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本編
1 夜の公園
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夜の公園に肉のぶつかる音が響いている。
身体を繋げているのは、木につかまって後ろから相手を受け入れているのも、それを責め立てているのも、両方ともガタイのいい男だ。
その男同士のセックスを、俺は息を詰めて物陰からのぞき見していた。
夏休みのある日、暇つぶしにスマホで動画を見ていた俺は、偶然ゲイ向けのエロ動画を目にした。
普通なら気持ち悪いだけのはずのその動画に、俺はなぜか欲情してしまった。
自分で自分が信じられなくて、これは何かの間違いだと証明したくて、試しに他のゲイ動画を何本か見てみたが、結果はやはり同じだった。
もともと俺はエロいことにあまり興味はなく、友達と一緒に普通の男女のエロ動画を見た時もふーんと思った程度だったので、単純に淡白なのだろうと思っていた。
けれども、男同士の動画では欲情するのであれば、実は淡白なのではなく女に興味がないだけで、男には興味がある——つまりはゲイなのだということになってしまう。
その事実に混乱し、そのことを認めたくなかった俺は、こう考えた。
こんなものを見て欲情してしまったのは、動画が人を興奮させるようにうまく作られているからだ。
作り物ではない、現実の男同士のセックスを見たら、気持ちが悪いだけで欲情なんかしないだろう。
だから、実際の男同士のセックスを見たら、自分がゲイじゃないと証明できるはずだ。
……今にして思うと、自分でもどうしてそんなことを考えついたのか、よくわからない。
けれどもとにかく俺は、夏休みで暇だったこともあって、ネットで男同士のセックスがのぞき見できそうなハッテン場を探し、夜になるのを待ってこの公園に来たのだった。
そうして男同士のセックスを実際に近くで目にした俺は、気持ち悪いと思うどころか、まばたきをするのも忘れるくらいに見入っていた。
動画のようなわざとらしい喘ぎ声も視聴者に見せるための不自然な体位の変更もない、互いの快感だけを追う獣のようなセックスは、作られたものではない生々しさがある。
その生々しいセックスを見た俺は、欲情するだけではなく、男同士でセックスしている2人のことをうらやましいとすら思ってしまった。
突っ込んでいる男と突っ込まれている男の、どちらがよりうらやましいのかは、深く考えてしまうと抜け出せないところまで行ってしまいそうなのが怖くて、考えることが出来ない。
興奮のあまり、股間のモノは痛いくらいに張り詰めている。
無意識のうちにそれに手を伸ばしかけた俺は、はっと気付いて、音を立てないようにそっとその場から移動した。
幸いなことに、のぞいていた相手には見つからずにすんだようだ。
とにかくこの張り詰めているモノをどうにかしないと帰ることも出来ないので、俺はそのままそろそろと公園のすみのトイレに向かった。
中に誰もいないことにほっとしつつ、個室に入ってカギをかけて便座に座り、全く萎える気配のないモノを握る。
「実際の男同士のセックスを見たら、自分がゲイじゃないと証明できる」だなんて、妙な確信を持ってのこのことこんなところにやってきて墓穴を掘った自分の馬鹿さ加減に、腹が立って、そして情けなくて仕方がない。
そんなふうに気持ちは落ち込んでいても、頭の中には自然と先ほどの光景が浮かんできて、機械的に手を動かしているだけであっと言う間に達してしまった。
「くそっ」
あまりにも自分が情けなくて悔しくて、思わず小さくつぶやいてから、気を取り直して後始末を始めた、その時だった。
突然、押し殺したようなハッハッという荒い息づかいと、かすかな湿った音が聞こえてきた。
個室の外から、明らかに人のいる気配がする。
これじゃ出られないじゃないと困っていると、外から小さく「くそっ」という声が聞こえた。
それは、明らかに聞き覚えも身に覚えもある声——ついさっき、自分がつぶやいたばかりの声だ。
大慌てでズボンを元に戻してドアを開けると、そこには背の高い男が立っていた。
男が右手にかかげているスマホの画面には、俺が便座に座って自分のモノをこすっている様子が鮮明に映し出されている。
一瞬で血の気が引いて真っ青になった俺に、男は上品にすら見えるきれいな顔で、にっこりと微笑みかけた。
「なかなか綺麗に取れているでしょう?
