アストレイズ~傭兵二人、世界を震撼さす~

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一章 魔法戦士養成学校編

旅立ち 第一章 魔法戦士養成学校編 完

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 マリアンヌがたまにシンディとキッチンにを立っていた事もあってか、料理の味は中々のもので、食事中の雰囲気は良かった。
 
「美味かったぜ。ごっそーさん。これならいい嫁になれるな!」

 食事を終えシンディがそんな事を言うと、マリアンヌもスージィも頬を染めて俯き、モジモジと太ももを擦り合わせてしまう。
 マリアンヌなどは時折チューヤにチラチラと視線を送っているのだが、当のチューヤはそれに気付きもせずに、明後日の方向を見ながらコップの中身を飲み干していた。
 そんな様子を苦々しい表情で見ていたカールだが、彼自身もスージィから寄せられている視線に気付いていない。

(ま、頑張れよ、少年少女!)

 シンディもしばらくはその様子を生温かく見守っていたが、頃合いを見計らって空気を引き締めた。

「あー、そんでだな……」

 彼女が珍しく言い淀む。

「すまん! お前らの退学は止められなかった!」

 そう言ってテーブルに額を擦りつけた。

「ああン? んな事ぁハナから承知であの野郎をぶっ飛ばしたんだし、謝られる覚えはねえッスよ?」
「そうですよ! あんな卑怯者、ボクに力があったらこの手であーやってこーやって……」
「ふ、ふふ……そうか」

 如何にもチューヤらしく後先を考えているとは言い難い言葉と、その彼と一緒にいる時間が長いせいか、随分とチューヤに感化されたように見えるマリアンヌに思わず苦笑してしまう。

「教官。そこの脳筋達と同じく、私とて退学程度の事は覚悟した上の行動なので気になさる必要はありません。それより、もっと重要な事があるのでしょう?」

 そんなカールのチューヤを挑発する文言が入り混じった台詞に苦笑を浮かべながら、隣に座るスージィも力強く頷いた。しかし、何かを察しているようなカールの言葉の内容までは分からない為、シンディの発言を待つ。

「……お前ら、隣国へ逃げろ。ミナルディ王国にだ」

 いきなり国外へ行け。一同はそんな言葉に一瞬驚きの表情を浮かべるが、少し考えれば分かる事だった。
 デヴィッドの家は王国内でも上位の貴族。それなりに影響力も強い。そんな貴族に恨みを買えば、陰から日向から圧力を掛けられ、住み難くなる事この上ない。最悪暗殺まで有り得るだろう。
 貴族出身のカールとしてはその辺りの事情を熟知していたのだろう。

「なるほど、それでミナルディ王国か」

 事情を察したチューヤが腕組みをしながら難しい顔だ。
 スクーデリア王国はいくつかの国と国境を接しているが、富国強兵政策故に周辺国家とは折り合いが悪い。その中の数少ない友好国がミナルディ王国だ。
 ミナルディ王国は小国でありながらも精強な軍隊を持っており、長きにわたり独立を貫き通してきた歴史がある。そのため、周辺国を圧迫していたスクーデリア王国もミナルディと戦うのを良しとせず、不戦条約を結んだという背景があった。
 しかしながら、不戦条約のお陰で表面的には友好的だが、野心的なスクーデリア王国は常に隙を狙っているし、ミナルディ王国も警戒を怠ってはいない。きっかけさえあればいつ崩れ去ってしまうかも分からない不戦条約という訳だ。

「アタシは……アンタ達を守ってやるどころか、巻き込んじまって……教官失格さ」

 シンディの寂し気な笑顔は自嘲……いや、そんなものではなく、ありとあらゆる悲哀を詰め込みながらも無理に浮かべた笑顔とでも言うべきか。見ている方が辛くて胸が痛くなる、そんな笑顔だった。

「教官がそんな顔をすんじゃねぇ。俺の師匠はもっと強くてカッコよかったぜ?」
「そうです! ボク達に笑顔で悪魔のような特訓を課してくるあの師匠はどこにいったんですか!」
「あなたには生徒を導くという使命があるはずです。私達の事なら心配無用。そんなヤワな鍛え方をしてなかったはずでしょう?」

 スージィには、チューヤ、マリアンヌ、カールの三人の表情に心なしか余裕があるように見えた。学校を退学になり、これから国外追放となんら変わらない形で隣国へと行くというのにだ。

