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一章
ショーンがいる時、いない時
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デライラがすらりと剣を抜く。本人の見た目の華やかさとは程遠い、実用一辺倒の両刃の直剣だ。彼女自身も華美な装飾を敬遠する質であるらしく、幼い頃から女の子らしいおしゃれを楽しむと言ったようなところは見た事がない。
それでも本人の見た目が麗しいため、逆にそれが際立って見える。そんな彼女の装備も飾り気のない革製の防具。動きやすさを重視しているので盾も持っていない。あまりにも地味すぎて、なりたての冒険者のようにも見える。
「あたしが行く!」
両手で剣を持ちながら、二本足で立ち上がり威嚇しているクレイズベアに肉薄していった。
「ほう? 速いな、あの娘」
アーテルが感心したように呟いた。
ソードファイターとしてのジョブを与えられた者は、剣を扱う戦闘において身体能力や技量の面で恩恵が与えられる。それは自己鍛錬によってさらに底上げも出来るし、生まれついての才能にも左右されると言われている。
同じジョブを得たからと言って、全ての人間が横一線でスタートする訳ではないし、同じように成長していく訳でもない。才能がある者がより鍛錬を重ねていく事により、他者より強くなる。まあ、当たり前の事だよね。
それとは逆に、僕のようにウィザードのジョブを得ているにも関わらず、双戟で戦うような事をしていると、一切恩恵は受けられず、ずぶの素人と同じだ。それでも鍛錬すれば技量も身体能力も上がるだろう。しかしそれはジョブを得た者の成長曲線とは比べるべくもない。
僕はそれを闇属性の魔力を身体に巡らせて身体強化を施し、爆発的に性能を上げているんだけど、では、デライラのような戦闘ジョブの人間はどうか。
魔力というのはどんな人間も持っている。ただ、一定量以上を保持していないと魔法や身体強化を使う事は出来ない。逆に言えば、魔法を使える魔力量を持っている人間は、僕みたいな魔法使いのジョブを得ると考えられている。
つまり、ウィザードやウィッチといったジョブの人間は身体強化も施せる。しかしそんな事をしなくても、離れた場所からバンバン魔法を撃っていればいい訳で、敢えて貴重な魔力を身体強化に使うのは愚かだ。それが一般的な見方なんだよね。
さて、そういう『常識』に当て嵌めれば、ソードファイターのデライラは身体強化なんてマネは自前じゃできっこない。でも、クレイズベアに突っ込んでいったデライラの速さが尋常ではない事は誰の目にも明らかな訳で。これを見ているサマンサギルド長とイヴァン副ギルド長はどう思うんだろうね。
そんな事を考えている間に、デライラはクレイズベアを切り刻み始めた。
△▼△
馬車の御者席からこれから始まる戦闘を眺めているサマンサとイヴァンの二人は、予想外の展開に困惑していた。
クレイズベアと言えばブロンズランカーが一人でどうにか出来る相手ではない。しかし、目の前の現実は目を疑うものだった。
不祥事でブロンズからウッドに降格したデライラが、たった一人でクレイズベアを圧倒していたからだ。一撃の重さが足りない代わりに手数で補う。上等な武器を持たせたらもっと早くカタが付きそうだが、そこまで見越して確実にヒット&アウェイでダメージを蓄積させていた。
スッと滑らか且つ素早き動きでクレイズベアの懐に入り込み、剣を一閃二閃さえてすぐに距離を取る。クレイズベアの攻撃がくれば巧みなステップでそれを躱し、死角に回り込んで再び斬り付ける。
デライラが身に着けている防具など、クレイズベアの攻撃を喰らえば紙切れ同然でしかない。それを恐れる事なくギリギリで躱し続け、確実にダメージを蓄積させていく。
「なるほどなぁ。あれじゃあ行く行くは剣聖になるなんて噂が飛び交う訳だ」
「そうね。ブロンズに昇格したてのニュービーが、あんな動きをしてたんじゃ……」
デライラの戦闘を見ている二人は感嘆しながら呆れるという器用な真似をしていた。
「でも、ショーンのパーティを抜けてからの彼女は、並の冒険者以下に成り下がったって話じゃない?」
「となると、以前の活躍と今の様子を見るに、やっぱり秘密はあの坊主にありそうだな」
「ええ、ソードファイターが自前で身体強化出来るなんてありえないもの」
「やれやれ、あの坊主、一体何者なんだか……」
御者席から観戦している二人の興味は、実際に戦闘しているデライラではなく、ショーンに移っていった。
△▼△
ヒュン! と剣を振って血のりを払い、鞘に納めたデライラが戻ってきた。彼女の後方には、首を斬り落とされて絶命しているクレイズベアが見える。
「あれも回収しますか? ダンジョンの魔物ではないですが」
そんなデライラの質問に、イヴァン副ギルド長が答える。
「ああ、そのままにしておくと別の魔物が来るしな。今夜は豪勢にクマ鍋といこうや」
「それなら我が回収してこよう」
アーテルがウキウキしながらマジックバッグを持ってクレイズベアの方へ駆けて行った。クマ鍋が楽しみなのかな?
