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一章 魔法戦士養成学校編

前夜

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 翌日からも、日中は学校で訓練、放課後はシンディ監視の元猛特訓と、過酷な日々を送った。そして、模擬戦前の最後の晩餐。

「どうだ、お前ら。やれそうか?」

 シンディが真顔でそう尋ねると、それぞれが異なる対応を見せる。
 カールは冷静な表情を崩さず、かすかに口端を吊り上げるのみ。
 チューヤは獰猛な笑みを浮かべながら、カットしたステーキを噛み千切った。

「もしかしたら、相手をぶっ殺しちまうかもしれねえな! 絶好調だぜ!」
「チューヤ、ボクは不安でいっぱいなんだからそんなに怖い事言わないでよ……」

 そしてマリアンヌだけは自信なさげに俯いたまま、過激な事を口走るチューヤに抗議した。

「心配すンな。お前もよくやった。かなりやれる筈だぜ?」

 特訓も後半になると、お互いに組手を行った訓練も取り入れていた為、ある程度力量も把握している。チューヤもマリアンヌを相手に楽勝という訳にはいかず、評価は高い。

「マリアンヌの回避能力は学校内でもトップクラスだ」

 カールも幾度となく魔法を躱され剣を躱され、カウンターを当てられ、苦い思いをしている。少なくとも、チューヤ以外ではもっとも手強い生徒だという認識を植え付けられていた。
 校内の実力者二人の評価が予想以上に高かった事に、マリアンヌが顔を上げ、きょとんとした表情で二人を見渡した。そして最後にシンディを見る。それに彼女が力強く頷いた。

「お前らがしっかり連携取れりゃあ、教官にだって引けは取らねえよ」

(もっとも、その連携ってヤツが一番問題なんだがな、こいつらの場合は)

 シンディは腹の中で苦笑していたが、今回の模擬戦は別に勝利が目的ではない。大型の変異種をこの三人で倒せる実力があると示せればいいのだ。

(負けて勝負の厳しさを知るのもいいじゃねえか)

 この時点では、彼女はそう楽観視していたのだった。
 そしてこの日の三人は十分な休息を取り、明日に備えて眠りについた。

▼△▼

 同日。エリートクラスの教室にて。
 
「今日の授業はここまでだ。明日は落ちこぼれ……オホン! 失礼。戦士養成クラスにて不正を働いた疑惑がある生徒の真の実力を測るため、模擬戦をとり行う。よって、明日の授業の時間は全て模擬戦の観戦となる。以上」

 教壇に立つ、サラサラの金髪を靡かせるイケメン教官。デヴィッドが気障な笑みを浮かべながら授業終了を伝達した。
 不正を働いた疑惑がある生徒。言うまでもなく、チューヤ、カール、マリアンヌの三人の事だが、デヴィッドにとっては疑惑の真偽などどうでもいい話だった。
 『力量を測る』という名目で生徒を痛めつけ、最終的にはシンディを屈服させるのが目的だ。自身の中で、明日の展開を想像しているのか、浮かべた気障な笑みは徐々に下卑たものに変わっていくが、デヴィッドは気付いていない。
 しかし、そこは爽やかなイケメン教師とイメージが刷り込まれているため、エリートクラスの女子生徒達には自信に満ち溢れた素敵な微笑みとしか映らないようだ。
 だがその中に一人。

「教官! 質問があります!」

 教室内に凛とした声を響かせる栗毛の美少女は、背筋を伸ばし、視線をデヴィッドに投げかけながら挙手をした。

「何かな? スージィ君」
「カール達の相手をするのはどなたなのですか?」
 
 模擬戦の話はすでに広く知れ回っており、その当時者がチューヤ、カール、マリアンヌだというのも周知の事実。

「僕一人の予定だが?」
「相手は三人です!」
「この僕が三人相手とは言え、たかが生徒に負けるとでも?」

 スージィの指摘に、デヴィッドは眉をしかめる。

「いえ! そうではありません。私も出させて下さい! ドロップアウトした者に、力の差を見せつけてやりたいのです! 幸い、私が出ても2対3。数の上ではまだ向こうが有利ですから不満は出ないのではないでしょうか?」

 難しい表情でスージィの意見を聞いていたデヴィッドだが、考えを改めたのか、爽やかな笑顔に戻って彼女に語る。

「なるほど。明日はスージィ君も参加しなさい。ただし!」
「……」
「手加減は許さない」
「……はい」

 静かに返事をしたスージィを見て、デヴィッドがほくそ笑む。

(エリートと落ちこぼれの実力差を見せつけるのも一興か)

 しかしその陰ではスージィの思惑も動いていた。

(私がこの手でカールとチューヤの実力を確かめる! もし彼等の方が強いなら……)

 スージィの瞳がある決意に燃える。
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