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AD1855
79話 ”水”と”重力”
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三戸がアンジーによってヘキサゴンに運び込まれ、ナイチンゲールの治療を受けていたその頃。
「……キリがないわね。ブリューナク、何か方法はない?」
「そうだなぁ、ヤツに直接槍をブッ刺して、体内に炎弾ブチ込めば内部から焼け死ぬかもだが……」
「……それが至難の業なのよね」
額に汗を浮かべたジャンヌが、その汗を拭いながらブリューナクと言葉を交わす。
外部から火属性の攻撃は、同じ火属性の魔人イフリートには効果が薄い。若干のダメージは与えているはずだが、硬い外皮と炎の鎧をまとったイフリートには決め手になっていない。
せめてもの救いは、イフリートの攻撃もブリューナクが相殺するため、これといったダメージを受けていない事か。
もう一人、斬の属性を持つ関羽も、相棒の青龍が木属性でイフリートとの相性は最悪だ。それでもどうにか立ち回っているのは関羽の技量と青龍の補助のお陰か。
結局どちらも効果的なダメージを与えられないまま消耗戦の様相を呈していた。しかしそこに状況を打破する存在が介入する。
「待たせたの。助力しに来たぞい」
そこに現れたのはサラディンと、六匹の仔犬を従えた見慣れぬ可愛らしい少女。どう見ても犬の散歩をしている孫娘と、それに付きそう祖父にしか見えないが、辺りに漂う霊力というか、あるいは魔力と言うべきか、目に見えない強烈なプレッシャーを纏っている。
「む? もしや覚醒されたか?」
「あら? それじゃあその子がジハードかしら? お孫さんみたいですね」
関羽とジャンヌが二人を見てそう言うと、ジハードがサラディンの陰にそっと隠れてしまう。かなり人見知りをする相棒らしい。
「むう、また増えたか……その纏った力、ただの年寄りと子供ではないな?」
イフリートがすかさず炎弾を飛ばしてくる。しかしそれは二人の前に出現した水の膜に遮られ、シュウウッという音と共に水蒸気となって消滅した。
「……させない」
水蒸気が消え去ったそこには、右手を前方に差し出しているジハードの姿があった。
「ぐぬう、『水』の使い手か! だがその程度で!」
忌々しそうな表情のイフリートが続けざまに炎弾を放った。
「……その程度?」
ジハードがイフリートが放った炎弾と同じ数の水弾を放って相殺する。
「今度はこちらの番」
ジハードがイフリートに向かって人差し指を向ける。すると、六匹の犬の口から螺旋状に回転しながらの水流が発射された。
「くっ!」
しかし今度はイフリートが地面から炎の壁を出現させた。六匹の犬が放った水流が遮られ、先程と同じように辺りが水蒸気に包まれる。
「まだなの」
ジハードが両手で水蒸気を操作するような動きを見せると、その水蒸気が集まって密度を増していきながら、更に凝固していく。その間にも六匹の犬達はイフリートの周囲を囲むように位置を変え、再び水流を放った。
イフリートはそれを同じように炎の壁を作りだして直撃を避けようとする。結果、さらに大量の水蒸気が発生する事になった。
「思惑通りじゃな」
「うん」
その様子を満足そうに眺めているサラディンに、ジハードが頷く。
「思惑通りとは?」
炎と水の攻防に視界を塞がれ、攻撃の機を逸していた関羽とジャンヌがサラディンの近くに来ていた。そこで二人のやり取りを聞いた関羽が問いかけた。
「例え水蒸気になっても水は水。火は消えても水は消えない」
ジハードが集めて凝固させていた水蒸気は、さらに容積を増していった。一方のイフリートは間断なく続く犬達の水による攻撃に対する防御に追われ、反撃に移る事が出来ないでいる。
「水を使う事でこんなにも簡単に封じ込める事ができるなんて……あなた凄いわね」
「えへへ……ジャンヌ様、ありがとう」
少しはにかみながら、褒めてくれたジャンヌを見上げるジハード。
