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一章 魔法戦士養成学校編
纏魔とは
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「カールはともかく、魔法が使えねえお前らでもイメージが大事だって事は学んでるだろ?」
そんなシンディの言葉にチューヤとマリアンヌが黙って頷く。今でこそ無意識に近い形で使えているが、身体強化の技術も体内に魔力を循環させるイメージで発動させている。
「つまり、より高度な事をやろうとすれば、より強いイメージ力と、理屈を理解する必要があるって事だな」
これにも三人は黙って頷く。
「まずはカール。お前は二種類の魔法を同時に行使できるか?」
「……いえ」
カールの返答にニヤリと笑みを浮かべたシンディは、両手にそれぞれ魔力を集め始めた。
「よく見とけよ?」
そして、彼女の両手にそれぞれ集められた魔力が渦を巻くように収束していき、魔法陣を浮かび上がらせた。
「な!?」
その魔法陣を見たカールが目を見開いて驚いていた。
浮かび上がった魔法陣の色はそれぞれ赤と青。つまり、系統の異なる二つの魔法を同時に構築したという事だ。
「一つの系統の、一種類の魔法を使えたからって得意になってるエリートクラスの連中なんざ、アタシから見りゃ身体強化しか使えないウチのクラスの連中と大して変わりゃあしねえ。むしろ、アタシのクラスの連中の方が生き残る可能性が高いってモンだよ。カール。お前の選択は正解だと思うねぇ」
シンディはそう言い終えると、両手の魔力を霧散させ、魔法陣を消し去った。
「そしてここからが本番だ。カール、お前が目指す魔法剣士ってのは、身体強化を施しながら同時に魔法を行使しなくちゃならねえ。難易度はさっきアタシが見せた事とほぼ同じと思っていい」
ゴクリ。カールが生唾を飲み込む。
今までは如何に強力な魔法を放つか。如何に速射性を高めるか。そこにばかり腐心していた。それ自体は間違いではないし、むしろ魔法使いとしては正しいアプローチだったと言える。
「魔法の同時行使……」
カールは自分の両手を見つめる。今まで考えた事もない可能性に対する期待と不安。
「あー、カール。さっきアタシが見せたのは、お前に違う次元を見せただけだ。やれば分かると思うが、今のお前にゃ到底無理だからよ。最初は同じ系統の違う魔法を同時に行使できるようにイメージしてみろ」
「はい!」
そんなカールの内心を見透かしたように掛けられたシンディの言葉は、彼の心を軽くした。出来そうなところから始めて、徐々に近付いていけばいい。そう考える余裕が出来た。
そして、両手に魔力を集めては悪戦苦闘するカールの姿がそこにあった。
「マリ!」
「はい!」
「身体強化、やってみな?」
「……これは!?」
脳筋クラスだ落ちこぼれだ、などと言われてはいるが、マリアンヌとて難関を突破して入学を果たした者だ。それなりの魔力量を持っている。
その彼女が体内に魔力を循環させてみると、今までとはまるで違う次元で魔力を循環させる事ができた。
裏庭で全力ダッシュからの急停止、サイドステップからの方向転換、ジャンプ。まるで久々の晴れ間に子供が外に出てはしゃぎ回るように、マリアンヌはキラキラした笑顔で動き回る。
「教官!」
「どうだ? 鍛えた身体に流せる魔力量ってのはケタが違うだろう?」
「はいっ!」
基礎訓練によって上がった身体的耐久度は、身体強化の限界値を上げる。今までより大幅にそちらへの魔力を割けるようになったマリアンヌは、より効果的に敵と立ち回る事が出来るようになるだろう。
「そんな訳で、今後お前は視力と聴力を強化した状態でさらに身体強化、体術の訓練をしてもらう」
「はい!」
輝く瞳で返事をしたマリアンヌは、余程身体強化の結果が嬉しかったのか、その場でスクワットを始めた。
「さて、チューヤ」
「ウス」
「お前は纏魔ってのは何だと思う?」
いきなり仕掛けられた問答に、チューヤは首を傾げながらも答えを探した。
「……武器の、強化?」
「バァカ。おめえの剣はボロボロになっちまったじゃねえか」
そうだ。チューヤは剣でバーサク・ベアを倒そうとした。しかし手持ちの剣では強度が足りず、止むを得ず自分の魔力で剣を強化した。
結果、愛剣は崩れ落ちたが、バーサク・ベアを倒す事も出来た。
「いいか? 纏魔ってのはな……」
シンディの全身が柔らかな黄色い光に包まれる。普段は魔力を視る事が叶わないのに、今ははっきりと視認できる程に濃厚な魔力だ。
――ボッ!!
