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一章 魔法戦士養成学校編
対立
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廊下から爆発した方向を臨めば、庭園の芝生の一部が黒焦げになっている。誰かが魔法を行使したようだ。規模はそれほどでもないとは言え、注目させるのには十分な威力である。そして学生達は、何者が魔法を放ったのかと周囲に目を配る。
「いい加減にしなさい! カールもチューヤも顔を合わせれば喧嘩ばかりして! あなた達、この私を差し置いての首席と次席なんだから、もう少し自覚しなさいよね!」
ローブの集団の後方からよく通る澄んだ声が聞こえて来た。そして声の主に視線を移せば、胸を張りながら憤慨した表情の少女が立っている。栗色の髪は肩程の長さでゆるふわボブ。大きくてクリリとした瞳はキュートなのだろうが、現在は怒りによって吊り上がっている。
ローブ越しでも分かる豊かな二つの膨らみは胸を張っている事で強調され、ショートパンツから伸びる健康的な脚は、ニーハイブーツによって絶対領域を形成していた。
普段ならばその姿を見ただけで鼻の下を伸ばす男子生徒もいる程の美少女だが、今の彼女は般若か夜叉か。触れてはいけないナイフのエッジのような殺気を振りまいていた。
「ちっ……命拾いしたな、カール? スージィに感謝しやがれ」
「ふん……それはこっちの台詞だ」
緋色の髪のチューヤと、銀髪のカール。睨み合った二人は互いに剣の柄から手を離し、視線を合わす事なく歩を進めた。
両陣営がバチバチと火花を散らせながらすれ違う中、先頭を歩いていたチューヤはスージィと呼ばれた少女に呼び止められた。
「チューヤ……」
「いつもいつも嫌味を言ってくるのはお前らのクラスだ。俺は売られた喧嘩を買ってるだけだぜ? 文句があるんならお前のクラスの奴らの躾をちゃんとするんだな」
チューヤは一旦立ち止まるも、スージィと視線を合わせる事もなくそう吐き捨てて立ち去っていく。
「……」
スージィはそれを悲し気な表情で見送る事しか出来なかった。
例年、この王立戦士養成学校の入試は、個々の魔力含有量とでもいうか、魔力のスタミナによって決められている。一定量以上の魔力を保持した者のみが入学を認められ、そこから魔法戦士としての修練に励む事になる。
つまり試験を通過した時点では、育った環境により多少の差はあれど、全員がほぼ横一線である。
育った環境というのは、家族に魔法戦士がいた場合の事だ。例えば親が子に魔法戦士としての基本をレクチャーしていた場合などは他の学生よりも知識、実技ともに一歩抜きんでているという事は少なからずある。しかしながら、入学後の修練如何では眠っていた才能が開花する素人もいる訳で、少しばかりの事前知識が大きなアドバンテージになる事はそれほど多くない。
そして、その入学試験の結果。創立以来最高と噂される魔力値で合格したのがチューヤである。次いで、カール。そしてスージィ。この三人は例年の首席入学者を大きく上回る数値で試験官を驚かせたものだ。
しかし、チューヤは有り余る魔力を持ちながらも、魔法を放つどころか生成する事が出来なかった。結果、チューヤと同じような【宝の持ち腐れ】が集められた『戦士養成クラス』、蔑称【脳筋クラス】、【落ちこぼれクラス】に編入される事になった。
魔法を使える者と使えない者。そこに明確な差別が発生するのは自明の理。しかし、エリートクラスの連中が脳筋クラスを蔑むのは、その授業内容の違いにもあった。
魔法を放つという事は、自然界の摂理を理解していなければならない。魔法を発動させる為の条件やそれに付随する学問をみっちりと仕込まれる。つまり、頭が悪いと魔法戦士にはなれないという事だ。
学問についていけずに脱落し、脳筋クラスに編入される者も多い事から、エリートクラスの連中は殊更プライドが高くなる。また、脳筋クラスへ編入された者は脱落したという劣等感に支配されてしまう。そうしていつの日からか、学校内でエリートと落ちこぼれの対立が始まっていった。
