PITTO

ナツメユウマ

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第二章

レオナルド

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翌日の午前九時。

俺はいつもなら、授業中だというのにやけに賑やかな教室で、一人黒板と向き合っていたと思う。

しかし俺は今、近所の殺風景な公園にいる。

目の前には小学校低学年くらいの小さな男の子が、コキコキと全身の骨を鳴らしながら俺の方を笑顔で見ている。


「…君、アーノルドの知り合いだったりする?」


目の前の可愛い見た目をした男の子に聞いた。
昨日アーノルドが去り際に、明日のこの時間、この公園に来るようにと俺に言ったのだ。

実際来てみるとアーノルドの姿は無かった。その代わり、小さな男の子が準備体操をしていて、俺を見て待ってましたと言わんばかりに笑顔で手を振ってきたのだ。


「あは、ごめーん、また説明してなかったよね。ボクだよ、アーノルドだよ。これね、ボクの弟なんだ。レオナルドっていうんだ、レオでいいよ!」


言われてみれば、レオの見た目はアーノルドをそのまま子供にしたようで、とてもアーノルドに似ていた。
金色の透けた髪や長い睫毛、青と銀色の瞳がそっくりだと思った。

「…弟いたんだ。てか弟、死んだの?」

「そうなんだよねぇ、レオは八歳の時に死んじゃったんだよ。レオがテンション上がっちゃって、銃乱射中に自分にも当たっちゃって。穴だらけだよ!」

キャッキャと楽しそうに笑うレオを見て、見た目はアーノルドそっくりだが、中身は全く似ていなかったんだろうと俺は思った。
アーノルドはどんなにテンションが上がっても銃を乱射しないであろう。

「なんで親友の身体は必死に探してんのに、弟の身体は平行世界で探してやらなかったんだよ。」

「さっきも言った通り、穴だらけだったからねー。脳みそもぐちゃぐちゃ。無理だったんだよね、残ったのは血だけ。だからこうしてレオになれてるんだけどね。でも、寂しくないよ。こうやっていつでも弟に会えるからね。」

「じゃあシュナウザーにも変身したらいいんじゃないの?」

「無理無理、もうボクの身体はキャパオーバーだよ。一応生身の人間だからねー、容量ってもんがあるんだよ!だってまさかシュナウザーが死ぬとは思わないじゃないか!」

俺は疑問だった。
どう考えても、武蔵の変身は要らなかったんじゃないかと思う。
PITTOで少し世話になり、良い奴だったからと言って、あの姿には一秒でもなりたくない。どんなに容量が余っていても、俺なら武蔵には絶対に変身しない。

レオは準備体操が終わったのか、首を左右に鳴らしたあと俺を見た。
そしてまだ声変わりのしていない幼児特有の声で、かかってこい!と笑顔で言った。

「ま、待って…なんで弟の姿なの…。嫌だよ、俺。子供を殴ったりできない。」

「なんだよー!こう見えてもボクは強いんだぞ!心配しなくてもシュナウザーはボクを〝殴れない〟よ、安心して!」

天使のような笑顔で微笑むレオに俺は萎縮した。
こんな小さな子に、どうしろと言うんだ。
いくらレオが銃を乱射するようなトリッキーな子供だからといって、俺がレオに殴りかかっていい理由にはならない。

それにこの体格差じゃ、殴るよりも蹴る方がレオにはよく当たるだろう。
それほどまでにレオの身体は小さかった。

「なぁ、やっぱりアーノルドに戻」

アーノルドに戻ってくれ。

俺がそう言いかけた時、顎に強烈な衝撃を受けた。
俺は思い切り自分の舌を噛み、泡立った血がだらだらと口から溢れ出し顎に流れていった。今までに経験した事の無い痛みが口内に走り、ぼたぼたと尋常じゃない血が地面に落ちる。

目の前には、笑顔を絶やさずに俺を真っ直ぐ見ているレオがいる。
口から血の泡を吹き喋ることもできず、激痛で歪んだ俺の顔を見て、レオは楽しそうに笑っている。

「だめだよ、油断しちゃ!もう特訓は始まってるんだから!」

何が起きたのか理解できないまま、俺は自分の口から溢れ出る血を拭う事しかできなかった。

そんな俺を見てレオは心配そうな素振り一つせず、腰に提げていたペットボトルを俺に手渡し飲むように促した。

「それはね、ボクが調合した薬だよ。すぐに血が止まるから!舌が完全にちぎれてないことを祈ろう!」

俺はアーノルドが恋しくなった。
全力で俺に怪我をさせまいと守ってくれていたアーノルド。シュナウザーの為だったとしても、アーノルドに守られるのは心強かった。

しかし、今のアーノルドは姿形はレオだが、中身はアーノルドのはずだ。何故レオの姿になった途端、いとも簡単に俺に怪我をさせられるんだろう。

俺はレオから受け取った薬を舌に染み込ませるようにして飲んだ。
魔法のように痛みが和らいでいく。 

「…あの、さ。アーノルドだよね、今。」

血が止まり、話せるようになった俺をレオは退屈そうに見ていた。

「ボクはどんな姿になったって、アーノルドだよ。」

子供とは思えない冷たい目に俺は恐怖した。
レオの目は早く俺を殺したいと言っていた。

全身からは殺気が放たれていて、俺が全快するのを今か今かと待ちわびている。


アーノルドの発明は、アーノルドが思っているより不完全らしい。

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