神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

SHO

文字の大きさ
80 / 151
AD1855

79話 ”水”と”重力”

しおりを挟む
 三戸がアンジーによってヘキサゴンに運び込まれ、ナイチンゲールの治療を受けていたその頃。

「……キリがないわね。ブリューナク、何か方法はない?」
「そうだなぁ、ヤツに直接槍をブッ刺して、体内に炎弾ブチ込めば内部から焼け死ぬかもだが……」
「……それが至難の業なのよね」

 額に汗を浮かべたジャンヌが、その汗を拭いながらブリューナクと言葉を交わす。
 外部から火属性の攻撃は、同じ火属性の魔人イフリートには効果が薄い。若干のダメージは与えているはずだが、硬い外皮と炎の鎧をまとったイフリートには決め手になっていない。
 せめてもの救いは、イフリートの攻撃もブリューナクが相殺するため、これといったダメージを受けていない事か。
 もう一人、斬の属性を持つ関羽も、相棒の青龍が木属性でイフリートとの相性は最悪だ。それでもどうにか立ち回っているのは関羽の技量と青龍の補助のお陰か。
 結局どちらも効果的なダメージを与えられないまま消耗戦の様相を呈していた。しかしそこに状況を打破する存在が介入する。

「待たせたの。助力しに来たぞい」

 そこに現れたのはサラディンと、六匹の仔犬を従えた見慣れぬ可愛らしい少女。どう見ても犬の散歩をしている孫娘と、それに付きそう祖父にしか見えないが、辺りに漂う霊力というか、あるいは魔力と言うべきか、目に見えない強烈なプレッシャーを纏っている。

「む? もしや覚醒されたか?」
「あら? それじゃあその子がジハードかしら? お孫さんみたいですね」

 関羽とジャンヌが二人を見てそう言うと、ジハードがサラディンの陰にそっと隠れてしまう。かなり人見知りをする相棒らしい。

「むう、また増えたか……その纏った力、ただの年寄りと子供ではないな?」

 イフリートがすかさず炎弾を飛ばしてくる。しかしそれは二人の前に出現した水の膜に遮られ、シュウウッという音と共に水蒸気となって消滅した。

「……させない」

 水蒸気が消え去ったそこには、右手を前方に差し出しているジハードの姿があった。

「ぐぬう、『水』の使い手か! だがその程度で!」

 忌々しそうな表情のイフリートが続けざまに炎弾を放った。

「……その程度?」

 ジハードがイフリートが放った炎弾と同じ数の水弾を放って相殺する。

「今度はこちらの番」

 ジハードがイフリートに向かって人差し指を向ける。すると、六匹の犬の口から螺旋状に回転しながらの水流が発射された。

「くっ!」

 しかし今度はイフリートが地面から炎の壁を出現させた。六匹の犬が放った水流が遮られ、先程と同じように辺りが水蒸気に包まれる。

「まだなの」

 ジハードが両手で水蒸気を操作するような動きを見せると、その水蒸気が集まって密度を増していきながら、更に凝固していく。その間にも六匹の犬達はイフリートの周囲を囲むように位置を変え、再び水流を放った。
 イフリートはそれを同じように炎の壁を作りだして直撃を避けようとする。結果、さらに大量の水蒸気が発生する事になった。

「思惑通りじゃな」
「うん」

 その様子を満足そうに眺めているサラディンに、ジハードが頷く。

「思惑通りとは?」

 炎と水の攻防に視界を塞がれ、攻撃の機を逸していた関羽とジャンヌがサラディンの近くに来ていた。そこで二人のやり取りを聞いた関羽が問いかけた。

「例え水蒸気になっても水は水。火は消えても水は消えない」

 ジハードが集めて凝固させていた水蒸気は、さらに容積を増していった。一方のイフリートは間断なく続く犬達の水による攻撃に対する防御に追われ、反撃に移る事が出来ないでいる。

「水を使う事でこんなにも簡単に封じ込める事ができるなんて……あなた凄いわね」
「えへへ……ジャンヌ様、ありがとう」

 少しはにかみながら、褒めてくれたジャンヌを見上げるジハード。
 そうしている間にも、ジハードが集めていた水蒸気はイフリートの巨体を包み込めるほどに肥大化していた。水蒸気を集めながら凝固させているそれは、ついに直径二十メートルを超える巨大な塊になった。

「さて、ここからは儂の出番じゃな」

 サラディンがそう言いながら、シャムシールという曲刀に分類されるジハードを振りかざす。すると、イフリートの頭上に集まり固まっていた水蒸気がどんどん収縮していった。

「あれは?」

 関羽が不思議そうな顔で尋ねると、サラディンが得意気に答えた。

「うむ、あれはな、あの蒸気の真ん中に重力を発生させておるのよ」

 サラディンの言葉をそのまま解釈するならば、中央の重力によって集められた水蒸気はどんどん密度を増していき、見た目は小さくなっていくのとは裏腹に、より硬く、より重くなっていくはずだ。
 そして直径二十メートル以上あった水蒸気の塊は、ついにわずが五センチほどの小さな球体になった。しかしそれは数トンもの重量を持つ凶悪な塊だ。

「そしてこうするんじゃよ」

 サラディンは手にした曲刀ジハードを振り下ろす。同時にイフリートの頭上の塊が超スピードで落下した。いや、落下などという生易しいものではない。もはや発射と言った方がいいだろう。
 恐らくサラディンがイフリートの足下に超重力を発生させたのであろう。イフリートも立ち上がる事が出来ずに蹲っている。そしてそこに水の塊。

「グアオオオオオォォォォォ……」

 その水の塊は、イフリートの炎の鎧に溶かされる事なくその肉体ごと貫いた。そしてなんと、その塊はイフリートの体内で留まったのである。

「仕上げじゃ」

 サラディンが左手をぐっと握る。

「イフリートの身体そのものを……」

 イフリートの身体が内側に向かって縮んでいく。その様を見たジャンヌが、サラディンが何をしたのか理解して呟く。言うなれば、イフリートの体内に極小のブラックホールを埋め込んだようなものだ。いくら外側の防御が固かろうと抗う術はない。
 やがてイフリートは小さな塊となり、周囲の瘴気も消え去った。

「お見事!」

 称賛する関羽の視線の先には、にこやかにジハードの頭を撫でるサラディンの姿があった。
 

 
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...