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一章
過信する者、しない者
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アイアンランクに昇格した僕は、今まで受けられなかった危険な討伐依頼も受ける事が出来る。デライラ達のパーティはまだブロンズランクだから、あの連中は地団駄を踏んでいるかもしれないね。これで僕達に仕掛けてくる事は無くなるかもしれないけど、あいつらの運命は変わらない。
――僕が許してもノワールが許さないだろうしね。
「どうですか? そろそろ身体の方も慣れて来たのでは?」
「ああ。スピードやパワーに、漸く感覚が追い付いてきたよ」
二本の短槍を接続させて一本にした、両端に穂先がある変則槍。それで足下のオークを突き刺し、止めを刺したところだ。
オークは単体ではアイアンランクに位置付けられている魔物だ。パーティで対応する場合はブロンズランカーでも何とかなるけど、オークは多くの場合群れで行動しているため、最低でも一対一でオークに勝てる実力がないと、手を出さない方がいい。
「それはそうとして、この武器はどうにも使いにくいね。接続させてもリーチが伸びるだけでそれ以外のメリットがないし、自分に刃が向いている状態で突いたり引いたりするのは怖いよ」
「なるほど……では私の双剣をお使いになってみますか?」
短槍は突きのみに特化した武器で、重量もそれほどではないから鈍器代わりに殴っても効果は薄い。ただ、僕みたいに非力で臆病な人間には向いてはいる。相手の懐に入らずにチクチクと突いていればいい。そもそも僕はウィザードだからね。
でも、接近戦に持ち込まれたら無力になるようでは困る。だから両手に短槍を持って手数で敵を近付けない。そういう目的として割り切ってしまえばそう悪くはないとも言える。
それが短剣レベルなってしまうと、今倒したオークのような大型の魔物にはリーチで負けてしまう。正直怖い。
「うふふ。強化状態のご主人様なら、このような豚ごとき、素手で殴り殺せますのに」
「そうかも知れないけどね。怖いものは怖いさ」
「ご主人様のそのような慎重さは、生き延びる為の大事な要素です」
僕の内心を察したように、ノワールが励ましてくれる。ウサギの時はその愛くるしさで僕を癒してくれたけど、今の彼女は笑顔で、言葉で、ぬくもりで癒してくれる。
「それに、私がご主人様の中に入らずとも、ご主人様はご自身の魔力のみで十分お強くなりましたよ?」
どういう事かというと、ウィザードが魔法を行使するには精霊に命じて、精霊に協力させなければならない。ところが僕の魔力は闇属性に特化しているため、一般的に認知されている火、水、風、土の四大属性の精霊は僕に対して非協力的だ。
しかし、今の所闇属性の精霊というのはこのノワールしかいないようで、僕が闇魔法を使うにはノワールの存在が不可欠であり、彼女の協力無くしては魔法を発動させられない。
そこで考えたのが、僕自身の魔力を体内に循環させて身体能力を爆発的に上げて体術で戦うというものだ。初めの内はノワールに身体の中に入ってもらい、アシストを受けながら強化していた。だが、今はノワールと離れていても身体強化は可能になった。
ノワールがいない時でも戦えなくちゃね。
今倒したオークという魔物は豚のような顔に鋭い牙を生やし、でっぷりとした巨大な体躯を持つ手強い魔物だ。討伐依頼が受けられるのはアイアンランク以上からっていう条件が付く事から、冒険者ギルドも強力な魔物だと認識している事が分かる。
人間側の勝手な解釈ながら、冒険者ランクと同様に魔物にもランク付けをしている。要はランクに見合わない強力な魔物に挑んで、冒険者が命を落とさないようにとの措置なんだよね。
そういう訳で、遭遇戦は致し方ないとしても、低ランクの冒険者が高ランクの魔物を討伐しにいくのは禁じられている。
だけど、冒険者ランクと実力が比例しているかと言えば必ずしもそうじゃない訳で。
