あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

文字の大きさ
45 / 51
第八章「魔女の背中を見つめて」

8-1:決戦

しおりを挟む
 ***

――声が届かない――

 あか煌々こうこうと輝くヴェルデグリスの中で――影が揺らめく。

――あともう少しだと言うのに……! 記憶を取り戻しかけていると言うのに……! ――

 ヴェルデグリスに背を向けて立つ、赤紫のグラデーションがかかった長髪の後ろ姿をにらみつける!

――この女が待ち構えている! にくき……憎きこの女が、すべてをほうむろうと待ち構えている! ――

 こちらの視線に気づいた様に――くるりと顔を振り向けて来る。
 冷めた金色こんじき相貌そうぼうが、さげすむ様な眼差しを送る。

――おのれ! おのれッ! 貴様の思い通りにはさせぬ! ――

 ***

「……誰もいないね」
 大聖堂の敷地に降り立ち、周囲の気配を探ろうとサフィリアは周囲を見回す。

 この事態を女神ローザは当然に把握はあくしているだろうから、厳戒態勢げんかいたいせいが取られていると思っていた。
 だが、大聖堂の周囲には、紅竜騎士団ドラゴンズナイツの騎士はおろか、人の気配すらない。

 夜風にさらされながら、サフィリアはふとカラナの気配を探る。
 当然、彼女の気配もない。まだ追い付いて来ていない様だ。
 追って来てくれていれば……の話だが。

 何を期待しているのだろう?
 大きくため息をついて、サフィリアは馬車の方を見やる。
 ちょうど、布にくるまれたクラルの亡骸なきがらを、シスターたちが運び出しているところだった。

「さあ、参りましょう」
「うん……」
 ヴィオレッタに肩を抱かれ、大聖堂の入口をくぐる。
 内部にも人の気配はなく、しんと静まり返り、夜の冷たさがただよっている。

「!」
 だが、その床には四角く、地下へ続く階段が口を開けていた。
 普段は、魔法によって硬く閉ざされている『封印の間』への入口だ。
 それが、入って来いとばかりに開かれている。

「待っていました……」
 突如とつじよ、響き渡るローザの声。

「女神ローザ……!」
 ヴィオレッタが見上げる仕草をして、彼女の名を呼ぶ。
「堂々と入口を開けて待っているとは……大した自信ね、ローザ様?」

「もはや、小細工をする状況ではありません。
 このわたくしが、全力をもつ貴女あなた方の相手をつとめましょう。
 ……そして」
 その姿が見えなくても分かる。
 言葉に強烈な殺気が加わる。
「その姿……一片の欠片カケラも残さずちりに変えて差し上げます」

 その殺気にさらされてさえ、ヴィオレッタはくすくすと口に手を当てて笑った。
「あら怖い。まるで魔王様みたいな口ぶりね!」

「降りて来なさい」
 ローザの言葉を受け、ヴィオレッタは望むところとばかりにうなずく。
 クラルを抱いていたシスターふたりに、ここで待機する様に伝え、彼女の亡骸を受け取る。

 そのヴィオレッタの背中を追って、サフィリアは地下へと降りて行く。

 もはや見慣れた『封印の間』へ続く螺旋らせん階段。
 一歩進むごとに、サフィリアの命は一歩終わりへ近づく。螺旋らせん階段が終わり、あかい光がれる扉の前に辿たどり着いた。

 両手をえ、重い扉を押し開いた。
 紅い光があふれ、空間を満たして行く……。

 暖かく優しい光が、サフィリアを出迎える様に包み込む。

 『封印の間』の中央に、燦然さんぜんと輝くヴェルデグリス。

 その結晶体から放たれる光とサフィリアとを切り離すがごとく、ローザが立ちふさがっていた。
 金色こんじき双眸そうぼうが、サフィリアのあおい瞳を見つめる。

「……ローザ様」
「……サフィリア。貴女あなたには失望しました。
 ひと月前、ヴェルデグリスを破壊すると豪語ごうごした貴女が、あきらめるのならばともかく、まさか自らの意思で開放するがわに回るとは……!」
 激しい怒りを押し殺した、地の底から響く様な声がサフィリアを包む。

 ローザの声はただそれだけで、押し潰されてしまいそうな圧力を放っている。
「ごめんなさい……。
 でも、サフィリアはクラルを助けたい! ただそれだけなんだ!」
 思いのたけを語る勢いで腕を広げ、何歩も前に踏み出す!

