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四章
スパルタ
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戦闘が始まる前に、僕がノワール、アーテルと意思相通を交わしたのはまさにこの状況を作り出す事。槍などの長柄の武器を持ったヤツが多かったのはアーテルが対応した側だった。なのでそちらは問答無用で殲滅。ノワールの方は槍や剣に混じって棍棒を持ったヤツがいた。
刃物を持った敵をシェラさんに当たらせるのは、万が一という事もある。だけど打撃武器なら頭さえ潰されなければ何とかなるだろうという安直な考えで、棍棒持ちを一人生かしてシェラさんに向かわせた。
「ひっ! ひぃぃっ!」
盾を手にしながらシェラさんの顔が恐怖に歪む。
「シェラさん落ち着いて! しっかり相手を見て下さい!」
いくら両手に盾を持っていたって、目を閉じているようじゃ話にならない。
「ちょ!? ショーン君! 何をやっているんだ! シェラ、今行く――?」
ヨシュア君が焦ってこちらに戻って来ようとするが、それをノワールとアーテルが阻害する。そりゃそうだ。この戦いはシェラさんの為に仕組んだものだからね。
こうしている間にも、コボルトが棍棒でガンガンとシェラさんの盾を殴りつけているけど、シェラさんは目を瞑って盾に隠れているばかり。
う~ん、もうちょっと荒療治が必要かな。
「はあ、がっかりです、シェラ公女。こんな雑魚魔物一匹にもまともに向き合えないあなたが、数千にも及ぶ悪意を持った領民に対して何かモノを言えるのですか?」
敢えて『さん』ではなく『公女』と呼び距離を置いた風を装う。でも僕が言っている事は真実だと思うよ?
領民に対して呪いは間違いだと。むしろダンジョンの魔物を抑えていたのは自分達だと。素顔を晒して立ち向かう事が出来るんだろうか。
「くぅっ!!」
盾の陰で、シェラさんが歯を食いしばる様子が感じられた。どうやらしっかりと目も開いているようだ。僕の言葉をヨシュア君も聞いていたはずだけど、彼も僕と同様の考えなんだろう。何も言ってくる事はなかった。
もし彼女がここで立ち上がれないなら、城に戻って素顔を隠し、そのまま公女として静かに暮らす方が幸せだろう。
「どうしますか? もう諦めてお城に帰りますか?」
僕がそう声を掛けた途端、シェラさんの身体から魔力の高まりを感じた。僕にもとても馴染み深い、闇属性の魔力。
「いやああああああ!」
コボルトに対応したというよりは、無闇やたらと、と言った方が正しいかも知れない。両手に持った盾を振り回し、守勢から攻勢に転じる。
「私はっ! もう嫌なの! 人目に怯えて自分を隠すのは! 私もお母さんも何も悪い事はしていない! 領民から感謝される理由はあっても、貶められるような理由は何もないの!」
僕が彼女に感じるシンパシーはまさにそれだ。自分に対する周囲の人間達の仕打ち。その事に対して明らかにマイナスの感情を抱いている事。闇属性の適応者っていうのは、どこか心の中にそういう暗いものを抱えているのかも知れないね。
「私は負けないィィィッ!!」
シェラさんの中で高まっていた闇の魔力が堰を切ったように溢れ出し、地面をぞわぞわと動き出す。それは彼女の盾から逃げ回りながら反撃のスキを探っていたコボルトの足下を浸食していった。すると、急にコボルトの動きが全身に錘でもぶら下げたかのように鈍くなり、ついには指一本動かせなくなったようだ。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
そこへ無我夢中で振るった一撃、鋭く削られた巨人族の骨の刃がコボルトの上体を斜めに斬り落とした。そしてシェラさんはその場にへたり込んでしまう。