「今のご主人様なら、もうワンランク上の魔物相手でも遅れは取りませんね」
というノワールの言葉の通り、実力にランクが追い付いてこないケースもある。実際僕はこのオークを魔法なしで圧倒した訳で、もっと強い魔物ともやり合えるとは思う。
たまに低ランクの実力者が、高ランクの魔物との遭遇戦でそれを倒した場合、実力が認められて一気にランクアップするケースはある。
逆に、ランクアップを狙った低ランク冒険者が、遭遇戦を装って高ランクの魔物に挑み命を落とすなんて話も枚挙にいとまがない。
「何事も過信はいけないし、臆病なくらいでちょうどいいんだよ」
そんな僕に、ノワールが苦笑した。
「それに、森や廃坑内部は暗くて隠れる場所も多い。不意打ちに注意しなくちゃいけないしね」
いくら強くなっても、想定外の事にまで完全に対処するのは難しい。だから絶対に油断しちゃいけないんだ。
「それならご心配には及びません」
だが、僕の言葉にノワールはゆっくりと首を振る。
「森の闇、ダンジョンの闇。それらは全て私の支配領域。むしろご主人様に仇なす者など存在しえません。どこに潜んでいようが私からは逃れられませんので」
なるほど。闇こそ僕の力が最大限発揮されるフィールドって訳だね。しかもノワールに任せておけば索敵の心配がいらないどころか、先制攻撃すら容易い。
「楽しみだね、ノワール?」
「はい! ご主人様!」
さあ、戻ろうか。かなり素材も溜め込んだし、装備も新調した方がいいかな。アイアンランクだしね。
△▼△
その頃別の狩り場では。
「きゃっ!」
オークの打撃を捌ききれず、デライラが吹き飛ばされた。そのままデライラに追撃を掛けようとするオークに、牽制の射撃をする弓使い。
「おいおい!」
もう一匹のオークが盾持ちの斧使いに迫る。双剣士がそのオークの側面に回り込み斬り込むが、分厚い脂肪を破れずに有効なダメージを与えられない。
「くっ! 仕方ない、全員、撤退だ!」
弓使いが声を上げながら指示を出す。牽制の矢を放ちながら自らも徐々に後退していく。
「私達にはオークはまだ早すぎたのよ!」
デライラが、走りながら弓使いの男に非難めいた視線を投げかけ叫ぶ。
(ちっ……この女も期待外れだったな。いっそコイツもダンジョンで……)
弓使いの中にどす黒い感情が渦巻いた。
――僕が許してもノワールが許さないだろうしね。
「どうですか? そろそろ身体の方も慣れて来たのでは?」
「ああ。スピードやパワーに、漸く感覚が追い付いてきたよ」
二本の短槍を接続させて一本にした、両端に穂先がある変則槍。それで足下のオークを突き刺し、止めを刺したところだ。
オークは単体ではアイアンランクに位置付けられている魔物だ。パーティで対応する場合はブロンズランカーでも何とかなるけど、オークは多くの場合群れで行動しているため、最低でも一対一でオークに勝てる実力がないと、手を出さない方がいい。
「それはそうとして、この武器はどうにも使いにくいね。接続させてもリーチが伸びるだけでそれ以外のメリットがないし、自分に刃が向いている状態で突いたり引いたりするのは怖いよ」
「なるほど……では私の双剣をお使いになってみますか?」
短槍は突きのみに特化した武器で、重量もそれほどではないから鈍器代わりに殴っても効果は薄い。ただ、僕みたいに非力で臆病な人間には向いてはいる。相手の懐に入らずにチクチクと突いていればいい。そもそも僕はウィザードだからね。
でも、接近戦に持ち込まれたら無力になるようでは困る。だから両手に短槍を持って手数で敵を近付けない。そういう目的として割り切ってしまえばそう悪くはないとも言える。
それが短剣レベルなってしまうと、今倒したオークのような大型の魔物にはリーチで負けてしまう。正直怖い。
「うふふ。強化状態のご主人様なら、このような豚ごとき、素手で殴り殺せますのに」
「そうかも知れないけどね。怖いものは怖いさ」
「ご主人様のそのような慎重さは、生き延びる為の大事な要素です」
僕の内心を察したように、ノワールが励ましてくれる。ウサギの時はその愛くるしさで僕を癒してくれたけど、今の彼女は笑顔で、言葉で、ぬくもりで癒してくれる。