最近のスマホは、暗いところでもうまく撮影出来るようになりましたからね」
男は、まるで夜景撮影の話でもしているような、すました顔でそう言った。
「そんなもの、どうやって……。
俺、ちゃんとカギ閉めたのに……」
「おや、気が付きませんでしたか?
ほら、ここですよ」
男が指を指したところを見てみると、ドアのちょうつがいのネジが1つはずれていて、そこに親指が入るくらいの大きな穴が空いていた。
斜めに扉を貫通しているその穴は、カメラのレンズを向ければ、中の便座に座っている人が丁度撮影できそうな位置にある。
「まさかとは思いますが、知らなかったのですか?」
「……え?」
「この公園は、夜は露出趣味のゲイとのぞき趣味のゲイが集まることで有名なんです。
この公園で性的な行為をするということはすなわち、視姦してくださいと言っているのと同じことなのですよ。
当然、動画を撮影されてネットにアップされるようなことも多いので、大抵の人は変装したり顔を隠したりしているのですが、あなたにはそういう様子がないので、おかしいとは思ったのですが」
男の言葉に、俺はさらに青くなる。
ここのトイレは扉に向かって座るようになっていて、さっき見せられた動画には俺の顔もバッチリ映っていた。
もし、あんなものをネットにアップされたら、身の破滅だ。
「やめろ!
……頼む、ネットには上げないでくれ。
俺、本当に知らなくて……、そういうつもりじゃなかったんだよ」
俺の懇願に、男は少し考える素振りを見せてから口を開く。
「そうですね……。
その様子では、本当に知らなかったようですし、かわいそうですから、ネットにアップするのはやめてあげてもかまいませんが……」
「本当か?」
「ええ。ですが、そのためには当然、相応の見返りを要求させていただきますが」
「見返りって、何を……?」
嫌な予感がしつつもおそるおそる尋ねると、男は薄く笑みを浮かべながらこう言った。
「あなたを抱かせてもらえますか?
今、ここで」
身体を繋げているのは、木につかまって後ろから相手を受け入れているのも、それを責め立てているのも、両方ともガタイのいい男だ。
その男同士のセックスを、俺は息を詰めて物陰からのぞき見していた。
夏休みのある日、暇つぶしにスマホで動画を見ていた俺は、偶然ゲイ向けのエロ動画を目にした。
普通なら気持ち悪いだけのはずのその動画に、俺はなぜか欲情してしまった。
自分で自分が信じられなくて、これは何かの間違いだと証明したくて、試しに他のゲイ動画を何本か見てみたが、結果はやはり同じだった。
もともと俺はエロいことにあまり興味はなく、友達と一緒に普通の男女のエロ動画を見た時もふーんと思った程度だったので、単純に淡白なのだろうと思っていた。
けれども、男同士の動画では欲情するのであれば、実は淡白なのではなく女に興味がないだけで、男には興味がある——つまりはゲイなのだということになってしまう。
その事実に混乱し、そのことを認めたくなかった俺は、こう考えた。
こんなものを見て欲情してしまったのは、動画が人を興奮させるようにうまく作られているからだ。
作り物ではない、現実の男同士のセックスを見たら、気持ちが悪いだけで欲情なんかしないだろう。
だから、実際の男同士のセックスを見たら、自分がゲイじゃないと証明できるはずだ。
……今にして思うと、自分でもどうしてそんなことを考えついたのか、よくわからない。
けれどもとにかく俺は、夏休みで暇だったこともあって、ネットで男同士のセックスがのぞき見できそうなハッテン場を探し、夜になるのを待ってこの公園に来たのだった。
そうして男同士のセックスを実際に近くで目にした俺は、気持ち悪いと思うどころか、まばたきをするのも忘れるくらいに見入っていた。
動画のようなわざとらしい喘ぎ声も視聴者に見せるための不自然な体位の変更もない、互いの快感だけを追う獣のようなセックスは、作られたものではない生々しさがある。
その生々しいセックスを見た俺は、欲情するだけではなく、男同士でセックスしている2人のことをうらやましいとすら思ってしまった。