対する脳筋クラスはというと、殆どが実技や実戦訓練になる。頭で考えるよりも身体を動かせ、だ。
訓練は厳しいが、余計な事を考える暇もないほど扱かれるので、差別される側にとっては返っていい環境だともいえる。日頃のストレスを身体を使って解消しているのだから。
そんな脳筋クラスは、今日も今日とて野外での実戦訓練だ。
「おーし、よく聞けよ落ちこぼれ共。今日はこのあたり一帯の変異種の討伐だ。せいぜいくたばらねえ程度には必死にやんな。何か質問はあるかー?」
この脳筋クラスのを担当する教官、シンディ。生徒が着ているものとは違い、教官用の白いローブを袖を通さず肩に羽織り、面倒くさそうにあばずれた口調でそう語る。
緩くウェーブの掛かったブロンドの髪を背中に流し、タレ気味の目にはあまりやる気が感じられない。二十代後半と思われるが、見た目はもう少し若く、美人といっていい風貌だ。
「はーい! シンディ教官、質問があります!」
「あん? なんだ? 今夜の予定とかいう質問ならブッ殺すぞ?」
「……なんでもありませーん」
一人のふざけた生徒が、危うくシンディの地雷を踏み抜きそうになり、退散する。
シンディは口調こそ女っぽくはないが、見た目は色気もあり、かつ何だかんだと生徒の面倒見は良いので、年頃の男子生徒には人気がある。また女子生徒にはよく気遣う面もあり、姉のように慕われてもいる。
そんな中、緋色の髪の少年がそっと手を上げた。
「なんだチューヤ。お前も質問か?」
「はい。この辺りの変異種って、どんな奴らですか?」
「ああ……ウサギとかネズミとか、あとは虫か? ま、雑魚だよ雑魚」
変異種とは、ワールドブレイク後に確認され始めた、通常の動植物が大型化、狂暴化したものである。ワールドブレイクの際に暴走した魔王と勇者の魔力が、遺伝子に影響を及ぼしたとの学説が一般的だ。
「では教官! 今日一番スコアを出したヤツは、今夜の食事を教官に奢ってもらうというのを提案します!」
「ほう? 学年首席のお前が提案か? ま、いいだろ。スコアのカウントはアタシがしよう。飯くらいなら奢ってやるよ」
その言葉を聞いた生徒達が一斉に盛り上がる。晩飯が目当ての者。シンディと共に時間を過ごせるのが楽しみな者。動機は様々だが、チューヤの提案は全員の戦意を爆上げした。
「いい加減にしなさい! カールもチューヤも顔を合わせれば喧嘩ばかりして! あなた達、この私を差し置いての首席と次席なんだから、もう少し自覚しなさいよね!」
ローブの集団の後方からよく通る澄んだ声が聞こえて来た。そして声の主に視線を移せば、胸を張りながら憤慨した表情の少女が立っている。栗色の髪は肩程の長さでゆるふわボブ。大きくてクリリとした瞳はキュートなのだろうが、現在は怒りによって吊り上がっている。
ローブ越しでも分かる豊かな二つの膨らみは胸を張っている事で強調され、ショートパンツから伸びる健康的な脚は、ニーハイブーツによって絶対領域を形成していた。
普段ならばその姿を見ただけで鼻の下を伸ばす男子生徒もいる程の美少女だが、今の彼女は般若か夜叉か。触れてはいけないナイフのエッジのような殺気を振りまいていた。
「ちっ……命拾いしたな、カール? スージィに感謝しやがれ」
「ふん……それはこっちの台詞だ」
緋色の髪のチューヤと、銀髪のカール。睨み合った二人は互いに剣の柄から手を離し、視線を合わす事なく歩を進めた。
両陣営がバチバチと火花を散らせながらすれ違う中、先頭を歩いていたチューヤはスージィと呼ばれた少女に呼び止められた。
「チューヤ……」
「いつもいつも嫌味を言ってくるのはお前らのクラスだ。俺は売られた喧嘩を買ってるだけだぜ? 文句があるんならお前のクラスの奴らの躾をちゃんとするんだな」
チューヤは一旦立ち止まるも、スージィと視線を合わせる事もなくそう吐き捨てて立ち去っていく。
「……」
スージィはそれを悲し気な表情で見送る事しか出来なかった。