「あなた達、まるで他人事みたいに余裕があるのね。私は不安でいっぱいだわ。でも教官がいないとあの学校はダメになってしまうのは私にも分かります!」

 そう言うスージィに、幾分表情に力が戻ったシンディが答える。

「まあ、コイツらは半端な鍛え方はしてねえからな。自慢の弟子さ」
「私もあの時カールと一緒に移籍していたら……」

 そう零すスージィに、カールがクソ真面目な顔で答えた。

「……やめておけ。エリートクラスの温い訓練しか受けてこなかった者は冗談抜きで死ぬ。この私も……」

 そして彼の目は遠くを見つめていた。

△▼△

 最後の晩餐は夜更けを過ぎても盛り上がり、各々が聞きたい事、話したい事をぶつけあい、やがて疲れて眠りこけるまで続いた。
 そんな中、シンディは一人裏庭に出て、星空を見上げながら酒をあおっていた。そして、背後に何者かの気配を感じる。

「おお、チューヤ。こっちに来て一杯付き合えよ」
「俺は酒はちょっと……」
「やかましい。師匠の酒だぞ? 断るってんなら強引に口移しで飲ませるぞ?」

 悪酔いしてるとも思えない。普段、酒を勧められる事など一度もなかった。何か事情があるのだろうと察したチューヤがシンディの隣に腰かける。

「まだやってなかったろ、師弟の契りだ。飲め」

 自分が飲んでいたグラスに酒を少しばかり注ぎ、チューヤに向けてくる。

「そういう事なら」

 チューヤもそれを一息に飲み干し、返杯する。

「ふふふ」

 シンディもそれを嬉しそうに飲み干した。そして、いきなりチューヤの腕や肩、背中に胸、腹に太ももと、身体のほぼ全身をまさぐりだした。

「ちょっ!?」

 焦るチューヤだが、シンディの視線は至って真面目。

「いい体つきになったな。これなら纏魔てんまをかなりのレベルで使いこなせる訳だ」
「?」

 シンディはチューヤが拳に炎を纏っていた場面を思い出していた。
 あれは纏魔てんま最終形態の一歩手前。

「纏魔ってのは、自分の身体に魔力を纏い強化するのが第一段階。そしてその状態で敵の魔法をのが第二段階だ」
「ああ……そう言えば」

 チューヤは纏魔を発動した状態で幾度もデヴィッドの火球を受け続けた事を思い出した。無意識ではあるが、確かにデヴィッドの火球を受ける度に自身の纏魔が強化されていく実感があった。

「魔法使いは自分の魔力だけでなく、自然界に存在する魔力を利用できるから魔法使いなんだ。それができねえからお前らは戦士クラスに編入された訳だが……纏魔使いってのはな、敵の放った魔法を喰らって強化する事が出来るんだ」
「だから俺の拳は炎を纏ったのか」
「ああ。正直その段階まで行くとは思ってなかったんだがな。それで、そこに行きついた者は、こういう芸当が出来る」

 シンディはすっくと立ちあがり、背中の長剣を抜いた。
 一見普通の片手半剣バスタードソードに見えるが、握りの部分には透明な水晶玉のような物が四つ埋め込まれていた。

「よっく見とけよ?」

 シンディは纏魔を発動させながら、纏った魔力を片手半剣バスタードソードへと流し込んでいく。

「――ッ!? これは……?」

 チューヤが驚きで目を見張る。
 刃が炎に包まれ、そして氷を纏い、旋風に包まれ、砂鉄を引き寄せる。

「喰らった魔法をテメエの力として使う事が出来るのはさっき言った通りだ。ぶん殴り蹴っ飛ばすのが纏魔の戦い方の基本だが、希少な魔剣を使えばこんな真似も出来るって事だ。そして、お前はすでに炎の魔法剣は使えるはずだ」

 シンディがそう言ってニッと笑う。チューヤの方はまるで玩具を与えられた子供のように緋色の瞳が輝いていた。

△▼△

 翌朝。
 旅支度が整った四人を一列に並ばせ、シンディが声を掛ける。

「いいか。残していく者はアタシが命に代えても守ってやる。だからお前らは絶対に死ぬな。いいか? 絶対だ。これが師匠からの最後の命令だ」
「「「「ハイッ!!」」」」

 いい返事だ。口にこそ出さないが、シンディは満足気にほほ笑んだ。

「こいつは餞別だ。役に立つからよ。上手く使え」

 そう言ってシンディは各自に一つずつ、手渡していく。
 スージィには膝上までカバーするロングブーツを。
 マリアンヌにはレンズに濃い色が入ったゴーグルを。
 カールにはエストックを。
 そしてチューヤには自らが背負っていた片手半剣バスタードソードを。

「……行け」

 師匠のその一言で、弟子たちは振り返る事なくスクーデリア王国を旅立った。






今回で第一章完結です。
若干の充電期間のあと、新展開になります!
ご期待ください!
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