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プロローグ
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完全に包囲された。通信は妨害されている。じりじりと狭められる包囲。彼、テルには見えていた。指揮官が自分の所属する部隊を見捨てる決定をしたことを。テルにはある【能力】がある。その【能力】を使えば自分だけは助かるだろう。しかし彼は同じ部隊の仲間と運命を共にしようと思った。
「来世があるならhappyになりたいもんだな!」
「まったくだぜ!」
彼は日本人で名前はテルという。フルネームは『上杉 輝』。高校入学前の春休み、両親との海外旅行ではぐれた所を誘拐された。後から思えば自分の力を疎んじた両親に『売られた』のだろう。
彼を誘拐したのは人身売買組織でそこから更に傭兵団に売られた。この時点では彼の【能力】は大した事は出来なかったが、傭兵として命懸けの訓練をしていく内にどんどんその【能力】を発現させていく。だが彼は【能力】を表沙汰にする事は決してしなかった。(また疎まれるかもしれない)その思いが彼を強く支配していた。
やがて彼は某国の外人部隊に配属される。似たような境遇の者もそれなりにいたし幾度も共に死線をくぐり抜ければ仲間意識も芽生える。仲間には『テリー』と呼ばれ親しくなった奴もいる。そんな仲間と今死地にいる。テリーには自分だけ生き残ろうという思考はなかった。
そして、切り捨てられた部隊は全滅した。
◇◇◇
彼は目を覚ました。生き延びたのかと思ったがどうもそうではないらしい。数日経って彼は自分が赤ん坊になっている事を理解した。輪廻転生という奴だろうか。だが彼は違和感に気付く。記憶がある。両親に捨てられて悲しかった事。傭兵の厳しい訓練の事。指揮官に切り捨てられた怒りと悲しみ。そして仲間と共に全滅した事。
そして前世で備わっていた【能力】が使える事。
◇◇◇
10年の月日が流れ、彼は様々な事を理解した。何の因果か名前は『テリー』と名付けられた。正直、悲しい思い出が多い前世の記憶など要らないと思っていたテリーだが、役に立つ事も多かった。世の中の立ち回りや勉学、身に付けた戦闘能力。そして何より、【能力】を秘匿しなければろくな事にならない事。前世では【能力】が原因で両親に捨てられたのだから。
テリーの家は裕福だった。どうも辺境の領主であるらしい。そしてこの世界は地球では無かった。【魔法】が当たり前に存在している世界だった。
貴族の子息であるテリーは学校に通わせて貰っていたが成績は優秀だった。何一つ不自由なく育てられ、両親の愛情もたっぷりと注がれテリーは幸せだった。しかし10才を迎えた日、テリーの運命は奈落の底へ突き落とされる。
この世界では10才の誕生日になると魔法の適正を調べる儀式があるらしい。学校の成績も良かったテリーには両親も期待していた。だが結果は。
「領主様。残念ですが御子息には魔法の適性が有りません。」
それを聞いた直後の父の視線は忘れられない。人を見る目では無かった。屋敷に戻ると母も今までの優しさがまるで嘘だったかの様に冷たい態度になった。そして弟も妹も。
その日の夕食で父は宣言した。
「テリー。貴様には家は継がせん。学校も今日限りだ。15までは家に置いてやるがその後は何処へなりと行くがいい。但し、家名を名乗る事は許さん。」
10才ではあるが精神的には前世のまま、青年のものであるテリーは『そんな事もあるんだろうな』と悟りきったような感想だったが、かと言って悲しくない訳ではない。数日は部屋に閉じこもるくらいには落ち込んでいた。
(こんな部屋に引き篭ってても仕方ないよな。)
ある日テリーは5年後家を出た時に生きていけるスキルを身につける為に鍛錬を始めた。
「父上。粗末な物で構いません。短剣と片手剣を一振り頂けないでしょうか。」
「ふん、魔法が使えんとなれば剣で身を立てるか。それもよかろう。武器庫より好きなものを持っていくがいい。」
「ありがとうございます。」
テリーは武器庫に行き、ナイフとショートソードを1本持ち出して外にでた。外に出る事に関しては家族は何も言わない。むしろ魔物に襲われて死んでくれれば厄介者が居なくなるとでも思っているのかもしれない。
前世での傭兵時代に培った技術は体が覚えていた。特にナイフは地球におけるテリーが生きていた時代の近接戦闘の主流である。逆に長剣や刀などを装備している軍隊など現代では見ない。しかし、対人戦闘ならナイフでも十分な殺傷力を持つが相手が大型の獣や魔物だとナイフでは心許ない。なのでショートソードである。ショートソードと言っても10才のテリーが持てば両手剣サイズである。このショートソードを使いこなす事を目標にテリーは鍛錬を始めた。表向きは。
