上げ、両手を前に突き出す!

 放射された魔力が不可視の衝撃波となり、『ゴーレム』を十数メートル先の表通りまで吹き飛ばした!
「!」
 風に揉まれ空中で不規則に投げ飛ばされるが、流石さすがにこの程度では動揺しない。
 『ゴーレム』はすぐさま体勢を立て直し、着地する。
 だが、これでいい。

 クラルは空いた『ゴーレム』との距離を埋めるかのごとく、風を切って走った!
 杖を構え、迎え撃つ『ゴーレム』!
 しかし、ギリギリのところで地面を強く蹴り、彼女たちの頭上を飛び越える!

「!?」
 こちらの行動が意外だったか、一瞬『ゴーレム』の動きが止まる。その隙にクラルは全速力で表通りを駆け出した!
 すぐさま、『ゴーレム』も裏路地から飛び出し、低い姿勢で追撃を始める!

 教団の真横で暴れられ、騒ぎになる最悪の事態はこれで避けられる。
「お願い! 追って来ないで!」
 肩越しに再度呼びかけるが、『ゴーレム』たちの動きにまったく変化はない。
 クラルを”獲物”と看做みなし、猛追して来る!

 やはり、この二体はアナスタシス教団の所有物『ゴーレム』ではない!
 何故こんなところで遭遇したのか分からないが、戦うしかない様である。

 だが、勝てるか――!?
 クラルの表情に深い焦りの色が浮かぶ。

 クラルは彼女たちの上位種『ハイゴーレム』である。
 だがそれは指揮系統の話であり、単純な戦闘能力では『ゴーレム』の方が上だ。
 ――いや、それどころか衛生兵ヒーラーの自分では、彼女たちにまったく歯が立たない!

 だが、こうなってしまった以上やるしかない!
 走りながら魔力を組み上げ、手のひらに複数の"光弾キヤノン"を生む。
 振り向く勢いに乗せて、一体に向けて集中砲火を浴びせた!

 鋭い円弧軌道を描いて複数の光がきらめき『ゴーレム』に叩き込まれる――が!
 張り巡らされた"魔法障壁シールド"で、渾身の一撃はことごとく弾き飛ばされてしまう!
「……!」
 唇を噛んで、裏路地へ逃げ込む。

「今のがダメなら……どうすれば!?」
 追撃はなおも緩む気配がない。
 逃げおおせる事は不可能だろう。

 歩き慣れない街を闇雲に走ったせいで、自分がどこにいるのかまったく分からなくなってしまった。
 ――いや。
 視界に広がる街並みの向こうに、山の稜線りようせんが見える。
 少なくとも、カラナ達が待つ下町の宿屋とは正反対の方向に走っている事は確実だ。
 だが、今さら方向転換は出来ない。

「どうしよう……! どうしよう…!?」
 詰まれた木箱の隙間を縫い、ホウキや木材の束を崩し、狭い路地を右に左に駆け抜ける。
 直線に走れば、背中に魔法を撃ち込まれてしまう。

 行く手はT字路。
 どちらへ曲がる!?
 勘に任せて右へ! ……だがそれが裏目に出た。
 向かった先は袋小路! ゴミ捨て場となっている。

 目の前に高さ数メートルの壁がそびえる。人間ならば、ここで追い詰まるが……。
 クラルは、壁を蹴って跳躍した! 
 一気に二階の高さまで飛び上がり、窓のひさしに足をかけ、さらに高く舞う!
 しかし――!

 彼女を狙って地上から、無数の"光弾キヤノン"が闇夜を貫いて行く!
「くッ……!」
 何とかかわそうともがくが――空中で身をひるがえせる訳がない!
 数発の"光弾キヤノン"がクラルの背中に迫る!

 大気を震わす炸裂音を響かせ、爆炎が漆黒の空に広がった!
「きゃあああッ!」

 静まり返った夜空に甲高い悲鳴が響き――クラルの身体が炎と煙を上げて民家の屋根に落下する。 
「痛……い……っ!」
 激痛に耐えながらに上体を起こす。
 見ればローブは燃え墜ち、露出した背中から右肩にかけて肌が真っ赤に溶けて焼けただれている。
 震える唇で回復魔法を詠唱し――手のひらに組み上がった淡い光を、背中の傷口にあてがう。
 しかし、すぐさま屋根の上に『ゴーレム』たちがよじ登って来る!

 傷をふさぐ余裕は与えてもらえそうにない。
 ふらふらと屋根を駆け上がり――反対側の大通りへ身を投じる!

 が、追い詰められて完全に冷静さを失っていた。
 閃光が煌き、不用意に飛び上がったクラルの背中に再び"光弾キヤノン"が撃ち込まれる!
「ぎゃあッ!」
 とどろく爆音!
 大通りの石畳に血と肉片がびちゃりと飛び散り――その上にクラルが倒れ落ちる。

 少女の右半身は背中から大きく抉れ、筋肉の下の骨さえ露出している。
 右腕はもはや動かず、口から大量の血を吐き散らす。 
 それでも、彼女の身体は――まだ動いた。

 よろよろと立ち上がり、ふらつく足取りで大通りを彷徨さまよう。
 意識は混濁こんだくし、思考は鈍り、敵の攻撃を避ける動作さえ取る事が出来ない…。

 ただ目に映るままに道を選び、小道をふらふらと抜けて行く。
 しかし、それもここまで――目の前にはまたしても行く道の無い壁が待ち受ける。

 背後に輝く光を察し――それが『ゴーレム』たちの"光弾キヤノン"であると本能が告げる!
 クラルの身体は無意識に走り、眼前に迫った壁を跳躍して飛び越えた!
 壁に"光弾キヤノン"が当たる衝撃が空気を通して伝わる。

 着地とも言えない体勢で地面に落下する。
 何とか立ち上がるクラルの前に、『ゴーレム』が降り立ち、行く手をはばんでケラケラと笑う。

 降りた先は意外と広い敷地で、石造りの頑丈そうな数階建ての建物が立ち並ぶ。
 民家や商店のたぐいではない。何かの施設の様だが……。
 攻撃をかわして逃げる経路はいくらでもありそうだが、それは身体が万全ならの話である。

 ちからなく壁にもたれかかる。壁にべったりと血のシミが広がる。
 ずるりと、地面に座り込むクラル。 

 サフィリアやカラナであれば、ものの数秒でケリが着く相手に、何と惨めな事か……!
「……ちくしょう……!」

 じりじりと間合いを詰めて来る『ゴーレム』。風に乗って"マギコード"が耳に届き、樫の杖の先端に"光弾キヤノン"が灯る。
 涙の溜まった目をぎゅっと閉じ、覚悟を決める。

 光弾の空を切る音とともに、クラルの身体が震え――
 耳を貫く炸裂音が闇夜に木霊こだました――……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...