「前よりもキレてるんじゃないか?」
デライラは僕とパーティを組んでいた時よりも、明らかに動きが良かった。おそらくこれは、僕のバフ以外にもデライラ自身の中で何かが変わったせいだろう。
「……やっぱりあんたと一緒だとあたしは強くなれるのね。今更だけどさ」
デライラはそう寂し気に笑いながら、箱馬車に乗り込んでいった。
それでも本人の見た目が麗しいため、逆にそれが際立って見える。そんな彼女の装備も飾り気のない革製の防具。動きやすさを重視しているので盾も持っていない。あまりにも地味すぎて、なりたての冒険者のようにも見える。
「あたしが行く!」
両手で剣を持ちながら、二本足で立ち上がり威嚇しているクレイズベアに肉薄していった。
「ほう? 速いな、あの娘」
アーテルが感心したように呟いた。
ソードファイターとしてのジョブを与えられた者は、剣を扱う戦闘において身体能力や技量の面で恩恵が与えられる。それは自己鍛錬によってさらに底上げも出来るし、生まれついての才能にも左右されると言われている。
同じジョブを得たからと言って、全ての人間が横一線でスタートする訳ではないし、同じように成長していく訳でもない。才能がある者がより鍛錬を重ねていく事により、他者より強くなる。まあ、当たり前の事だよね。
それとは逆に、僕のようにウィザードのジョブを得ているにも関わらず、双戟で戦うような事をしていると、一切恩恵は受けられず、ずぶの素人と同じだ。それでも鍛錬すれば技量も身体能力も上がるだろう。しかしそれはジョブを得た者の成長曲線とは比べるべくもない。
僕はそれを闇属性の魔力を身体に巡らせて身体強化を施し、爆発的に性能を上げているんだけど、では、デライラのような戦闘ジョブの人間はどうか。
魔力というのはどんな人間も持っている。ただ、一定量以上を保持していないと魔法や身体強化を使う事は出来ない。逆に言えば、魔法を使える魔力量を持っている人間は、僕みたいな魔法使いのジョブを得ると考えられている。
つまり、ウィザードやウィッチといったジョブの人間は身体強化も施せる。しかしそんな事をしなくても、離れた場所からバンバン魔法を撃っていればいい訳で、敢えて貴重な魔力を身体強化に使うのは愚かだ。それが一般的な見方なんだよね。
さて、そういう『常識』に当て嵌めれば、ソードファイターのデライラは身体強化なんてマネは自前じゃできっこない。でも、クレイズベアに突っ込んでいったデライラの速さが尋常ではない事は誰の目にも明らかな訳で。これを見ているサマンサギルド長とイヴァン副ギルド長はどう思うんだろうね。
そんな事を考えている間に、デライラはクレイズベアを切り刻み始めた。
△▼△
馬車の御者席からこれから始まる戦闘を眺めているサマンサとイヴァンの二人は、予想外の展開に困惑していた。
クレイズベアと言えばブロンズランカーが一人でどうにか出来る相手ではない。しかし、目の前の現実は目を疑うものだった。
不祥事でブロンズからウッドに降格したデライラが、たった一人でクレイズベアを圧倒していたからだ。一撃の重さが足りない代わりに手数で補う。上等な武器を持たせたらもっと早くカタが付きそうだが、そこまで見越して確実にヒット&アウェイでダメージを蓄積させていた。
スッと滑らか且つ素早き動きでクレイズベアの懐に入り込み、剣を一閃二閃さえてすぐに距離を取る。クレイズベアの攻撃がくれば巧みなステップでそれを躱し、死角に回り込んで再び斬り付ける。
デライラが身に着けている防具など、クレイズベアの攻撃を喰らえば紙切れ同然でしかない。それを恐れる事なくギリギリで躱し続け、確実にダメージを蓄積させていく。
「なるほどなぁ。あれじゃあ行く行くは剣聖になるなんて噂が飛び交う訳だ」
「そうね。ブロンズに昇格したてのニュービーが、あんな動きをしてたんじゃ……」
デライラの戦闘を見ている二人は感嘆しながら呆れるという器用な真似をしていた。
「でも、ショーンのパーティを抜けてからの彼女は、並の冒険者以下に成り下がったって話じゃない?」
「となると、以前の活躍と今の様子を見るに、やっぱり秘密はあの坊主にありそうだな」
「ええ、ソードファイターが自前で身体強化出来るなんてありえないもの」
「やれやれ、あの坊主、一体何者なんだか……」
御者席から観戦している二人の興味は、実際に戦闘しているデライラではなく、ショーンに移っていった。
△▼△
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「あれも回収しますか? ダンジョンの魔物ではないですが」
そんなデライラの質問に、イヴァン副ギルド長が答える。
「ああ、そのままにしておくと別の魔物が来るしな。今夜は豪勢にクマ鍋といこうや」
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アーテルがウキウキしながらマジックバッグを持ってクレイズベアの方へ駆けて行った。クマ鍋が楽しみなのかな?
「前よりもキレてるんじゃないか?」
デライラは僕とパーティを組んでいた時よりも、明らかに動きが良かった。おそらくこれは、僕のバフ以外にもデライラ自身の中で何かが変わったせいだろう。
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デライラはそう寂し気に笑いながら、箱馬車に乗り込んでいった。
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