神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

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65話 エクスカリバーの中の人

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 八千もの魔物の大群を全滅。すでに夜明け近く、東の空が白んできている。明るくなった事で暗視スコープを外した兵達は、眼下に広がる凄惨な光景に思わず息を飲んだ。

「改めて見ると……」
「そうだな。よく生き残れたものだ」

 夥しい数の魔物の遺骸。しかもほとんど原型を留めていない程に破壊しつくされた状態を見て、救世者メサイアという存在がいかに規格外な存在かを思い知らされる。
 それでも東西から来た魔物の挟撃は跳ね返した訳で、ヘキサゴン全体を覆っていた緊張感は徐々に薄れていった。気の早い者は朝食の準備を始めているし、もっと気の早い者は戦勝の宴をしようなどと騒ぎ立てている者もいる。
 三戸はそれを苦笑しながら見ていたが、やがて表情を引き締めて南、すなわち海岸方面に目をやりながら呟いた。

「まだだ。まだ終わっちゃあいない」
「そうですね……」
「?」

 アンジーは三戸の言う意味が分かっているようだが、ナイチンゲールは首を傾げている。

「ほっほっほ。女史は今回が初めてじゃから分からんのも無理はないがのぉ。魔物の巣を潰さん事には終わりにはならんのじゃよ」
「うむ。甚だ遺憾だが、そこの狡い爺いの言う通りだ。先程の戦闘では瘴気の穴は確認されておらん」

 サラディンの説明を、防壁上に戻ってきたリチャードが言葉通り遺憾だという顔で同意した。まあ、最後の最後で美味しい所を全部持っていかれたのだから無理はない。
 そこへさらに、ジャンヌと関羽も帰還してきた。

「やはり巣穴は確認できなかったんですね?」
「むう……これはもうひと戦せねばならんか……」

 ここまで違う時代で魔物との戦闘を経験してきた面々は、いずれもこれで終わったとの認識ではなかった。

「詳しく、説明して下さいますか?」
「そうだな……どう説明したものか……」

 ナイチンゲールの疑問に、ゆっくりと頭の中で考えを纏めた三戸が説明を始めた。

「そうなのですか……今まではボスとも呼べる魔物が巣穴と共に現れ、ボスを倒すと巣穴も消滅したと……」

 しかし、カレーの街でも虎牢関でもなかった、『巣穴を移動させる』という事象がエルサレムから死海上空での戦闘で現れ、その上この時代では魔物が戦術を駆使して攻撃を仕掛けてきている。今までのパターンが当てはまらない可能性も高いだろう。

「それでも、予想が付かない訳じゃない。始めの東からの攻撃は陽動。西の大軍団が本命……と思わせて」
「実は巣穴が目撃された南の海岸沿いが本命という事ですねっ!」

 三戸の推論に、瞳を輝かせたアンジーが反応した。それはもう『マスターさすがです!』というオーラ全開だ。

「敵が裏をかく。それを読み切れば次の手も見えてくる。そういう事だな。なるほど、合点がいく」
 
 関羽が顎鬚を撫でつけながら、納得顔で頷いている。
 南で巣穴の目撃証言。それが敢えて目撃させたのであれば、初手の東からの侵攻は効果的とも言える。巣穴が東に移動したと錯覚を起こさせることも出来ただろう。しかしアンジーの広範囲レーダーが西の大群を捕捉したため、その小細工は効かなかった。さらに偶然にもその西にジャンヌ達が居た事も、魔物にとっては計算外だったはずだ。
 しかし、それでも西からの大群が本命と思わせる事には成功したかもしれない。三戸達のような『経験者』がいなければ。

「まあ、警戒は怠らないでおこう。それよりも。リチャード、あんたのエクスカリバー、説明と紹介はないのか?」

 三戸のその発言で、全員の視線がリチャードに向いた。

「う、うむ、そうだな。エクスカリバーよ、挨拶せい」

 すると、リチャードの剣から気が抜けていき、黒い靄のようになって徐々に巨大な黒馬の姿を形作る。

「近くで見ると、見事なもんだな」
「うむ。それがしの愛馬、赤兎せきとにも勝るとも劣らぬ」

 朝日を浴びて煌めく漆黒の毛並みと張りのある馬体。岩をも砕きそうな蹄と美しいたてがみ。その姿を見た三戸と関羽は思わず称賛の言葉を漏らした。
その見事な黒馬が、パッカパッカと蹄を鳴らしながら、三戸の方へと近付いていった。

 ――ぼふん

 三戸の前で立ち止まった黒馬が、突如として黒い煙に包まれた。そして煙が晴れると、片膝をついて首を垂れている女がいた。

「この姿ではお初にお目に掛かります、ミト様。エクスカリバーの中の者でございます。剣の中より、貴方様のご活躍は拝見しておりました。その獅子奮迅のご活躍に――」
「まてまて。そんなに畏まらなくていいよ。まずは顔を上げてくれ」

 慇懃な態度で挨拶を始めたエクスカリバーを三戸が制止した。それならばと立ち上がったエクスカリバーに、一同は目を奪われた。
 褐色の肌に紫色の瞳。長く艶やかな黒髪は尻まで隠れる程。女性としては長身で百八十センチ程はあるだろうか。三戸と並び立っても殆ど変わらない。均整の取れた身体はしなやかで無駄な肉がない。恐るべき瞬発力を秘めているのが一目で分かるほどだ。

「ありがとうございます。これからもあの脳筋バカをどうか導いていただきたく……」

 エクスカリバーはそう言って、にっこりと微笑んだ。同性のジャンヌやナイチンゲールですら見惚れるような、美しい微笑みだった。

「なんか今、『バカ』って聞こえた気がするけど、まあいいや。言っとくけど俺達は全員が助け合う仲間・・だ。上下関係はないし、導くとかそんな事もない」

 誰だって一長一短ある。それぞれの得意分野でみんなの役に立つよう頑張るだけ。三戸自身、他の救世者メサイア達に指示を仰ぐこともあるだろう。
 それを聞いたエクスカリバーは再びにっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます。我が主、リチャードを宜しくお願いいたします」

 そう言って一礼すると、エクスカリバーは他の面々にも挨拶に回って歩いた。救世者メサイアには礼儀正しく。相棒達にはフレンドリーに。そして一通り済ませたあと、リチャードの前に戻ってきた。

 ――ぼふん!

 再び黒馬の姿に戻ったのだった。

「なぜに!?」
『ふん。私が背を許すのはお前だけだ。感謝するのだな』

 そう言って黒馬はぷいっとソッポを向いた。

(照れ隠しだな)

 そこにいる全員がそう思ったという。

 
 
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