例年、この王立戦士養成学校の入試は、個々の魔力含有量とでもいうか、魔力のスタミナによって決められている。一定量以上の魔力を保持した者のみが入学を認められ、そこから魔法戦士としての修練に励む事になる。
つまり試験を通過した時点では、育った環境により多少の差はあれど、全員がほぼ横一線である。
育った環境というのは、家族に魔法戦士がいた場合の事だ。例えば親が子に魔法戦士としての基本をレクチャーしていた場合などは他の学生よりも知識、実技ともに一歩抜きんでているという事は少なからずある。しかしながら、入学後の修練如何では眠っていた才能が開花する素人もいる訳で、少しばかりの事前知識が大きなアドバンテージになる事はそれほど多くない。
そして、その入学試験の結果。創立以来最高と噂される魔力値で合格したのがチューヤである。次いで、カール。そしてスージィ。この三人は例年の首席入学者を大きく上回る数値で試験官を驚かせたものだ。
しかし、チューヤは有り余る魔力を持ちながらも、魔法を放つどころか生成する事が出来なかった。結果、チューヤと同じような【宝の持ち腐れ】が集められた『戦士養成クラス』、蔑称【脳筋クラス】、【落ちこぼれクラス】に編入される事になった。
魔法を使える者と使えない者。そこに明確な差別が発生するのは自明の理。しかし、エリートクラスの連中が脳筋クラスを蔑むのは、その授業内容の違いにもあった。
魔法を放つという事は、自然界の摂理を理解していなければならない。魔法を発動させる為の条件やそれに付随する学問をみっちりと仕込まれる。つまり、頭が悪いと魔法戦士にはなれないという事だ。
学問についていけずに脱落し、脳筋クラスに編入される者も多い事から、エリートクラスの連中は殊更プライドが高くなる。また、脳筋クラスへ編入された者は脱落したという劣等感に支配されてしまう。そうしていつの日からか、学校内でエリートと落ちこぼれの対立が始まっていった。
対する脳筋クラスはというと、殆どが実技や実戦訓練になる。頭で考えるよりも身体を動かせ、だ。
訓練は厳しいが、余計な事を考える暇もないほど扱かれるので、差別される側にとっては返っていい環境だともいえる。日頃のストレスを身体を使って解消しているのだから。
そんな脳筋クラスは、今日も今日とて野外での実戦訓練だ。
「おーし、よく聞けよ落ちこぼれ共。今日はこのあたり一帯の変異種の討伐だ。せいぜいくたばらねえ程度には必死にやんな。何か質問はあるかー?」
この脳筋クラスのを担当する教官、シンディ。生徒が着ているものとは違い、教官用の白いローブを袖を通さず肩に羽織り、面倒くさそうにあばずれた口調でそう語る。
緩くウェーブの掛かったブロンドの髪を背中に流し、タレ気味の目にはあまりやる気が感じられない。二十代後半と思われるが、見た目はもう少し若く、美人といっていい風貌だ。
「はーい! シンディ教官、質問があります!」
「あん? なんだ? 今夜の予定とかいう質問ならブッ殺すぞ?」
「……なんでもありませーん」
一人のふざけた生徒が、危うくシンディの地雷を踏み抜きそうになり、退散する。
シンディは口調こそ女っぽくはないが、見た目は色気もあり、かつ何だかんだと生徒の面倒見は良いので、年頃の男子生徒には人気がある。また女子生徒にはよく気遣う面もあり、姉のように慕われてもいる。
そんな中、緋色の髪の少年がそっと手を上げた。
「なんだチューヤ。お前も質問か?」
「はい。この辺りの変異種って、どんな奴らですか?」
「ああ……ウサギとかネズミとか、あとは虫か? ま、雑魚だよ雑魚」
変異種とは、ワールドブレイク後に確認され始めた、通常の動植物が大型化、狂暴化したものである。ワールドブレイクの際に暴走した魔王と勇者の魔力が、遺伝子に影響を及ぼしたとの学説が一般的だ。
「では教官! 今日一番スコアを出したヤツは、今夜の食事を教官に奢ってもらうというのを提案します!」
「ほう? 学年首席のお前が提案か? ま、いいだろ。スコアのカウントはアタシがしよう。飯くらいなら奢ってやるよ」
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