僕はヨシュア君に視線を送った。彼女をフォローするのは彼の役目。僕は憎まれ役でいい。ヨシュア君が急いでシェラさんに駆け寄る。僕はそこから少し離れ、周囲の警戒をする。
「大丈夫ですよご主人様。公女も分かってくれるでしょう」
「ん? 僕そんなに落ち込んでるように見えた?」
僕を気遣うノワールが寄り添ってくれる。そしてアーテルも僕の肩を組みながらそっと耳元で語り掛けてきた。
「いや、落ち込んではいないだろうが、好んで憎まれ役をやるのは誰でも面白くないものさ。そんな主人を慰めるのも我等眷属の役目だろう?」
んー、そうなのかな? まあ、損な役回りだとは思うけど、ヨシュア君にやらせるのは酷でしょ。
でも、こうやってどんな事になろうとも僕の側にいてくれる存在は有難い。この二人は僕の生涯一緒にいてくれると誓ってくれたんだ。大精霊と神獣という存在が口にした誓いの言葉は人間のそれとは重みが違う。
そこへ、少ししょんぼりした様子のシェラさんが、ヨシュア君に伴われてやってきた。
「あの……先程はお見苦しい所を」
そう言ってペコリと頭を下げる。そして続けた。
「私は、頭の片隅では守ってもらえるものだと安心していたのだと思います。でも、いざとなったら自分の守るのは自分の身ひとつ。逃げも隠れも出来ない状況もある。そうなった時には立ち向かう勇気も必要だし、場合によっては自分の手を汚す覚悟も必要。そういう事を教えて下さったのですよね?」
うん。概ねその通りかな。ましてや彼女は冒険者の僕とは違って大貴族に連なる者だ。その言葉や行動に掛かる責任は遥かに大きいものになる。なんでも人任せで済まそうというのは虫がいいというものだよね。
でも、それだけじゃない。
「シェラさんがダンジョンを攻略したいと言うのであれば、自分の手で魔物の一匹くらいは倒してもらわないと。それが一番の理由でしょうかね」
そう言って僕は微笑む。ここには政治をしに来たんじゃない。魔物を殺してダンジョンを制覇し、闇属性の魔力が漂う原因を探りに来たんだ。
「うっ、はい! そうですね!」
慌ててまたペコリと頭を下げるシェラさんと、僕に向かってウインクするヨシュア君。きっと彼が僕の事もフォローしてくれたんだろう。
「収穫もありましたし、この先も頑張りましょうか」
「はいっ!」
無意識なのかどうなのか。彼女は敵に行動阻害の魔法を使った。ダンジョンを出た後、彼女がどんなジョブになっているのか楽しみだね。
刃物を持った敵をシェラさんに当たらせるのは、万が一という事もある。だけど打撃武器なら頭さえ潰されなければ何とかなるだろうという安直な考えで、棍棒持ちを一人生かしてシェラさんに向かわせた。
「ひっ! ひぃぃっ!」
盾を手にしながらシェラさんの顔が恐怖に歪む。
「シェラさん落ち着いて! しっかり相手を見て下さい!」
いくら両手に盾を持っていたって、目を閉じているようじゃ話にならない。
「ちょ!? ショーン君! 何をやっているんだ! シェラ、今行く――?」
ヨシュア君が焦ってこちらに戻って来ようとするが、それをノワールとアーテルが阻害する。そりゃそうだ。この戦いはシェラさんの為に仕組んだものだからね。
こうしている間にも、コボルトが棍棒でガンガンとシェラさんの盾を殴りつけているけど、シェラさんは目を瞑って盾に隠れているばかり。
う~ん、もうちょっと荒療治が必要かな。
「はあ、がっかりです、シェラ公女。こんな雑魚魔物一匹にもまともに向き合えないあなたが、数千にも及ぶ悪意を持った領民に対して何かモノを言えるのですか?」
敢えて『さん』ではなく『公女』と呼び距離を置いた風を装う。でも僕が言っている事は真実だと思うよ?