「クラルをよみがえらせたら、サフィリアはどうなっても構わない!
 一度だけで良い! 魔女サイザリスの魔力ちからを使わせて!」
戯言たわごとをッ!!」
 ローザの怒声どせいが響き渡る!

 その身体から抑えきれない怒りが魔力となって噴き出すさまが、はっきりと見て取れた。
 空間に"マギコード"の羅列が幾重いくえにも走り、複雑な紋様もんようを描く!

 二人の会話を黙って聞いていたヴィオレッタが、この魔力の嵐に気圧けおされることもなく、悠々ゆうゆうと前に出る。
「おやおや、女神ともあろうお方が、はしたないお言葉ですね?」
 ローザがぎろりとヴィオレッタを睨む。

何故なぜ、そこまでサイザリス様の封印にこだわりなさる? 女神様の実力をもつてすれば、恐れる事もないのでは?」
 銀髪をかろやかにかき上げ、くすくすと笑う。

「それとも、自身のちからではサイザリス様に勝てぬと認めておられるのか……?
 いいえ……、それとも実力の問題ではなく……封印が解かれると女神様に何か不都合が起きるとか……?」
 ヴィオレッタの言葉はそこまでだった。

 ローザの怒りが――膨大な殺気となって『封印の間』を支配する!
「もはや問答もんどうはここまでです!」
 ローザが両腕を突き出す!

 不可視の魔力の壁が、サフィリアたちに突っ込んで来る!
 咄嗟とつさに"魔法障壁シールド"を展開し、直撃を防ぐ!
 それでも身体がぎ倒され、サフィリアは床の上に跳ね飛ばされた!
「きゃ……っ!」

 何とか受け身を取り、衝撃を逃したサフィリアだが、身体のあちこちに打撲の様な痛みが広がる。
 だが、この超高圧の魔力を受けても、ヴィオレッタは微動だにしていなかった。
 全身に散りばめた魔導石が一斉に青い光を放ち、ローザの攻撃を軽く受け流している。
 ヴィオレッタ得意の魔法障壁シールドの鎧だ。

 以前戦った時も、この障壁を破ることに苦戦した。
 勝つことは難しくても、ヴィオレッタならばローザの攻撃を防ぎきり、サフィリアがヴェルデグリスを解放する余裕を作れるかも知れない。

 血を流して闘い合った相手に期待する状況に違和感を覚えつつ、サフィリアも錫杖しやくじようを構えて、その先端をローザに向ける。
「……それが、貴女の答え……なのですね?」
「いくら謝っても謝り切れない……。でも、サフィリアはクラルを助けたい。
 自分の気持ちに……素直に従いたい……!」
「……分かりました!」

 ローザの背後に"マギコード"の構成文が走り、破壊のちからを形成して行く!
 対面してあいまみえるのは、これが初めて――

 ローザの右腕が、サフィリアに向かって突き出される!
 同時に、空間を伝った魔力ちからが、周囲の空間ごとサフィリアをし潰しにかかる!
 だが――

 サフィリアとローザのあいだに立ちはだかったヴィオレッタの"魔法障壁シールド"が、その魔力ちから奔流ほんりゆうを受け流す!

 ローザの魔力ちからは、的を外し、『封印の間』の壁を粉々に打ち砕く!
 舞い上がる粉塵ふんじんを手で払い除け、ヴィオレッタはめ回す様な目つきでローザを見据みすえた。
「貴女の相手はこのヴィオレッタがつとめましょう。サイザリス様は一刻も早く、ヴェルデグリスの魔力ちからを解放して下さい……」

「そうは行かないわ!」
 サフィリアの背後から響く――聞き慣れた声。
 少女の心臓が跳ねる!
 その声を――自分は待ち望んでいたのか? それとも、聞きたくなかったのか?

 自問自答の答えは、ローザの吹き荒らす魔力ちからの嵐にかき消される。
「……どうして来ちゃったのさ、カラナ?」

 意を結して、振り向く。

 赤毛の魔導師が、蒼衣の魔導師を――睨みつけた。
「サフィリアの相手は――あたしが務めるわ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...