突っ込んでいる男と突っ込まれている男の、どちらがよりうらやましいのかは、深く考えてしまうと抜け出せないところまで行ってしまいそうなのが怖くて、考えることが出来ない。
興奮のあまり、股間のモノは痛いくらいに張り詰めている。
無意識のうちにそれに手を伸ばしかけた俺は、はっと気付いて、音を立てないようにそっとその場から移動した。
幸いなことに、のぞいていた相手には見つからずにすんだようだ。
とにかくこの張り詰めているモノをどうにかしないと帰ることも出来ないので、俺はそのままそろそろと公園のすみのトイレに向かった。
中に誰もいないことにほっとしつつ、個室に入ってカギをかけて便座に座り、全く萎える気配のないモノを握る。
「実際の男同士のセックスを見たら、自分がゲイじゃないと証明できる」だなんて、妙な確信を持ってのこのことこんなところにやってきて墓穴を掘った自分の馬鹿さ加減に、腹が立って、そして情けなくて仕方がない。
そんなふうに気持ちは落ち込んでいても、頭の中には自然と先ほどの光景が浮かんできて、機械的に手を動かしているだけであっと言う間に達してしまった。
「くそっ」
あまりにも自分が情けなくて悔しくて、思わず小さくつぶやいてから、気を取り直して後始末を始めた、その時だった。
突然、押し殺したようなハッハッという荒い息づかいと、かすかな湿った音が聞こえてきた。
個室の外から、明らかに人のいる気配がする。
これじゃ出られないじゃないと困っていると、外から小さく「くそっ」という声が聞こえた。
それは、明らかに聞き覚えも身に覚えもある声——ついさっき、自分がつぶやいたばかりの声だ。
大慌てでズボンを元に戻してドアを開けると、そこには背の高い男が立っていた。
男が右手にかかげているスマホの画面には、俺が便座に座って自分のモノをこすっている様子が鮮明に映し出されている。
一瞬で血の気が引いて真っ青になった俺に、男は上品にすら見えるきれいな顔で、にっこりと微笑みかけた。
「なかなか綺麗に取れているでしょう?
最近のスマホは、暗いところでもうまく撮影出来るようになりましたからね」
男は、まるで夜景撮影の話でもしているような、すました顔でそう言った。
「そんなもの、どうやって……。
俺、ちゃんとカギ閉めたのに……」
「おや、気が付きませんでしたか?
ほら、ここですよ」
男が指を指したところを見てみると、ドアのちょうつがいのネジが1つはずれていて、そこに親指が入るくらいの大きな穴が空いていた。
斜めに扉を貫通しているその穴は、カメラのレンズを向ければ、中の便座に座っている人が丁度撮影できそうな位置にある。
「まさかとは思いますが、知らなかったのですか?」
「……え?」
「この公園は、夜は露出趣味のゲイとのぞき趣味のゲイが集まることで有名なんです。
この公園で性的な行為をするということはすなわち、視姦してくださいと言っているのと同じことなのですよ。
当然、動画を撮影されてネットにアップされるようなことも多いので、大抵の人は変装したり顔を隠したりしているのですが、あなたにはそういう様子がないので、おかしいとは思ったのですが」
男の言葉に、俺はさらに青くなる。
ここのトイレは扉に向かって座るようになっていて、さっき見せられた動画には俺の顔もバッチリ映っていた。
もし、あんなものをネットにアップされたら、身の破滅だ。
「やめろ!
……頼む、ネットには上げないでくれ。
俺、本当に知らなくて……、そういうつもりじゃなかったんだよ」
俺の懇願に、男は少し考える素振りを見せてから口を開く。
「そうですね……。
その様子では、本当に知らなかったようですし、かわいそうですから、ネットにアップするのはやめてあげてもかまいませんが……」
「本当か?」
「ええ。ですが、そのためには当然、相応の見返りを要求させていただきますが」
「見返りって、何を……?」
嫌な予感がしつつもおそるおそる尋ねると、男は薄く笑みを浮かべながらこう言った。
「あなたを抱かせてもらえますか?
今、ここで」
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