領民に対して呪いは間違いだと。むしろダンジョンの魔物を抑えていたのは自分達だと。素顔を晒して立ち向かう事が出来るんだろうか。
「くぅっ!!」
盾の陰で、シェラさんが歯を食いしばる様子が感じられた。どうやらしっかりと目も開いているようだ。僕の言葉をヨシュア君も聞いていたはずだけど、彼も僕と同様の考えなんだろう。何も言ってくる事はなかった。
もし彼女がここで立ち上がれないなら、城に戻って素顔を隠し、そのまま公女として静かに暮らす方が幸せだろう。
「どうしますか? もう諦めてお城に帰りますか?」
僕がそう声を掛けた途端、シェラさんの身体から魔力の高まりを感じた。僕にもとても馴染み深い、闇属性の魔力。
「いやああああああ!」
コボルトに対応したというよりは、無闇やたらと、と言った方が正しいかも知れない。両手に持った盾を振り回し、守勢から攻勢に転じる。
「私はっ! もう嫌なの! 人目に怯えて自分を隠すのは! 私もお母さんも何も悪い事はしていない! 領民から感謝される理由はあっても、貶められるような理由は何もないの!」
僕が彼女に感じるシンパシーはまさにそれだ。自分に対する周囲の人間達の仕打ち。その事に対して明らかにマイナスの感情を抱いている事。闇属性の適応者っていうのは、どこか心の中にそういう暗いものを抱えているのかも知れないね。
「私は負けないィィィッ!!」
シェラさんの中で高まっていた闇の魔力が堰を切ったように溢れ出し、地面をぞわぞわと動き出す。それは彼女の盾から逃げ回りながら反撃のスキを探っていたコボルトの足下を浸食していった。すると、急にコボルトの動きが全身に錘でもぶら下げたかのように鈍くなり、ついには指一本動かせなくなったようだ。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
そこへ無我夢中で振るった一撃、鋭く削られた巨人族の骨の刃がコボルトの上体を斜めに斬り落とした。そしてシェラさんはその場にへたり込んでしまう。
僕はヨシュア君に視線を送った。彼女をフォローするのは彼の役目。僕は憎まれ役でいい。ヨシュア君が急いでシェラさんに駆け寄る。僕はそこから少し離れ、周囲の警戒をする。
「大丈夫ですよご主人様。公女も分かってくれるでしょう」
「ん? 僕そんなに落ち込んでるように見えた?」
僕を気遣うノワールが寄り添ってくれる。そしてアーテルも僕の肩を組みながらそっと耳元で語り掛けてきた。
「いや、落ち込んではいないだろうが、好んで憎まれ役をやるのは誰でも面白くないものさ。そんな主人を慰めるのも我等眷属の役目だろう?」
んー、そうなのかな? まあ、損な役回りだとは思うけど、ヨシュア君にやらせるのは酷でしょ。
でも、こうやってどんな事になろうとも僕の側にいてくれる存在は有難い。この二人は僕の生涯一緒にいてくれると誓ってくれたんだ。大精霊と神獣という存在が口にした誓いの言葉は人間のそれとは重みが違う。
そこへ、少ししょんぼりした様子のシェラさんが、ヨシュア君に伴われてやってきた。
「あの……先程はお見苦しい所を」
そう言ってペコリと頭を下げる。そして続けた。
「私は、頭の片隅では守ってもらえるものだと安心していたのだと思います。でも、いざとなったら自分の守るのは自分の身ひとつ。逃げも隠れも出来ない状況もある。そうなった時には立ち向かう勇気も必要だし、場合によっては自分の手を汚す覚悟も必要。そういう事を教えて下さったのですよね?」
うん。概ねその通りかな。ましてや彼女は冒険者の僕とは違って大貴族に連なる者だ。その言葉や行動に掛かる責任は遥かに大きいものになる。なんでも人任せで済まそうというのは虫がいいというものだよね。
でも、それだけじゃない。
「シェラさんがダンジョンを攻略したいと言うのであれば、自分の手で魔物の一匹くらいは倒してもらわないと。それが一番の理由でしょうかね」
そう言って僕は微笑む。ここには政治をしに来たんじゃない。魔物を殺してダンジョンを制覇し、闇属性の魔力が漂う原因を探りに来たんだ。
「うっ、はい! そうですね!」
慌ててまたペコリと頭を下げるシェラさんと、僕に向かってウインクするヨシュア君。きっと彼が僕の事もフォローしてくれたんだろう。
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