人目のつかない所で彼は秘匿していた【能力】を研鑽していた。生き延びる為に。
「来世があるならhappyになりたいもんだな!」
「まったくだぜ!」
彼は日本人で名前はテルという。フルネームは『上杉 輝』。高校入学前の春休み、両親との海外旅行ではぐれた所を誘拐された。後から思えば自分の力を疎んじた両親に『売られた』のだろう。
彼を誘拐したのは人身売買組織でそこから更に傭兵団に売られた。この時点では彼の【能力】は大した事は出来なかったが、傭兵として命懸けの訓練をしていく内にどんどんその【能力】を発現させていく。だが彼は【能力】を表沙汰にする事は決してしなかった。(また疎まれるかもしれない)その思いが彼を強く支配していた。
やがて彼は某国の外人部隊に配属される。似たような境遇の者もそれなりにいたし幾度も共に死線をくぐり抜ければ仲間意識も芽生える。仲間には『テリー』と呼ばれ親しくなった奴もいる。そんな仲間と今死地にいる。テリーには自分だけ生き残ろうという思考はなかった。
そして、切り捨てられた部隊は全滅した。
◇◇◇
彼は目を覚ました。生き延びたのかと思ったがどうもそうではないらしい。数日経って彼は自分が赤ん坊になっている事を理解した。輪廻転生という奴だろうか。だが彼は違和感に気付く。記憶がある。両親に捨てられて悲しかった事。傭兵の厳しい訓練の事。指揮官に切り捨てられた怒りと悲しみ。そして仲間と共に全滅した事。
そして前世で備わっていた【能力】が使える事。
◇◇◇
10年の月日が流れ、彼は様々な事を理解した。何の因果か名前は『テリー』と名付けられた。正直、悲しい思い出が多い前世の記憶など要らないと思っていたテリーだが、役に立つ事も多かった。世の中の立ち回りや勉学、身に付けた戦闘能力。そして何より、【能力】を秘匿しなければろくな事にならない事。前世では【能力】が原因で両親に捨てられたのだから。
テリーの家は裕福だった。どうも辺境の領主であるらしい。そしてこの世界は地球では無かった。【魔法】が当たり前に存在している世界だった。
貴族の子息であるテリーは学校に通わせて貰っていたが成績は優秀だった。何一つ不自由なく育てられ、両親の愛情もたっぷりと注がれテリーは幸せだった。しかし10才を迎えた日、テリーの運命は奈落の底へ突き落とされる。
この世界では10才の誕生日になると魔法の適正を調べる儀式があるらしい。学校の成績も良かったテリーには両親も期待していた。だが結果は。
「領主様。残念ですが御子息には魔法の適性が有りません。」
それを聞いた直後の父の視線は忘れられない。人を見る目では無かった。屋敷に戻ると母も今までの優しさがまるで嘘だったかの様に冷たい態度になった。そして弟も妹も。
その日の夕食で父は宣言した。
「テリー。貴様には家は継がせん。学校も今日限りだ。15までは家に置いてやるがその後は何処へなりと行くがいい。但し、家名を名乗る事は許さん。」
10才ではあるが精神的には前世のまま、青年のものであるテリーは『そんな事もあるんだろうな』と悟りきったような感想だったが、かと言って悲しくない訳ではない。数日は部屋に閉じこもるくらいには落ち込んでいた。
(こんな部屋に引き篭ってても仕方ないよな。)
ある日テリーは5年後家を出た時に生きていけるスキルを身につける為に鍛錬を始めた。
「父上。粗末な物で構いません。短剣と片手剣を一振り頂けないでしょうか。」
「ふん、魔法が使えんとなれば剣で身を立てるか。それもよかろう。武器庫より好きなものを持っていくがいい。」
「ありがとうございます。」
テリーは武器庫に行き、ナイフとショートソードを1本持ち出して外にでた。外に出る事に関しては家族は何も言わない。むしろ魔物に襲われて死んでくれれば厄介者が居なくなるとでも思っているのかもしれない。
前世での傭兵時代に培った技術は体が覚えていた。特にナイフは地球におけるテリーが生きていた時代の近接戦闘の主流である。逆に長剣や刀などを装備している軍隊など現代では見ない。しかし、対人戦闘ならナイフでも十分な殺傷力を持つが相手が大型の獣や魔物だとナイフでは心許ない。なのでショートソードである。ショートソードと言っても10才のテリーが持てば両手剣サイズである。このショートソードを使いこなす事を目標にテリーは鍛錬を始めた。表向きは。
人目のつかない所で彼は秘匿していた【能力】を研鑽していた。生き延びる為に。
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