そうしている間にも、ジハードが集めていた水蒸気はイフリートの巨体を包み込めるほどに肥大化していた。水蒸気を集めながら凝固させているそれは、ついに直径二十メートルを超える巨大な塊になった。
「さて、ここからは儂の出番じゃな」
サラディンがそう言いながら、シャムシールという曲刀に分類されるジハードを振りかざす。すると、イフリートの頭上に集まり固まっていた水蒸気がどんどん収縮していった。
「あれは?」
関羽が不思議そうな顔で尋ねると、サラディンが得意気に答えた。
「うむ、あれはな、あの蒸気の真ん中に重力を発生させておるのよ」
サラディンの言葉をそのまま解釈するならば、中央の重力によって集められた水蒸気はどんどん密度を増していき、見た目は小さくなっていくのとは裏腹に、より硬く、より重くなっていくはずだ。
そして直径二十メートル以上あった水蒸気の塊は、ついにわずが五センチほどの小さな球体になった。しかしそれは数トンもの重量を持つ凶悪な塊だ。
「そしてこうするんじゃよ」
サラディンは手にした曲刀ジハードを振り下ろす。同時にイフリートの頭上の塊が超スピードで落下した。いや、落下などという生易しいものではない。もはや発射と言った方がいいだろう。
恐らくサラディンがイフリートの足下に超重力を発生させたのであろう。イフリートも立ち上がる事が出来ずに蹲っている。そしてそこに落下する水の塊。
「グアオオオオオォォォォォ……」
その水の塊は、イフリートの炎の鎧に溶かされる事なくその肉体ごと貫いた。そしてなんと、その塊はイフリートの体内で留まったのである。
「仕上げじゃ」
サラディンが左手をぐっと握る。
「イフリートの身体そのものを……」
イフリートの身体が内側に向かって縮んでいく。その様を見たジャンヌが、サラディンが何をしたのか理解して呟く。言うなれば、イフリートの体内に極小のブラックホールを埋め込んだようなものだ。いくら外側の防御が固かろうと抗う術はない。
やがてイフリートは小さな塊となり、周囲の瘴気も消え去った。
「お見事!」
称賛する関羽の視線の先には、にこやかにジハードの頭を撫でるサラディンの姿があった。
「……キリがないわね。ブリューナク、何か方法はない?」
「そうだなぁ、ヤツに直接槍をブッ刺して、体内に炎弾ブチ込めば内部から焼け死ぬかもだが……」
「……それが至難の業なのよね」
額に汗を浮かべたジャンヌが、その汗を拭いながらブリューナクと言葉を交わす。
外部から火属性の攻撃は、同じ火属性の魔人イフリートには効果が薄い。若干のダメージは与えているはずだが、硬い外皮と炎の鎧をまとったイフリートには決め手になっていない。
せめてもの救いは、イフリートの攻撃もブリューナクが相殺するため、これといったダメージを受けていない事か。
もう一人、斬の属性を持つ関羽も、相棒の青龍が木属性でイフリートとの相性は最悪だ。それでもどうにか立ち回っているのは関羽の技量と青龍の補助のお陰か。
結局どちらも効果的なダメージを与えられないまま消耗戦の様相を呈していた。しかしそこに状況を打破する存在が介入する。
「待たせたの。助力しに来たぞい」
そこに現れたのはサラディンと、六匹の仔犬を従えた見慣れぬ可愛らしい少女。どう見ても犬の散歩をしている孫娘と、それに付きそう祖父にしか見えないが、辺りに漂う霊力というか、あるいは魔力と言うべきか、目に見えない強烈なプレッシャーを纏っている。
「む? もしや覚醒されたか?」
「あら? それじゃあその子がジハードかしら? お孫さんみたいですね」
関羽とジャンヌが二人を見てそう言うと、ジハードがサラディンの陰にそっと隠れてしまう。かなり人見知りをする相棒らしい。
「むう、また増えたか……その纏った力、ただの年寄りと子供ではないな?」
イフリートがすかさず炎弾を飛ばしてくる。しかしそれは二人の前に出現した水の膜に遮られ、シュウウッという音と共に水蒸気となって消滅した。
「……させない」
水蒸気が消え去ったそこには、右手を前方に差し出しているジハードの姿があった。