「ッ!?」
チューヤの目には、シンディの姿が一瞬揺らいで見えた。そして次の瞬間には目の前数センチ位置にシンディの顔があった。さらに、顔の横には頬をギリギリで掠めていったシンディの右腕。
シンディの姿が揺らいだと同時に聞こえた空気を破壊するような音。それは彼女が正拳を突き出した音だった。
(全然反応出来なかった……そしてあの音。ありゃあ食らったら死ぬ奴だぜ)
チューヤのこめかみから汗が滴り落ちる。
「分かったか? 纏魔の本来の使い道は……ブン殴って、蹴り飛ばして、相手をぶっ潰すんだよ!」
(もっとも、それが纏魔の初歩の初歩なんだけどねぇ)
鼻先が触れ合う程の距離で、シンディが妖艶な笑みを浮かべた。
そんなシンディの言葉にチューヤとマリアンヌが黙って頷く。今でこそ無意識に近い形で使えているが、身体強化の技術も体内に魔力を循環させるイメージで発動させている。
「つまり、より高度な事をやろうとすれば、より強いイメージ力と、理屈を理解する必要があるって事だな」
これにも三人は黙って頷く。
「まずはカール。お前は二種類の魔法を同時に行使できるか?」
「……いえ」
カールの返答にニヤリと笑みを浮かべたシンディは、両手にそれぞれ魔力を集め始めた。
「よく見とけよ?」
そして、彼女の両手にそれぞれ集められた魔力が渦を巻くように収束していき、魔法陣を浮かび上がらせた。
「な!?」
その魔法陣を見たカールが目を見開いて驚いていた。
浮かび上がった魔法陣の色はそれぞれ赤と青。つまり、系統の異なる二つの魔法を同時に構築したという事だ。
「一つの系統の、一種類の魔法を使えたからって得意になってるエリートクラスの連中なんざ、アタシから見りゃ身体強化しか使えないウチのクラスの連中と大して変わりゃあしねえ。むしろ、アタシのクラスの連中の方が生き残る可能性が高いってモンだよ。カール。お前の選択は正解だと思うねぇ」
シンディはそう言い終えると、両手の魔力を霧散させ、魔法陣を消し去った。
「そしてここからが本番だ。カール、お前が目指す魔法剣士ってのは、身体強化を施しながら同時に魔法を行使しなくちゃならねえ。難易度はさっきアタシが見せた事とほぼ同じと思っていい」
ゴクリ。カールが生唾を飲み込む。
今までは如何に強力な魔法を放つか。如何に速射性を高めるか。そこにばかり腐心していた。それ自体は間違いではないし、むしろ魔法使いとしては正しいアプローチだったと言える。
「魔法の同時行使……」
カールは自分の両手を見つめる。今まで考えた事もない可能性に対する期待と不安。
「あー、カール。さっきアタシが見せたのは、お前に違う次元を見せただけだ。やれば分かると思うが、今のお前にゃ到底無理だからよ。最初は同じ系統の違う魔法を同時に行使できるようにイメージしてみろ」
「はい!」
そんなカールの内心を見透かしたように掛けられたシンディの言葉は、彼の心を軽くした。出来そうなところから始めて、徐々に近付いていけばいい。そう考える余裕が出来た。
そして、両手に魔力を集めては悪戦苦闘するカールの姿がそこにあった。
「マリ!」
「はい!」
「身体強化、やってみな?」
「……これは!?」
脳筋クラスだ落ちこぼれだ、などと言われてはいるが、マリアンヌとて難関を突破して入学を果たした者だ。それなりの魔力量を持っている。
その彼女が体内に魔力を循環させてみると、今までとはまるで違う次元で魔力を循環させる事ができた。
裏庭で全力ダッシュからの急停止、サイドステップからの方向転換、ジャンプ。まるで久々の晴れ間に子供が外に出てはしゃぎ回るように、マリアンヌはキラキラした笑顔で動き回る。
「教官!」
「どうだ? 鍛えた身体に流せる魔力量ってのはケタが違うだろう?」
「はいっ!」
基礎訓練によって上がった身体的耐久度は、身体強化の限界値を上げる。今までより大幅にそちらへの魔力を割けるようになったマリアンヌは、より効果的に敵と立ち回る事が出来るようになるだろう。
「そんな訳で、今後お前は視力と聴力を強化した状態でさらに身体強化、体術の訓練をしてもらう」
「はい!」
輝く瞳で返事をしたマリアンヌは、余程身体強化の結果が嬉しかったのか、その場でスクワットを始めた。
「さて、チューヤ」
「ウス」
「お前は纏魔ってのは何だと思う?」
いきなり仕掛けられた問答に、チューヤは首を傾げながらも答えを探した。
「……武器の、強化?」
「バァカ。おめえの剣はボロボロになっちまったじゃねえか」
そうだ。チューヤは剣でバーサク・ベアを倒そうとした。しかし手持ちの剣では強度が足りず、止むを得ず自分の魔力で剣を強化した。
結果、愛剣は崩れ落ちたが、バーサク・ベアを倒す事も出来た。
「いいか? 纏魔ってのはな……」
シンディの全身が柔らかな黄色い光に包まれる。普段は魔力を視る事が叶わないのに、今ははっきりと視認できる程に濃厚な魔力だ。
――ボッ!!
「ッ!?」
チューヤの目には、シンディの姿が一瞬揺らいで見えた。そして次の瞬間には目の前数センチ位置にシンディの顔があった。さらに、顔の横には頬をギリギリで掠めていったシンディの右腕。
シンディの姿が揺らいだと同時に聞こえた空気を破壊するような音。それは彼女が正拳を突き出した音だった。
(全然反応出来なかった……そしてあの音。ありゃあ食らったら死ぬ奴だぜ)
チューヤのこめかみから汗が滴り落ちる。
「分かったか? 纏魔の本来の使い道は……ブン殴って、蹴り飛ばして、相手をぶっ潰すんだよ!」
(もっとも、それが纏魔の初歩の初歩なんだけどねぇ)
鼻先が触れ合う程の距離で、シンディが妖艶な笑みを浮かべた。
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