脅迫者は優しいご主人様

鳴神楓

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本編

15 再び公園 2

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「あの公園って、確かのぞき趣味の人が集まるんじゃ……」
「ええ、そうです。
 たまには君の可愛らしい姿を他の人に見てもらうのもいいかと思いまして」

理一の言葉に、俺は青くなる。
自分のあんな恥ずかしい姿を、どこの誰ともわからない男たちに見られるなんて、絶対に嫌だ。

「で、でも、あそこ、動画を撮られてネットに上げられたりするって……」

プレイ中に理一に口答えするのは許されないとわかっていても、俺は何か言わずにはいられない。

「大丈夫ですよ。
 そのために着替えてアイマスクをつけたのですから。
 今のその姿を見て、君だとわかる人はまずいないでしょう。
 ああ、けれども声を聞けばわかる人にはわかってしまうかもしれませんね。
 声を我慢できる自信がないなら、猿ぐつわでも噛ませてあげましょうか?」

今日の理一の話し方は、なぜか抑揚が少なく淡々としていて、声から感情を読み取ることが出来なくて、それがさらに俺の不安を煽る。
表情をうかがいたくて、つい理一の方を見てしまうが、アイマスクのせいで何も見えない。

「あの公園、外からは見えないところにベンチがあって、そこだとたくさんの人にのぞいてもらえると、露出趣味の人間に人気があるんですよ。
 もし空いていたら、そこで君をみんなによく見えるように背面座位で抱いてあげましょう。
 君のあの色っぽくて可愛らしい姿を見たら、きっとみな興奮するでしょうね。
 きっと、私に抱かれる君を見ながら、我慢出来なくなって自慰を始める人も出てくるでしょう」

理一の言葉で、公園のベンチで半裸にされて、理一に後ろから貫かれ啼かされている自分の姿が頭に浮かんできて、いつも与えられている快感を思い出した体が期待で熱くなる。
けれども、その抱かれている自分を、他の人に見られたり動画を撮られてネットに流されることを考えると、嫌悪感で一気に熱は冷めた。

「そのうちに、見ているだけでは我慢出来なくなる人も出てくるかもしれませんね。
 君の白くてなめらかな肌も、赤く尖った乳首も、可愛らしいペニスも、みな目にすればつい触りたくなるような素晴らしいものですから。
 そうですね、ほんの少しくらいなら、触らせてあげてもいいかもしれません」

やめてくれ!と、思わず叫び出しそうになる。
体のあちこちを触られるのも、あんな恥ずかしい姿を見られるのも、理一だから大丈夫なのだ。
他の知らない男になんて、いや、たとえ友達や知り合いの中の誰が相手だったとしても、絶対に耐えられない。


……けど、理一なら、俺が嫌がってるの、気付いてくれるよな……?

そうだ、理一は俺にひどいことはしても、本当に嫌なことは絶対にしないのだ。
今まで痛いことはされたことがないし、思い出してみれば犬プレイの時も、フェラまでは出来ても精液を飲むのは無理だと思ったけど、理一はちゃんと飲むところまでいく前にさりげなく別のプレイに誘導してくれていた。

うん、だから大丈夫。
理一は、ちゃんとわかってくれてるから。

そう思うと少し安心できたが、今日の理一はなんだか何を考えているのかよくわからないから、まだ不安は残る。


やがて、車が停止して駐車券を取る気配がして、再び動き出した車は坂道をぐるぐる回りながら登っていった。
どうやらどこかの立体駐車場に入ったらしい。

「着きましたよ。
 降りなさい」

……やめてくれないのか?

理一が露出プレイからの逃げ道を用意してくれるのを待ったが、車内は静かなままだった。

本気でやるつもりなんだ……。

そう理解すると、背筋にぞくっと寒気が走った。

無理、絶対嫌だ。
どうしよう、やめたいって言ってみるか……?

プレイ中は絶対服従とはいえ、今は別に理一に脅されているわけではないのだから、俺の意思でやめられないわけではない。

でも、やめたいって言ったら理一にがっかりされるんじゃないだろうか。
それどころか、もしかしたら命令に従えない奴隷はいらないと言われるんじゃ……。

理一に冷たい顔で「いりません」と告げられるところを思い浮かべると、また背筋がぞくっとする。


「みちる」

不意に、耳元で名前を呼ばれた。
反射的に身をすくませてしまったが、しかしその声は、さっきまでの感情の読めない淡々としたものではなく、低く甘く優しかった。

「覚えていますか?
 『セーフワード』のことを」
「あ……」

言われて初めて思い出す。
初めてSMホテルに連れていかれたあの日、プレイを始める前に、肉体的にでも精神的にでも無理だと思ったら『ストップ』と言えばいいと教えられたことを。