「それに、私がご主人様の中に入らずとも、ご主人様はご自身の魔力のみで十分お強くなりましたよ?」
どういう事かというと、ウィザードが魔法を行使するには精霊に命じて、精霊に協力させなければならない。ところが僕の魔力は闇属性に特化しているため、一般的に認知されている火、水、風、土の四大属性の精霊は僕に対して非協力的だ。
しかし、今の所闇属性の精霊というのはこのノワールしかいないようで、僕が闇魔法を使うにはノワールの存在が不可欠であり、彼女の協力無くしては魔法を発動させられない。
そこで考えたのが、僕自身の魔力を体内に循環させて身体能力を爆発的に上げて体術で戦うというものだ。初めの内はノワールに身体の中に入ってもらい、アシストを受けながら強化していた。だが、今はノワールと離れていても身体強化は可能になった。
ノワールがいない時でも戦えなくちゃね。
今倒したオークという魔物は豚のような顔に鋭い牙を生やし、でっぷりとした巨大な体躯を持つ手強い魔物だ。討伐依頼が受けられるのはアイアンランク以上からっていう条件が付く事から、冒険者ギルドも強力な魔物だと認識している事が分かる。
人間側の勝手な解釈ながら、冒険者ランクと同様に魔物にもランク付けをしている。要はランクに見合わない強力な魔物に挑んで、冒険者が命を落とさないようにとの措置なんだよね。
そういう訳で、遭遇戦は致し方ないとしても、低ランクの冒険者が高ランクの魔物を討伐しにいくのは禁じられている。
だけど、冒険者ランクと実力が比例しているかと言えば必ずしもそうじゃない訳で。
「今のご主人様なら、もうワンランク上の魔物相手でも遅れは取りませんね」
というノワールの言葉の通り、実力にランクが追い付いてこないケースもある。実際僕はこのオークを魔法なしで圧倒した訳で、もっと強い魔物ともやり合えるとは思う。
たまに低ランクの実力者が、高ランクの魔物との遭遇戦でそれを倒した場合、実力が認められて一気にランクアップするケースはある。
逆に、ランクアップを狙った低ランク冒険者が、遭遇戦を装って高ランクの魔物に挑み命を落とすなんて話も枚挙にいとまがない。
「何事も過信はいけないし、臆病なくらいでちょうどいいんだよ」
そんな僕に、ノワールが苦笑した。
「それに、森や廃坑内部は暗くて隠れる場所も多い。不意打ちに注意しなくちゃいけないしね」
いくら強くなっても、想定外の事にまで完全に対処するのは難しい。だから絶対に油断しちゃいけないんだ。
「それならご心配には及びません」
だが、僕の言葉にノワールはゆっくりと首を振る。
「森の闇、ダンジョンの闇。それらは全て私の支配領域。むしろご主人様に仇なす者など存在しえません。どこに潜んでいようが私からは逃れられませんので」
なるほど。闇こそ僕の力が最大限発揮されるフィールドって訳だね。しかもノワールに任せておけば索敵の心配がいらないどころか、先制攻撃すら容易い。
「楽しみだね、ノワール?」
「はい! ご主人様!」
さあ、戻ろうか。かなり素材も溜め込んだし、装備も新調した方がいいかな。アイアンランクだしね。
△▼△
その頃別の狩り場では。
「きゃっ!」
オークの打撃を捌ききれず、デライラが吹き飛ばされた。そのままデライラに追撃を掛けようとするオークに、牽制の射撃をする弓使い。
「おいおい!」
もう一匹のオークが盾持ちの斧使いに迫る。双剣士がそのオークの側面に回り込み斬り込むが、分厚い脂肪を破れずに有効なダメージを与えられない。
「くっ! 仕方ない、全員、撤退だ!」
弓使いが声を上げながら指示を出す。牽制の矢を放ちながら自らも徐々に後退していく。
「私達にはオークはまだ早すぎたのよ!」
デライラが、走りながら弓使いの男に非難めいた視線を投げかけ叫ぶ。
(ちっ……この女も期待外れだったな。いっそコイツもダンジョンで……)
弓使いの中にどす黒い感情が渦巻いた。
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