神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

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AD1855

26話 イスタンブール近郊

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 三戸達の意識が現実へと引き戻される。徐々にクリアになっていく視界。どうやら小高い丘に立っているようで、眼下には市街地が見える。更に向こうには川だろうか。その川の対岸には、比較的大規模な都市が遠望できた。

「ここは?」

 三戸の問いかけに、アンジーが少しの間目を瞑り、考えている素振りを見せる。これはアンジーのデータベースにアクセスしている状態だ。ややおいて、彼女が目を開き三戸に向き直る。

「はい。ここは1855年、オスマン帝国。私達のいた時代ではトルコにあたります」

 アンジーの説明によれば、眼下に見えるのはスクタリという街で、川のように見えるのはボスポラス海峡。向かって右手が黒海、海峡の対岸はコンスタンティノープル、現在で言うイスタンブールだという。

「1855年、トルコか……」
「はい。クリミア戦争が行われていました」
「クリミア戦争?」

 このあたりの歴史や当時の情勢などはあまり詳しくない三戸だ。学校の授業でもさらりと触れる程度である。何となく、『クリミア戦争』という単語だけが記憶に残っている。そんな感じだ。
 アンジーによれば、オスマン、イギリス、フランスなどが手を組みロシアと戦った数年間の戦争で、人的被害は約七十五万人。戦場も広範囲に渡ったという。
 しかし、それでも三戸には救世者メサイアとなるような英雄や豪傑心当たりがない。もっともこの頃の戦争は銃火器もそれなりに発達しており。個人の武勇など殆ど重要視されなくなっているせいもあるが。

「儂らにとっては未来の世界じゃからの。考えてもしゃあないわい」
「然り。とりあえずは街にでも行って様子を見るのが良いと思うが」

 サラディンの言うように、三戸以外のメンバーからすれば未来の出来事。何が起こったかなど分かろうはずもない。それに、街に行って情報収集が必要である事もまた関羽の言う通り。

「そうさな。行けば分かる事もあるであろう」
「そうですね。行きましょう! ミト、アンジー!」

 リチャード一世が周囲の事など我関せずといった具合で街に向かって歩き出せば、ジャンヌもまた急かすように声を掛けながら歩き出す。

「やれやれ、俺達も行くか」
「はいっ!」

 アンジーに高機動車を出してもらえばわざわざ徒歩で移動しなくてもよいのだが、車のない時代の人達はそういう思考にはならないらしい。仕方なしに三戸も後を追うように歩きだす。

「うふふっ、マスター? 私はこうしてマスターと歩くのも好きです!」

 狙った訳ではないのだろうが、とびっきりの笑顔で三戸を見上げるアンジーに、さしもの三戸も鼓動が早くなる。同時に、時折後ろを振り返りながら生暖かい視線を浴びせてくるジャンヌ達のおかげでどうにも居心地が悪い。
 三戸は仕方なしに視線を遠くへと彷徨わせる。なんとなく見たのは海峡の対岸の市街地。

「アンジー、双眼鏡を」
「はいっ!」

 どこからか現れた双眼鏡をアンジーから手渡され、三戸をそれを覗き込む。

「なっ!?」

 思わず声を上げた三戸に、先行していたジャンヌ達が立ち止まり、振り返る。

「どうかしましたか? ミト」
「対岸が……イスタンブールが……壊滅している」

 三戸は問いかけてくるジャンヌに、絞り出すように答える。
 双眼鏡から見える景色は、遠目に見える美しい景観とは異なり、多くの建物が瓦礫となっている。人の往来も確認できない。

「ふむ。黒煙等が立ち昇っていないところを見ると、昨日今日の出来事ではないようだな」

 関羽が冷静に状況分析をする。確かに、市街地が瓦礫に変わる程の打撃があったとすれば、火災などで黒煙が立ち昇るだろう。しかし、それが確認できないという事は、少なくとも数日は経過しているという事だ。

「街へ急ごう。アンジー、チヌークを」
「はい!」

 もはや四の五の言っている場合ではない。三戸はアンジーに指示を出し、巨大な物体を出現させる。



 CH-47チヌーク。大型の輸送ヘリだ。これまでにアパッチやファントムなどを見ているため、他のメンバーもそれほどの驚きはない。三戸に促されるままに機体へと乗り込んでいく。

「アンジー、念のため、医療道具とレーションを積めるだけ出しといてくれ」
「はいっ!」

 こうして飛び上がったチヌークは、スクタリの街へと急いだ。
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