だったら今、そのセーフワードを使ってもいいのだろうか。
でももし、それを使って、理一に嫌われてしまったらどうしよう。

迷う俺の手に、何かが触れた。
暖かいそれが、俺の指を包み込んできゅっと握る。
冷えきった指先が暖められていくのを感じて、その温もりに導かれるようにして、俺はようやく口を開いた。

「スト、ップ……」
「よろしい。
 ではプレイを中止しましょう」

そう言うと理一は、握っていた俺の手を離して、俺がつけていたアイマスクを取ってくれた。
びくびくしながら理一の方を見ると、理一は嫌そうな顔などしておらず、むしろ優しい微笑みを浮かべていた。

「ちゃんと言えましたね。
 いい子ですね」
「……なんで?」

いきなり褒められた俺は、わけもわからず呆然と問い返す。

「だって、君は必要な時にきちんとセーフワードを使うことができたでしょう?
 もともと今日は最初から君にセーフワードを使う練習をしてもらうつもりでしたから」
「え?」
「あの公園に行くつもりもありませんでしたよ。
 ほら、見てください。
 あそこからはずいぶん離れているでしょう?」

理一が指差す方を見ると「契約駐車場」という看板があって、デパートや大型電気店の名前が書かれている。
確かにそれらの店がある繁華街は、あの公園からはかなり離れていた。

「必要な時にセーフワードを口にできるようにしておくことは大事なことなんです。
 もちろん、プレイ中にMに危険が及ばないようにすることはSの義務ですが、それでも万が一ということもありますからね。
 私は君に様々なプレイを要求しますが、それでも君のことを心身ともに本当の意味で傷つけたいわけではありませんから、だから君にも自分自身の身を守れるようになってもらいたかったのです。
 私が君を脅迫していた時は、いくらそう言っても説得力がなかったでしょうけれど、今なら君にもわかってもらえるかと思いまして」
「あー……うん、確かにわかった」

理一に説明されて、今日のプレイの意図がようやく理解できた。
それと共に、理一が俺が恥ずかしい姿を他人に見られたり触れられたりすることを嫌がるだろうと予想していたからこそ、あんな芝居をしたのだとわかって、ひどく安堵している自分に気付く。


……え?
なんで俺、そんなことでほっとしてるんだ?

プレイが終わり、理一の意図を知って、少し冷静になってきたせいで、俺は今度は自分の心の動きに疑問を持ち始める。

冷静になった今、さっきのプレイの最中に自分が考えていたことを思い出してみると、色々とおかしかった気がする。


恥ずかしい姿を見られるのも触られるのものも、理一だからこそ大丈夫なのだと思ったこと。
理一なら俺が嫌がることをわかってくれると信じきっていたこと。
プレイをやめたいと言ったら理一に捨てられるのではないかと怯えたこと。

そんな心の動きが意味することと言えば……。

「実は今日はいつものホテルの予約が取れなかったんですよ。
 ですから、どちらにしろ今日のプレイはここまでです。
 もし君さえよければ、このまま食事にでも行きませんか?
 騙したおわびに好きなものをごちそうしますよ」

隣で理一がそんなことを言っているが、俺の方はそれどころではない。

「みちるくん?」

あ、くん付けなんて初めてだ、と思った次の瞬間、心配そうな顔をした理一に顔を覗き込まれ、一気に体温が上がる。

「……帰る」
「え?」
「帰るから!」

叫んで、車のドアを開けて外に出ようとするが、締めたままだったシートベルトにそれを阻まれる。
舌打ちをしてシートベルトを外し、足元に置いていたカバンをつかんで、俺は改めて車を降りて出口の矢印の方に走った。

「みちるくん!」

後ろで理一の声が聞こえたけれど、無視して俺はエレベーターの奥にあった非常階段を駆け下りていった。

————————————————

「いくら何でもあれはまずかったよな……」

自宅にたどり着いた俺は、さすがに反省して、理一にスマホでメッセージを送った。

『勝手にいきなり帰ったりして悪かった』

理一からは、すぐ返信があった。

『いえ、気にしないで下さい。
 私の方こそ騙したりしてすみませんでした』
『そっちも気にしなくていいから。
 それと、服もそのまま着て帰っちゃってごめん』
『それこそ、気にしないで下さい。
 最初からその服は差し上げるつもりでしたから。
 君が着ていた服は今度会った時にお返ししますね』
『わかった』
『では、おやすみなさい』
『おやすみ』

理一とのやりとりを終えてスマホを置いた俺は、深くため息を吐いた。

「我ながら、趣味悪すぎだろう……」

帰りの電車の中で何度も自問自答したけど、結論は変わらなかった。
どうやら俺は、理一のことが好きらしい。
ゲイだというだけでも厄介なのに、初恋があんな変態だなんて終わってると思う。
でもやっぱり、さっきのプレイの最中に実感した通り、理一でなければ駄目なのだ。

「あーもう、どうすんだよ、俺……」

自分の気持ちを自覚したものの、色々と考えるべきことが多すぎて、俺はぐったりとベッドに寝転がった。

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