「ぐぬう、『水』の使い手か! だがその程度で!」
忌々しそうな表情のイフリートが続けざまに炎弾を放った。
「……その程度?」
ジハードがイフリートが放った炎弾と同じ数の水弾を放って相殺する。
「今度はこちらの番」
ジハードがイフリートに向かって人差し指を向ける。すると、六匹の犬の口から螺旋状に回転しながらの水流が発射された。
「くっ!」
しかし今度はイフリートが地面から炎の壁を出現させた。六匹の犬が放った水流が遮られ、先程と同じように辺りが水蒸気に包まれる。
「まだなの」
ジハードが両手で水蒸気を操作するような動きを見せると、その水蒸気が集まって密度を増していきながら、更に凝固していく。その間にも六匹の犬達はイフリートの周囲を囲むように位置を変え、再び水流を放った。
イフリートはそれを同じように炎の壁を作りだして直撃を避けようとする。結果、さらに大量の水蒸気が発生する事になった。
「思惑通りじゃな」
「うん」
その様子を満足そうに眺めているサラディンに、ジハードが頷く。
「思惑通りとは?」
炎と水の攻防に視界を塞がれ、攻撃の機を逸していた関羽とジャンヌがサラディンの近くに来ていた。そこで二人のやり取りを聞いた関羽が問いかけた。
「例え水蒸気になっても水は水。火は消えても水は消えない」
ジハードが集めて凝固させていた水蒸気は、さらに容積を増していった。一方のイフリートは間断なく続く犬達の水による攻撃に対する防御に追われ、反撃に移る事が出来ないでいる。
「水を使う事でこんなにも簡単に封じ込める事ができるなんて……あなた凄いわね」
「えへへ……ジャンヌ様、ありがとう」
少しはにかみながら、褒めてくれたジャンヌを見上げるジハード。
そうしている間にも、ジハードが集めていた水蒸気はイフリートの巨体を包み込めるほどに肥大化していた。水蒸気を集めながら凝固させているそれは、ついに直径二十メートルを超える巨大な塊になった。
「さて、ここからは儂の出番じゃな」
サラディンがそう言いながら、シャムシールという曲刀に分類されるジハードを振りかざす。すると、イフリートの頭上に集まり固まっていた水蒸気がどんどん収縮していった。
「あれは?」
関羽が不思議そうな顔で尋ねると、サラディンが得意気に答えた。
「うむ、あれはな、あの蒸気の真ん中に重力を発生させておるのよ」
サラディンの言葉をそのまま解釈するならば、中央の重力によって集められた水蒸気はどんどん密度を増していき、見た目は小さくなっていくのとは裏腹に、より硬く、より重くなっていくはずだ。
そして直径二十メートル以上あった水蒸気の塊は、ついにわずが五センチほどの小さな球体になった。しかしそれは数トンもの重量を持つ凶悪な塊だ。
「そしてこうするんじゃよ」
サラディンは手にした曲刀ジハードを振り下ろす。同時にイフリートの頭上の塊が超スピードで落下した。いや、落下などという生易しいものではない。もはや発射と言った方がいいだろう。
恐らくサラディンがイフリートの足下に超重力を発生させたのであろう。イフリートも立ち上がる事が出来ずに蹲っている。そしてそこに落下する水の塊。
「グアオオオオオォォォォォ……」
その水の塊は、イフリートの炎の鎧に溶かされる事なくその肉体ごと貫いた。そしてなんと、その塊はイフリートの体内で留まったのである。
「仕上げじゃ」
サラディンが左手をぐっと握る。
「イフリートの身体そのものを……」
イフリートの身体が内側に向かって縮んでいく。その様を見たジャンヌが、サラディンが何をしたのか理解して呟く。言うなれば、イフリートの体内に極小のブラックホールを埋め込んだようなものだ。いくら外側の防御が固かろうと抗う術はない。
やがてイフリートは小さな塊となり、周囲の瘴気も消え去った。
「お見事!」
称賛する関羽の視線の先には、にこやかにジハードの頭を撫でるサラディンの姿があった。
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